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名を非魏耶と成すは男

御科之守が連れて来られたのは一人の男の前であった。その男の名は非魏耶。齢58である。彼は朝廷から派遣された役人であり、ここではこの御科之守を処刑するための軍を組織している人物でもある。

非魏耶は目の前に連れて来られた御科之守を見据えると、ゆったりとした態度で御科之守に近づいた。

「こやつ、反応がないな。貴様らなにかしたか」

非魏耶は御科之守を小突きながら、連れてきた兵らに問うた。

「い、いえ、母親の方は抵抗されたため気絶させましたが、そのものに関しては発見時からその体であります」

非魏耶はその言葉に嘘はないとみるや、御科之守の顔を手で掴み、上を見させた。

「おい、貴様」

非魏耶は問いかけるが、当に意識がない御科之守には返事をすることができない。

しかし、非魏耶はそんなことは知らずか知ってか淡々と言葉を吐き連ねた。

「貴様、謀反人の息子なんだろう?朝廷より即刻処断の詔が出ているのは知っておるか?」

非魏耶は御科之守の頭を上下に揺する。

「しかしなぁ、儂は貴様をここで殺したくはないのだよ。貴様をここで殺すには惜しいとも思っている。」

そういうと非魏耶は御科之守の顔から手を離した。

「貴様のことは適当に調べさせてもらった。なにせあの男の息子であるからな。その道程で今までの所業を見せてもらった」

非魏耶はそういって懐から一枚の竹筒を取り出した。

「農地の開拓、川の治水工事、田への水引、年貢の軽減……etc。儂はこのようなことをやる者がこの時代にいるとは心底驚いたぞ。地方の役人でありながら、欲にまみれずに民を先ずとして考える者がおるとはな。……そこでだ」

非魏耶は御科之守を見下ろすように言った。

「貴様には儂の補佐となってほしい。もちろん、嫌だと言うのならば仕方がない、ここで即刻処断するしかないのだがなー」

「どうだ、嫌か?嫌だというのならば素直に言ってくれても構わんのだぞ?」

非魏耶は御科之守に諭すように言うと御科之守が反応できるように間を空けた。

しかし、いくらたっても御科之守の返事が無いことから非魏耶は口角をあげた。

「おお、嫌と言わぬということはつまるところ肯定なのだな。ならばこれから、儂の補佐として十分に働いてもらおうかのぉ。」

そう言って非魏耶は笑いながら御科之守に手を差し伸べた。しかし、非魏耶の視線の先、御科之守の意識は未だ無く差し伸べられた手に応じる者は無いことは明らかである。

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