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逃げるだけの男と元勇者な女




《Side.山川 真夜》




「〝絶対逃走スタコラサッサ〟」



 スキルを発動し、俺はモンスターの群れから逃げ出した。


 俺の唯一所持しているスキル〝絶対逃走スタコラサッサ〟は、発動すれば必ず相手から逃げることができ、近くの安全な場所に移動する。

 さらに、閉鎖されている空間でも発動でき、発動を妨害されることもないのだ。

 ただし、自分が悪事を働いて発動しようとすることはできない。

 簡単に言えば、万引きやスリなどをして逃げるときには発動できないと言うことだ。

 それでも抜け道はあって、相手から何かしらの被害を受けたりして良い印象がなければ敵として認識可能となり、発動可能になる。

 ちなみに、安全な場所の基準は半径50メートル以内に危険性の有るものがなく、最低1日は攻撃などが起こらない場所である。


 さて、長々と自分のスキルについて説明してしまったな。

 俺の名前は山川やまかわ真夜しんや

 この世界、ロルクネスに勇者として召喚された…………………女に巻き込まれた人間だ。




       ◇ ◆ ◇




 元々、俺は普通の学校に通う普通の高校生だった。

 腕っぷしも強くはないし、頭もそんなに良くはない。

 強いて言うなれば動体視力と走る力だけはマシな方だったかもな。

 それでも、学校には仲の良い友人がいて、図書室で本を読んだり、休みには友人と家でゲームをしたりと、充分に俺は満足していた。

 あの日が来るまで…………




       ◇ ◆ ◇




 その日も……まぁ、少しだけ分かりやすく言えば、召喚される10日前の日だな。

 その日も俺は友人と話したりゲームをしたりしていたんだ。

 ああ、ちなみに平日だから学校で休み時間で、だ。

 授業をサボったりする奴は友人にはいないからな。

 とにかく、そんな風に学校で過ごしていたんだよ。


 そんな時、急に教室の扉が開く音がしたんだ。

 まぁ、休み時間だから他のクラスの奴が友人にでも会いに来たのだろうと、俺は気にも留めていなかった。

 んで、友人と話を再開しようとしたら友人がポカンとした表情で教室の扉の方を見てるんだ。

 そんな驚くことでもあったのかと俺も振り返って同じ方を見ると、学校でアイドルとまで呼ばれている雪白ゆきしろ姫花ひめかが教室の出入り口にいたんだ。


 まぁ、俺個人としては話したこともない相手に何かを感じろとか言われても無理な話で。

 雪白が来たことに対して何も思わなかった。

 おおかた誰か友人がいるんだろうと、すぐに興味を失ったからな。


 そんで、また友人と話を再開しようとしたら、今度は友人が顔を赤くして挙動不審になったんだ。

 周りを見てみれば似たような反応をしているのがチラホラといた。

 で、ぐるーっと教室内を見回して、自分の後ろを見たんだ。



「山川君。話があるから一緒に来て!」

「は? ちょ、ま──ッ?!」



 いや、驚いた。

 まさか、俺の後ろに来ていたとは全く気づかなかったから。

 と言うか、雪白との接点なんて何もなかったはずだしな。

 しかも、答える間もなく腕を掴まれて屋上まで連れてかれたし。

 連れてかれていく最中に思ったのは、意外に手の力が強くて手が抜けないってことくらいだった。


 屋上に着くと雪白は素早く屋上の扉の鍵を閉め、深呼吸をしだしたんだ。

 その時の俺は、アニメや漫画なら告白のシチュエーションかもな、なんてことを考えていた。

 正直、理解が追い付いてなかったからな。


 しばらくして、深呼吸を繰り返して落ち着いたのか雪白は俺の方を向いた。

 その表情はどこか固く、緊張しているようにも見える。



「山川君、私と…………付き合ってください!」

「は……はぁぁぁああああああ?!」



 さっきと同じみたいだが、本気マジで驚いたね。

 だって、こっちは話もしたことがないやつだぞ?

