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第2話「鹿の導き」

>TIME: 3330:04:12 ENVIRONMENT STATUS: OPTIMAL

>MODE: TUTORIAL PROTOCOL

>CORE EXECUTION: INITIATED

1.女:二度目の願い

女は、霧の中をあてもなく歩いた。心臓は鼓動を打つというよりも、喉から飛び出しそうなほど激しく脈打っていた。さっき湖畔で起こった出来事は、夢か幻か判別がつかないほど異様だった。男への恐怖、そしてあの触手の得体の知れないものに対する恐怖が、ただ無意識に女の足を前に進ませていた。

どこかに辿り着きたかった。どこへ行けばいいのか、誰に助けを求めればいいのか、全くわからなかった。


女:

「・・・助けて」

ついに体力の限界を迎え、女は立ち止まり、近くにあった大木に背中を預けて崩れ落ちた。木肌のゴツゴツとした感触が、意識を繋ぎ止める唯一の感覚だった。

足の裏がひどく痛む。そういえば、彼女は裸足だったことに気づいた。ひんやりとした冷気が体温を奪っていき、手足の末端が痺れてきた。


女:

「・・誰か・・」

泣き出しそうなか細い声になりながら、膝を抱え込んで体育座りをする。


2.鹿の出現と導き

ふわりと、あたたかい何かが足に触れた。

つんつん、と、続けて何かの感触がする。警戒しながらも、重たい顔をどうにか上げると、そこにいたのは一頭の鹿だった。

鹿は驚くほど近くにいた。大きく澄んだ黒い瞳が、こちらをじっと見つめている。森の獣たちの鳴き声が止んでいたはずなのに、この鹿はなぜそこにいるのだろう。


鹿は再び、細い鼻先で女の足先を優しく突いた。その動きは威嚇ではなく、まるで女を促すかのようだった。

恐怖よりも、その鹿の穏やかな眼差しに引き込まれ、女は手を伸ばした。震える指先が、鹿の柔らかい鼻先に触れる。

鹿は逃げるどころか、優しく頭を女の膝元に擦りつけてきた。その体温が、冷えた皮膚を通してじんわりと伝わってくる。


3.鹿との別れ

鹿に促されるように、女は痛む足を引きずりながら、ふらふらと立ち上がった。全身が冷え切り、感覚がない。

鹿は女を支えるかのようにすぐそばに立ち、女が歩き出すと、まるで番犬のように静かに先導した。その体毛は霧に濡れてしっとりとしていたが、確かに温かかった。


鹿が見る、わずかに霧が薄い方角に向かって歩き出す。鹿の足取りは驚くほど静かだった。

鹿は時折立ち止まり、女を振り返る。その瞳は、女が進むべき道を知っているかのように見えた。女は自分の理性や記憶を失っているが、この獣の理性に完全に依存しているという奇妙な状況に、わずかな安堵を覚えた。


どれほど歩いただろうか。霧は徐々に晴れ、目の前に、人間が踏み固めたらしい土の道が見えてきた。

安堵した瞬間、鹿は女の服の裾から口を離し、音もなく身を翻した。


女が「待って!」と手を伸ばす間もなく、鹿は霧の中に溶け込むように消えていった。

女は一人になり、再び恐怖と不安に襲われた。目の前の道をトボトボと歩く。やがて、森を抜けて広場に出た。


まず目に入ったのは、草むらに寝転がって、熱心に本を読んでいる男だった。

彼は、鎧も剣も持たず、質素な服を着ていた。細身で、鼻の上に銀縁のメガネを乗せている。


4.臆病な文官の計算

男はため息をつきながら、森の少し外側に寝転がっていた。

馬鹿げたお告げと「神の子」を信じて、屈強な男たちが山ほどこの森に入っていった。全員、血の気の多い肉体系の連中だ。


男:

「何がお告げだ」

俺の祖母ばーちゃんは、この森について散々「あそこには入るな」と口酸っぱく言っていた。恐ろしく、何かが棲む森なのだと。

無能で小心者の俺は、雇い主に言い訳できるように、森の入り口付近をうろうろし、他の参加者が森で殺した獣たちが置いていった皮や角だけを集めていた。『頑張りましたけど、ダメでした。せめてお土産です』とでも言って持って帰れば、命までは取られまい。


