雨の中で・・・・・・・
傭兵の国盗り物語を読んでくださっている方々へ。
作者のドラキュラです。
今回はリカルドが反乱を起こす前の話を投稿させていただきます。
敢えて短編にしたのはリカルドが個人的にも好きなキャラクターだからです。
物語上・・・彼は避けられない運命です。
彼を産み出した私ですが、彼には幸せになって欲しいと思わずにはいられません。
キャラに必要以上に感情を入れるのは作者として、どうかと思いますがどうか勘弁して下さい。
天を暗く染め上げて、地上に留めなく振り続ける雨。
その雨の中を一人の男が歩いていた。
両手で包み込むようにして持っているのは花だった。
白い布に包まれた花は紫色の花でサルバーナ王国の辺境の地に咲く花だ。
紫色はサルバーナ王国では不吉な色とされており忌み嫌われている。
この花の色は紫色。
首都に行けば誰もが嫌い目を背ける花だ。
しかし、この地では死者に対する手向けの花とされている。
花言葉は・・・・・永遠の愛を意味しているが、同時に贖罪・懺悔などの花言葉もある。
花の名前は・・・・ファミラス。
サルバーナ王国では「私の光」を意味し、初代国王であるフォン・ベルトが亡き妻に求婚する時に送った花とされており、また亡き妻に対してこの花を墓前に供えていたと言われている。
そのためこの花を死者に手向ける花とされた。
その伝承をこの地は引き継いでいるのだ。
いや、この地だけではない。
地方では・・・首都から言わせれば未開の地では未だにフォン・ベルトの伝承などを未だに大事にしている。
首都だけがそれを行わないし誰もが忘れ去っている。
首都なのに嘆かわしい事だ。
雨が降る中を歩く男いや青年だった。
年齢は20代で髪は暗い中でも輝きを失わない金色で碧の色は豊かな自然を表現しているように見える。
顔立ちも悪くないし衣服なども裕福に見える。
しかし、着ている服は軍服で身体付きも何処か実戦向きに鍛え方をされていた。
腰には剣を1本腰に下げていた。
彼が歩いていると前方から2人の男が歩いてきた。
どちらとも年齢は青年より年上であり裕福な服を纏っていた。
2人の男は青年の前で止まり会釈をした。
「・・・・我々は先に済ませました」
右側に立っていた男が口を開いた。
年齢は30代で狼のように誇り高いが狡猾な色も宿していた。
だが、今は沈痛な表情だった。
左側に立っている男は雨の中でも解かるほどに泣いていた。
彼もまた青年と同じ気持ちなのかもしれない。
「先に・・・行っていてくれ。妻と二人切りになりたいのだ」
「・・・御意に」
男は頷くと泣いている男の肩を軽く叩いて足を進めた。
そして青年もまた足を進めた。
彼が着いた場所の前には黒く小さな墓石があった。
『我が愛する妻、ローラ・ウェスビー。ここに眠る』
何度読み返しても墓石に書かれた文字は変わらないし消えない。
これを見る度に青年は何度も心臓が鋭く痛むのを感じずにはいられなかった。
もう、この世には、何処を探しても自分が愛した女は存在しないのだ。
もう・・・身体は無く灰だけが埋葬されているのだ。
それを思うだけで心臓が張り裂けそうな痛みを襲う。
青年は墓石に書かれた文字から視線を逸らして下を向いた。
何本もの花が供えられていた。
先ほどの2人が供えた花もあるだろうが、それ以外にも花は供えられていた。
花は色とりどりで、多くの人の想いが込められている事を痛感した。
青年はかつての過去を・・・懐かしい昔に思いを馳せた。
彼女は皆に愛されていた。
何処へ行っても優しい視線と声を掛けられて、子供たちからは母や姉のように慕われていた。
そんな彼女に自分は恋をした。
彼女はそれを受け入れて結婚した。
周りはそれを祝福し、彼女には敬愛を込めて「王妃様」と呼ばれた。
毎日が幸せで楽しかった。
だが、幸せな時間は短かった。
まだ20になったばかりで命の灯火を消した。
いや、消されたのだ。
突然の病に倒れたのだ。
首都にある薬剤店にある薬を飲めば、彼女は助かった。
薬だけではない。
食料、衣服、財産、全てがこの地・・・・・地方には無かった。