 なんでそんなことを言われたのか全く理解できなかった。

 つい、周りを見回してドッキリカメラか何かだと思ったね。

 まぁ、何にしても答えは決まっていたが。



「返事は後で──」

「いや、今でいい」



 屋上の扉に向かおうとする雪白に俺は声をかけた。

 雪白は不安そうな顔を向けてきたが、足を止めて俺の方を向く。



「悪いが、俺は雪白のことをそこまで知らない。だから付き合うとかは考えらんないんだ」

「そう……ですか……」



 普通の男子高校生なら喜んでオッケーを出すのだろうけど……自分が普通じゃないみたいだな。

 まぁ、良いか。

 とにかく、俺は雪白の告白を断った。


 理由はさっき上げたものもあるのだが、他にもある。


 まず、俺はなんで付き合うのかが理解できない。

 仮に付き合ったとしよう。

 何か変わるのか?

 デートなんて友達と遊びにいくのと何が違う?

 そんなわけで、俺はなんで付き合うのかが理解できない。


 次に、人の思いなんて変わっていくものだと思っているからだ。

 決別や裏切り、浮気や離婚なんて分かりやすいものじゃないか。

 やった方にとってはどうでも良いかもしれないが、やられた方はとても傷つく。

 だから俺は人からの好意はあまり受け取りたくない。

 まぁ、こっちの理由に関しては単なる自己保身でしかないんだろうが。

 ああ、ならどうして友人がいるのかと言うと、俺の意思で本当に信じられると思える奴だからだ。

 そうだな……親友ってよりかは信友しんゆうっていった感じかな。


 最後に、俺は自分と付き合ったら相手に対して悪い気がするのだ。

 自分に対して良いところをあげてみろと言われて何も答えられない人間だ。

 そんな俺なんかと付き合ったって相手に楽しいと思えさせられる気がしない。


 と、まぁ。

 これが理由の全てと言って良いだろう。



「じゃ……じゃあ、私と一緒にいて楽しいって思えたら?」

「さあ、な。どうなるかは俺にも分からん。とりあえず、今は友人くらいな状態だな」



 おそるおそると言った風に雪白は俺に尋ねてくる。

 こればっかりは俺にも全く予想がつかない。

 ただ1つだけ分かっているのは、俺が信用できると判断できるか否かで全てが決まると言うことだけだ。

 俺の答えに少しだけ不満そうにしながらも雪白は頷き、屋上の扉を開けて去っていった。


 これが、俺の日常が非日常へと変化する切っ掛けだったのだろう。


 事実、その次の日には雪白が俺に告白したことが学校中に知れ渡り、先輩やら後輩やら、果てには教師ですら俺を目の敵のように扱い始めたのだ。

 まぁ、それでも友人は変わらずに接してくれていたのが嬉しかったな。

 さらにその日から雪白が頻繁に俺に会いに来るようになり、男子からは嫉妬と怨みの視線、女子からは期待のこもった視線を向けられるようになったんだ。


 本当に、大変だったな……。




       ◇ ◆ ◇




 と、まぁ、勘のいい人なら気づいているかもしれないが、勇者として召喚された女……これが雪白だ。


 何を思ったのか知らないが雪白は、足元が光った瞬間に俺へと抱きつき、召喚に巻き込んだのだ。

 そして、気がつけばどこかの城のような所にいた。

 正直なところ異世界トリップとやらに憧れてはいたがこんな形で実現するとは思っていなかったな。


 ただ、小説や漫画なんかと違う点があった。

 この世界、ロルクネスはすでに一度(●●●●●)、雪白に救われていた(●●●●●●)ということだった。


 そのお陰なのか雪白はすぐさま順応し、歓迎されていた。

 言語に関しては日本と変わらなかったのが幸いで、言葉が分からないと言うことはなかったのだが、なぜ俺がいるのかは相手にとっては理解不能なこと。

 当然ながらろくな扱いは受けなかった。

 それでも、騎士団長だけはあくまでも普通に扱ってくれ、剣の扱いを最低限だが指南してくれた。


 そして、召喚されてから数日が経過したある日、城内で俺が雪白の恋人ではないかと言う噂が流れ出した。

 俺にとっては身に覚えのない噂なのだが、城内の人間からすれば一大事だったらしく。

 様々な人間から嫌味などを言われたりした。

