星間連絡船
星間連絡船スターバス787号便にご搭乗のお客様へご連絡申し上げます。
出発時刻まで一時間となりました。御手続がお済でないお客様はお急ぎ願います。
瀬能「・・・・恒星外旅行は久しぶりですよ。恒星内ばっかりでしたからね。」
皇「お前はくっ付いて来ただけだろう。」
瀬能「そんな事いわないで、連れて行って下さいよぉ。」
皇「いいか、向こうに着いたらお前の思いつきは、全部、却下だ。私が羽根を伸ばす為のバカンスなんだからな。いいな?」
瀬能「いいです、いいです、それでいいです。私、アルファケンタウリなんて、行った事なかったんで。是非、行ってみたいと思ってまして。一番近い恒星系なのに、行こうと思うと、やっぱり遠くに行きたくなっちゃいますよね。アンドロメダとか。」
皇「知らねぇよ。そりゃぁ人の好き好きだろ。」
瀬能「最近、私の楽しみは旅行くらいしかありませんよ。」
皇「まぁ。娯楽っちゅう娯楽もないからなぁ。それは。」
瀬能「そうでしょう?」
皇「旅行って言っても、だいたいは映像で体験できちゃうから、行く必要もないけど、でも、ま、やっぱり、実際行ってみると、違う発見があるかも知れないしな。」
瀬能「情報体験と、真の体験はやっぱり違いますよ。」
皇「私はなんでもいいんだ、息抜きできりゃぁ。それでいい。」
瀬能「スターバス787号。・・・・・ちっちゃいですね。」
皇「そりゃそうだろう。銀河往復するわけじゃないし。隣だし。それにLCCだし。すぐ着いちゃうしな。」
瀬能「宇宙船も昔は、いろいろデザインされましたけど、結局、卵型の宇宙船ばっかりになちゃいましたね。」
皇「正確には楕円球だけどな。こうやって、無重力に停泊しているなら、一面を平にする必要もないし、抵抗がないんだから羽根を付ける必要もない。隕石と一緒だ。エネルギー効率を考えたら、丸がいちばん効率がいいんだ。」
瀬能「宇宙船ギャラクティカとか好きだったんですけどね。ガンダムとかの母船も。」
皇「ホワイトベースとかザンジバルなんかはほら、地球にも降下するだろ?だから、重力に対する、底面が必要なんだよ。ずっと宇宙にいるんならラヴィアンローズみたいになるんだ。」
瀬能「二〇〇一年宇宙の旅の宇宙船が、原点にして頂点でしたね。理に適っているデザインだったって訳で。どの時代にも天才っているんですね。」
皇「銀河鉄道九九九なんかは劇中で、あえてノスタルジックな印象を与える為、機関車の形にしたって言ってたな。だから、機関車にする必要はないんだ。」
瀬能「九九九以外の列車?っていうんですか、銀河超特急の列車は、宇宙船っぽいイメージですもんね。」
皇「あそこら辺は、原作者の松本先生が、設定、コロコロいじくるからな。アニメとかのたんびに、設定が変わるから、同じだと思うと、混乱するぞ?」
瀬能「メーテルとエメラルダスの関係性とかですか?」
皇「そんな事いったらお前、母ちゃんのプロメシュームなんて、どう解釈していいか、わからないぞ?」
瀬能「・・・・松本作品は全部、闇落ちで、説明が付きますから。」
皇「つかねぇーよ。とりあえあずあの親娘。なんかみんな似たような冴えない男、好きになるよなって所だけだ。あれ、遺伝だぞ?」
瀬能「見た目は、男おいどんですけど、みんな、宇宙の戦士ですから。やるときはやるんですよ、だから、惚れちゃうんですよ。」
皇「惚れてるかどうかわからねぇぞ? ただのショタコンの可能性だってある。」
瀬能「みんな性癖ゆがめられてますもんね。宇宙の最恐親娘ですから。」
皇「機械の体をくれるとか、すげぇ話だけれど、」
瀬能「タダで機械の体にしてくれるって、普通に聞いたら、あり得ない話ですけどね。聞いただけで詐欺じゃないですか。」
皇「アンドロメダまで行けば、機械の体、くれるって言うんだろ? でもさ、一話で、たぶんあれ、東京駅だろ?」
瀬能「メガロポリス中央ステーションです。」
皇「メガロ?知らねぇよ。あそこの駅に機械人間、いるんだよな。あの機械人間はどこで機械の体を手にいれたんだ?」
瀬能「よく分からない科学技術が発達している世界ですからね。お金さえ出せば、どこでも、機械の体を買う事は可能なんじゃないんですか? 今の私達と一緒で。」
皇「ああ。どうしても貧乏で、金がない奴が、アンドロメダまで行けば、タダで機械の体をくれるって寸法か。・・・・アホか?まず、アンドロメダまで行けないっちゅーねん!」