元々、俺は文官役人なのだ。書類を整理し、計算をし、嘘の報告書を作るのが仕事だ。こんな森の奥深くで「神の子」を探すような肉体系の仕事を任せる方が悪い。

角を馬の鞍にくくりつけ、日が暮れるまで時間を潰そうと読書していると、霧が動いたように見えた。まるで幕が引かれるように、森の入り口付近の霧が一気に薄くなった。


そして、薄い服を着た女が一人、よろよろと森から現れた。

その女は、まるで戦場に迷い込んだ少女のように、恐怖に怯えきっていた。足は裸足で、服は引き裂かれ、汚れていた。


男:

「おい、お前!」

思わず声を上げた。まさか挑戦者の中に女がいたのか? いや、こんなか弱い女が、あの猛獣が跋扈する森の奥まで行けるわけがない。

女は俺と目が合うと、目を見開いて立ち止まり、警戒心と恐怖を露わにした。

俺はすぐに直感した。


男:

「こいつだ。神の子だ」

しかし、俺はあの肉弾戦屋の連中ではない。どうする。ここで力ずくで捕まえれば、俺でもできる。だが、その後の後始末や面倒事が嫌で仕方ない。俺は肉体系の仕事を任されるのが嫌なのだ。

女がこちらを見て、不安げな表情を浮かべた。

俺は慌てて、最も穏やかな声を出した。


男:

「落ち着け。俺はケヴィンだ。あんたを助けに来たんだ。あんたの名前は?誰にやられた?」

女は何も答えなかったが、その泣きそうな瞳は、俺の言葉に安心したように見えた。


5.文官の保護と取引

ケヴィンは、迷いなく自分の羽織っていた上着を脱いだ。

ケヴィン:

(彼女の裸足と乱れた服装は、砦に入ればすぐに厄介な尋問の対象になる。隠さなければ。面倒事の回避が最優先だ。)

ケヴィンは女の震える肩に、自分の上着をそっと羽織らせた。

上着の背中に刺繍された紋様が目に入った。それは幼い頃、ばーちゃんが「魔除けだ」と言って、神様のマークを縫い付けてくれたものだった。


ケヴィン:

(もしや、このマークが効いたのか?あの血生臭い連中からこの神の子を守るために、俺が選ばれた……なんてことがあるわけないだろう。俺は文官だ。)

女は上着の温かさと、ケヴィンの静かな口調に、少しだけ緊張を緩めた。


ケヴィン:

「よし。『チビ』を呼ぶぞ。馬は大丈夫か?」

ケヴィンは指笛を吹き、すぐに短足だが丈夫そうな一頭の馬が、森の影から駆け寄ってきた。

女はじっと馬を見る。チビは人懐っこく女の顔に鼻先を擦り付ける。女は困ったように笑った。


ケヴィン:

「俺に手を」

俺が手を出すと、女は遠慮がちに俺の手を取った。ケヴィンは女を鞍の上に抱き上げ、そして自分も馬に飛び乗った。


ケヴィン:

「行くぞ。君の居場所だ」

馬は、辺境砦の門へと向かって、泥道を駆け出した。


6.ケヴィンの悪知恵と決断


さて、どうするか。移動しながら考える。


人道的には、この女を保護し、安全な場所へ連れていくべきだ。しかし、神の子となれば、王都に連れて行かないといけない。誰が責任者になる? めんどいごとは避けたい。地位と名誉はいらないが金は欲しい。うっかりすると俺の人生は面倒と責任と血まみれの肉体労働に支配される。


俺はふと、一人の人物のことを思い出した。それは、俺の幼馴染で、お人好しの自衛団団長だ。あいつなら、この女を責任持って預かるだろう。

俺に仕事を押し付けた、じゃない、任命した上司よりは、あっちのがマシだろう。

俺はチビの首筋を叩き、目的地を自分の所属の素材課ではなく、砦の本部へと定めた。


7.無意識の真実

馬を走らせながら、女の薄い服が破けているのは、一体誰にやられたのだろうかという疑問が湧いた。


ケヴィン:

「なあ、あんた。さっき、森で誰かに会ったか?」

女は、俺の問いに初めて反応した。その瞳は湖畔の恐怖を思い出したかのように怯えているように見えた。


ケヴィン:

「そうか」

俺は深く聞かなかった。

誰なのかナニなのか。

あそこは死の森なのだ。


>TIME: 3330:05:30 TARGET ENCOUNTER: SUCCESS

>HQ_FLUC: LOW

>DQ_LEVEL: UNSTABLE

>AUDIT PROCESS: CONTINUING OBSERVATION

執行官:「雑種の生態も要研究だな」

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