 分かりやすい例をあげるならば……



「彼女は勇者であり貴様のようなものには相応しくない」

「どんな脅しをして勇者と仲を持っているのやら」

「彼女の美しさに害虫は寄せられるみたいだけど、僕はそれを許す気はない!」



 と、こんな感じだ。

 最後のやつはこの国の王子だとか言ってたかもな。

 まぁ、俺自身は恋人とは思っていなかったので、見下されていることにイラつくだけで他には何も感じなかったが。

 あ、ちなみにキッチリと仕返しはしたぞ。


 例えば、宰相なら横領の証拠を王の机の上に置いたり、王子なら妄想の混じったような痛い日記を雪白の部屋の扉の下から部屋の中に入れたり。

 いやはや、スキルのお陰でとても簡単だった。


 俺が城を出て冒険者として活動を始めたのはそれからしばらくしてからだな。

 ちなみに城を出るときに騎士団長から選別として騎士団長の使っていた剣を貰った。

 まだ使うことができる辺り手入れは万全だったんだろうな。

 それからは特に大きなことも起こらなか──



『『『『『『シンヤ(ご主人様)〜〜〜〜〜!!』』』』』』



 いや、1つあったな。

 こちらに飛んでくる6色の光たちを眺めながら俺は溜め息を吐いた。


 ことの始まりは俺が冒険者生活を始めて1月経過したある日のことだ。

 いつものように採取系の依頼をこなしていたのだが、大量のモンスターに追われるはめになったのだ。

 しかも、目の前にいきなり盗賊たちも現れる。

 流石に八方塞がりなので、俺はスキルを使って逃げ出した。

 スキルを使って逃げた先は洞窟で、どこか人が生活している雰囲気がした。

 面倒なことになる前に俺は洞窟を出ようと扉を開けていくのだが、なかなか出口には辿り着かない。

 そんな風にいくつも扉を開けていくと、ビンに詰められた小さな少女たちを見つけたんだ。

 定番かもしれないがそれが俺と彼女たちとの出会いだった。

 彼女たちは……



赤色『べ、別に感謝なんてしないぞ。でも、一緒にいてやっても……』

青色『役に立つから一緒にいさせてください……』

黄色『助けてくれたから良い人だ〜』

緑色『ついてこ、ついてこ♪』

白色『健やかなるときも病めるときも、死が私たちを引き離そうとしても私はあなたのそばにいます』

黒色『ありがとうございます。ご主人様』



 名前は上から、ホムラ、ヒサメ、ライカ、カザネ、アカリ、ミカゲとなっている。

 それぞれキャラが強すぎるんだよな……。

 アカリにいたってはヤンデレの気があるし。


 あと、なぜか彼女たちは〝絶対逃走〟の効果に当てはまらないらしく、対象にとって逃げることができない。

 しかも、どこに逃げても数時間程度で俺の目の前に現れるのだ。

 俺は彼女たちに取り憑かれたのではないかと思えてしまう。



「……とりあえず、町に戻るか」



 少しばかり遠くに見える町に目を向け、俺はゆっくりと歩き始めた。




       ◇ ◆ ◇




《Side.雪白 姫花》




「〝一途追跡アナタヲモトメテ〟」



 スキルが発動し、私は森の中に転移した。

 やっぱり直接追い付くのは無理だから近くを探していくしかないみたい。


 私の所持しているスキルの1つ〝一途追跡アナタヲモトメテ〟はあるスキルの最終移動地点の1つ前に飛ぶ魔法。

 なぜ最終移動地点に飛べないのかと言うと、そのスキルの効果の影響でスキルなどが効果を及ぼせないからなの。

 まぁ、分かっているとは思うけど、ある魔法とは〝絶対逃走〟のことを指している。

 そう、言うなれば私と山川君……ううん、心の中で位なら真夜って呼んでも問題ないよね。


 とにかく、私と真夜は対になっている。

 つまりは夫婦みたいなもの。

 だから私が真夜を探しているのは何もおかしいことじゃない。



「勇者、アイドル……か。誰も私自身を見てる訳じゃない。ただの勇者、アイドル(あこがれのまと)として見られてるだけ……」



 不意に口をついてこぼれたのは私が思い続けていること。

 自慢かもしれないが、私は自分の見た目が良いものだと思っている。

 町を歩けば色々な人に見られるし、剣を振るえば喝采が起こる。


 ……でも、それになんの意味があるの?