その為に、彼女は若くしてこの世を去った。
首都が彼女を殺したと言っても過言ではないだろう。
地方が税を出すのに首都は何も地方にはくれない。
薬を求めても門前払いをされた。
首都の者たちから言わせれば地方は全てが見た事も言った事も無い“辺境”の地であろう。
だが、そんな所にも人々は根を降ろし、自然と共存しながら逞しく生きている。
そして首都を支える為に毎日、汗水垂らして税を収めているのだ。
その支えとなっている彼等を首都は一度も褒めずに居るし、見向きもしない。
それ所か更に税を課し始めた。
首都が課した重税に喘ぎ、その日を生き残るのに必死になった。
また共存している自然も時には氾濫を起こし彼等を苦しめた。
何度も首都に重税を少しでも軽くしてくれ。
何度も首都に助けを求め、今の境遇を切実に訴えた。
人も送った事もある。
だが、駄目だった。
この地を治めていた者も首都へ行ったきり帰って来なかった。
後で知った事だが、首都に多額の“袖の下”を握らせて中央貴族へ変わったのだ。
その男に嘆願した。
この地に住んでいた者なら、この地に住む者たちの苦しみを分かってくれると思っていた。
しかし、それも無駄だった。
会う事も許されずに門前払いを受けた。
青年は目を閉じて、彼女が最後に言い残した言葉を思い出した。
『・・・愛しい貴方。この地にも・・・・何時か光が灯されるのかしら?』
弱々しく出された手を握り、自分は叫びに等しい声で答えた。
『勿論だっ。何時の日か、必ず光が灯される。灯されないなら私が灯す!!』
それを彼女は聞いて、微笑んだ。
『・・・・・ありがとう。愛しているわ』
そして事切れた。
あれから数年が経過した。
それまでの間に青年は悩んだ。
この土地を引いては虐げられている民達を救うには、もう最後の手段しか残っていない。
だが、それは神の教えにも反している。
血で染められた道を最後まで歩き続ける事になる。
多くの血が流されるだろう。
しかし、このままではまた次なる犠牲者が出てしまう。
それを思うと、彼は我慢が出来なかった。
青年は目を開けて雨が降る中で花束を墓前に供えた。
「・・・・君が居なくて寂しいよ」
初めて青年が声を発した。
雨が大量に降り注ぐ中でもハッキリと聞こえる声だが、同時にとても哀しい声だった。
「私は、・・・・・私は全力で訴えた」
この国の現状を、この国の地方を、救済を・・・・・・・・・
「しかし、奴等は私の訴えに耳も貸そうとしなかった。それ所か私を・・・地方を蔑んだ」
首都さえ栄えれば、自分達の懐さえ喜べば、それで良いと奴等は言ったのだ。
地方は首都を支える為の働き蟻で代わりは幾らでも居るとまで言ってのけた。
国の舵取りを行うという大事な任務を請け負っている彼等は、地方に住む者達を奴隷としか考えて居なかったと痛感させられた。
「こうなっては・・・もう決行するしかない」
青年は意を決したように厳しい顔つきで言った。
それに対して墓石は無言だった。
ただ、まるで雨が墓石に代わり泣いているように見えてしまう。
「荒治療だが、こうする事でしか奴等の目を覚ます手は無いんだ」
私のやる事は神の教えに反しているし、道徳的にも反している。
多くの血が流れる事だろう。
その中には何の関係のない者も居るかもしれない。
こんな事を仕出かす奴等は惨めな最後を遂げると決められている。
そしてそれを仕出かす自分もまた惨めな最後を遂げる事だろう。
死んだ自分をきっと皆は末代まで忌み嫌い呪う事であろう。
だが、それでも良い。
この国を・・・この土地に光を灯せるならそれで良い。
例え君が居る天国には行けずとも・・・・・・・
この身を地獄の業火で焼かれようとも・・・・・・・
「どうか、私を軽蔑しないでくれ」
青年は墓石に視線を戻して言葉を紡いだ。
「お願いだ。私の気持ちを解かってくれ・・・・・どうか遠くから見ていてくれ」
必ずこの地に光を灯してみせるから・・・・・・・・・・・・・・・・
その数日後に彼は・・・・・リカルド・ウェスビーはサルバーナ王国の首都、ヴァエリエに向けて兵を進軍させた。