瀬能「そうですよね。・・・・・アンドロメダまで行ける旅費を持っているなら、機械の体を買っちゃった方が安いですもんね。アンドロメダ、惑星メーテルは最終駅、最果ての惑星っていう設定ですから。高額も高額。ニ億五千万円。現代のレートに換算したら一体いくらになるのやら。湯水の様にお金を持っている人しか行けません。ホリエモン、ゾゾの前沢さんとか、機械伯爵とかね。」
皇「あいつ、なんなん?」
瀬能「・・・・漫画上の宿敵じゃないですか。漫画上。」
皇「伯爵はいいわ。伯爵は。位だから。地位だから。でもよ、時間城ってなんなんだよ?SFにSFをいれるなよ! 過去に戻れるじゃねぇか、過去に戻って、お母さん、助けろよ!」
瀬能「それは瑠思亜。言わない約束ですよ。男と男の約束ですよ。・・・・・・ミルク、飲みますか?」
皇「あの当時だよ。七十年代に、いくら漫画、演出とはいえ、人間狩りを予測していた松本先生はやっぱり天才だとは思う。」
瀬能「本当の世界、リアルな世界で、人間狩りが行われるなんて松本先生も、そこまでは想像していなかったでしょうね。」
皇「人間の黒歴史だ。何千何万何億。地球の半分が死んだって、今となっては、歴史の教科書だ。二極化がすすめば、強者が弱者を、支配する。漫画の通りだよ。」
瀬能「だからと言って、弱者をなぶって殺す理由にはなりません。人には理性がありますから。」
皇「戦争中に、そんな、甘っちょろい事、言ってられるか。反対に殺されるぞ。敵は、目に見える敵だけじゃねぇ。背中越しに見ている奴だって、いつ、引き金を引くかわからねぇんだ。自軍だろうが、友軍だろうが、関係ねぇ。・・・・戦争は人間を変えるんだ。」
瀬能「その最悪の戦争から一転、我々は、立ち上がって来た訳ですけれども。今度こそ真の平和を樹立できるよう、人類は、知恵と勇気で、進化してきたわけです。これも歴史の教科書に載っている事ですけどね。」
皇「小説や漫画で、魔王とか独裁者が求めていた、永遠の命も、現実になっちゃったからなぁ。・・・・もうリアリティがねぇんだよ。それは弊害だよな。」
瀬能「そうですね。魔法や未知なる力で永遠の命を手に入れる、ではなくて、機械化による永遠の命。いわゆる不老不死。」
皇「ま、現実的だよな。魔法とかファンタジーじゃなくてパーツを換装するんだから、そりゃぁ、寿命が永遠になるわなぁ。」
瀬能「でもですよ、現実問題、このサバネティック化じゃなきゃぁ、仕事にならないじゃないですか。とてもとても生身じゃぁ生きていけませんよ。」
皇「生身の人間がいなくなったから、人間狩りがなくなったのも、皮肉って言えば皮肉なもんだな。反対に言えば、サイバネ化しない限り、人間は馬鹿だから、人間狩りなんて蛮行をずっと、行っていたわけだろ? ほんと人間は馬鹿だよ。」
瀬能「人類を代表して、お礼を申し上げます。」
皇「・・・・お前が人類を代表すんな!」
瀬能「人類はサイバネティック化、機械化で、これまで解決できなかったあらゆる問題を解決に至りました。私的には、新しい紀元。人類が新しい一歩を踏み出したと言って過言ではないと思います。」
皇「西暦なんて言って、イエス以前、イエス以後と、歴史を分けているけれど、サイバネ化以前と以後で、まるで、お猿とホモサピエンスくらい、進化したからな。人類は。」
瀬能「新しく紀元を儲けるべきですよ、国連は。」
皇「それは言えるな。」
瀬能「人類が行ってきた、愚かな戦争。それが根絶された。これは大きい。人類はサイバネティック化することで、もっと高度で理知的な生き物へ進化しました。何故、戦争が起こるのか。簡単な話です。・・・すべては差別から始まるのです。」
皇「人種差別、性別差別。同じ人種であったって、土地や宗教、思想、信条。飢え、経済格差、貧困、教育。ちょっとした問題が恨み、妬み、嫉み、戦争への火種に繋がるんだ。人を呪わば穴、二つってよく言ったよな。・・・・戦争で人を殺して、押しのけた所で、いずれそれは、違う形で自分に降りかかる。」
瀬能「じゃぁいつまで、一生、飛んでくる火の粉を避けなければならないんですか? そうです。地球で、最後の一人になるまでです。誰もいなくなれば、厄災は訪れませんからね。」
皇「ま、それは現実的ではない。当然だ。自分以外の全員を殺す事なんて理論上、無理だからだ。」
瀬能「ですがそれを人類は克服しました。自分の体をサイバネティック化することで克服したんです。」
皇「死なないんじゃぁ、殺す必要もないし。殺す事が無理なんじゃぁ、紛争が起きようもない。殺した所で死なないからな。」
瀬能「機械の体になることで、寿命は永久。老けもしないし、病気もしない。疲れる事もないから、好きなだけ働ける。おまけに、食べなくて済むから、飢える心配もない。飢餓、貧困、教育、ちょっとした問題があっと言う間に解消されてしまいました。副次的ではありましたけど。」