 私自身は特に何かをしているわけでもないし、剣を振るったのだってモンスターたちが私を襲ってきたから。

 私は自分のために行動したのだ。



「ちやほやなんてされたくない。私を……私自身を見てよ」



 呟きながら私は真夜のことを知った日のことを思い浮かべた。




       ◇ ◆ ◇




 私が始めて真夜のことを知ったのは、高校1年生の時。

 合同授業でペアを組むことになったときのことだった。

 私とペアを組みたいと言う男子が多く、時間が無駄になってしまうのでジャンケンで一気に減らそうとしたのだ。

 そんなとき、男子の集団から1人の男子が抜けてきた。

 もう負けたのかな、とも思ったけど、まだジャンケンのかけ声はしていない。

 だから彼は私と組みたいとは思っていなかったのだろう。

 その事実に私は少し驚いた。

 さっきも言ったけど私は自分の見た目に自信がある。

 だから私と組もうとする男子はいても、組もうとしない男子はいないだろうと思っていたのだ。

 それが私が真夜のことを始めて知った日のこと。


 それから、私は少しずつ真夜について調べてみた。

 彼女がいるから私に興味がないのかと思って調べても、彼女のかの字もなく。

 男好きなのかと思って調べても、普通の男子高校生。

 アニメとかにしか興味がないのかと思って調べても、そんなことはなかった。

 調べれば調べるほどに真夜のことが分からなくなっていく。

 真夜は、どんな女性が好みなのかな……


 そして、気がつけば私は真夜のことを考えることを楽しくて辛く思えるようになっていた。


 真夜のことを考えてなんだか楽しくなって、真夜が私に対してどう思っているのか分からなくて辛くなる。

 その思いは日を追う毎に強くなっていった。




       ◇ ◆ ◇




 私がロルクネスに召喚されたのはそんなある日のことだった。


 召喚された私は見た目のお陰なのかすぐに信用され、勇者として必要なことを学んでいった。


 そして魔王を討伐する旅では困難なことが多くあった。

 ドラゴンを倒したり、王子に告白されて断ったり、ゾンビの大群を倒したり、賢者に嫁宣言されたから張り倒したり、毒に侵される仲間を助けたり、とにかく様々なことがあった。


 それでも私はふとした時に真夜のことを考えていて。

 もとの世界のことをとても懐かしく感じた。


 だから、私は魔王を討伐してからもとの世界に戻り、真夜の姿を見てとても嬉しかった。

 思わずクラスに入って屋上まで連れていって告白しちゃったけどそれは問題ないはず。

 それに私は真夜が私のことを受け入れてくれると信じている。


 だから私はこれからも真夜のことを追いかけていこうと思う。









 あ、そうそう。

 私がもう一度召喚された理由は魔王の復活と、王子との婚約をして欲しかったかららしい。

 いや、正直あの王子はダメな気がする。


 だから私はなんとか拒否しようと行動したのだ。

 そのせいで真夜がいなくなったことに気づくことが遅れてしまったけど……


 ちなみに真夜の周りにいる6人の妖精の内、アカリと呼ばれている妖精は私のスキルで作り出した妖精だよ。

 一応は私の性格なんかをベースに構築したつもり。

 妖精は無邪気と言う理由で〝絶対逃走〟の効果から外れているんだと思う。




       ◇ ◆ ◇




《Side.第3者視点》




 その後、真夜が魔王の住みかに〝絶対逃走〟で転移をし、魔王の裸を見てしまい、結婚を迫られたり、妖精たちが急成長をして真夜に迫ったり、そこに姫花が加わって三角ならぬ九角関係のようになったりするのだが。

 この時の2人には全く想像もつかないことであった。









逃げるだけの男と元勇者な女...END






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[良い点] 読みやすく工夫されてて良いと思います [一言] 発想が面白いので、良いと思います 連載してくれてもいいのよ?
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