皇「どこにでも住めるし、どこにでも行ける。そうなれば、土地や国家の意味が自動的に無くなる。国家間の戦争がなくなったんだ。そうりゃそうだ。土地にしがみついていたり、権力にしがみつく意味がなくなるんだ。国家という国単位の意味がなくなる。」
瀬能「地球が、人類が、有史以来、はじめて、本当の意味で一つになった瞬間です。」
皇「永久に生きられるんだから、子孫を残す必要もないし、子供にかかる教育費もいらなくなる。相続とか、権利の譲渡とか、まったくのナンセンスになったんだ。」
瀬能「これまで生身の体では行く事が困難だった場所に容易に行けるようになり、それは、働き場所の間口を広げる事となりました。深海、宇宙、砂漠、ジャングル。行けない所はどこもありません。むしろサイバネティック化していなければ、そういう所で働けませんし。」
皇「だいたいだなぁ。星間移動するのに、何年もかかるんだから、機械化してなきゃ移動もままならねぇだろ。」
瀬能「宇宙線もありますからね。紫外線は天敵です。」
皇「ばかやろう、電磁波とかフレアの方が、よっぽども天敵だろう?」
瀬能「実際、作業を行うのは、それ専用のロボットですけどね。」
皇「監視するのも、仕事だろう?」
瀬能「ぜんぶオートだから、ここ百年は、監視もろくにしていないですけど。壊れてもオートで修復してくれますし。・・・・・ストレス溜まる一方ですよ。」
皇「娯楽がないからなぁ。・・・・シャットダウンしちゃえば、設定された日時まで、起きる事もないしな。」
瀬能「起きてもすることないですけど。」
皇「あのなぁ、全人類が、お前みたいなクソニートだと思うなよ?」
瀬能「だいたい全人類、私と一緒の引き籠もりじゃないですか。ニートですよ。」
皇「だぁかぁらぁ、こうやって、たまに、旅行に行くんだろ。実際、足を使って。暇つぶしに。」
瀬能「近くの恒星系のアルファケンタウリじゃなくて、行くなら、もっと、遠くの他所の銀河系に行くべきですよ。何光年って暇をつぶせますよ。」
皇「お前。・・・・暇はつぶせても金、かかるだろ?」
瀬能「惑星メーテル行きますか?タダで機械の体、もらいに。」
皇「・・・・あれもよく分からないよな。人間を機械にする意味が。意思を持ってたから反対に崩壊した訳だろ?」
瀬能「人間は社会の歯車、機械の一部だっていう、松本先生の人間社会に対する批判だったんじゃないかと私は、考えていますが。」
皇「いや、ただのホラーだとしか思えないけどな。」
瀬能「千年女王からのくだりで考えてみて下さい。」
皇「千年って言ったら、あっと言う間だぜ?千年なんて昨日だよ。」
瀬能「永久を生きる私達にとっては、そうかも知れませんけど。」
星間連絡船スターバス787号にご搭乗のお客様にご連絡いたします。
ご搭乗がお済でないお客様は、早急に、ご搭乗をお願いします。
瀬能「あ、もう、時間ですよ。行きましょう。」
皇「アルファケンタウリに行ったら、まず、ケンタウロスの顔はめパネルの写真、撮るからな。」
瀬能「嫌ですよ、そんなの。」
皇「ただ、たまぁ~に思う事があるんだ。」
瀬能「なんですか?」
皇「ただ黙って仕事をしている機械。工場の生産ラインの機械。あの機械と私達って、違いがあるのかなって?」
瀬能「なんですか、それ?」
皇「お前、頭のフタ、開けて、自分の脳みそ、見た事あるか?」
瀬能「やめて下さいよ、銃夢とか攻殻機動隊みたいな事、言わないで下さいよ。」
皇「お前が人間って保障あるのか? 私が人間って保障あるのか? たまたま、人間って言う仕事を与えられている機械じゃないか、って思った事、ないか?」
瀬能「そうですよね、人間がいなくなれば争う原因が無くなりますからね。」
皇「いや、その通りなんだが。」
瀬能「生身だろうが、機械だろうが、私達は社会の歯車であることに、違いはないじゃないですか。生きていようが、死んでいようが、生身だろうが、機械だろうが、どうせ私達は、部品でしかないんですよ。そこに意思なんか存在しない。ただの部品。それは今も昔も変わらない。
あなた、自分だけ特別と思っていませんか? あなたも私も一緒です。
考えるだけ、損ですよ。あはははははははははははははははは あはははははははははははははははははは
私達は部品。駄目になればすぐ新しい部品に交換され、廃棄されるだけの、部品なんですよ。
あはははははははははははははははははは あはははははははははははははは あははははははははははははははははは」
※全編会話劇




