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驕れる王は久しからず  作者: 神酒てんこ
第一章:名を問う者
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九話 名


 黒い太陽が砕かれた音が、まだ耳の奥に残っていた。神殿の中央、瓦礫と化した御神体の前に、男は立っていた。その足元に膝をついたまま、彼女はうずくまっている。

 空は遠く、天蓋は高く、声すら跳ね返す大理石の床が冷たい。

 息が荒い。鼓動が煩わしい。身じろぎ一つで、衣擦れの音が響いた。

 


 なぜ、自分はこうして“生きている”?

 なぜ、目の前のこの男が、自分を見下ろしている?

 その問いに答えるように、冷えた空気の中に声が落ちた。

「……名を」

 ただ、それだけだった。男の声は感情もなく、無機質な音のように響く。問いというより、確認。命じるでも、求めるでもない。あまりにも自然に。この世界の誰しもがそうするように、ただ名を問う。だが彼女には、それが──存在を許される音に聞こえた。

 名乗ることさえ赦されなかったあの記憶が、胸を締めつける。

 頭の中が白くなる。何も言えない。だが、このまま黙っていたら自分はきっと、本当に溶けてしまう。

 だから、震える声で答えた。

「……○○、です」

 それは誰にも必要とされず、存在すら許されなかった名前。誰にも呼ばれず、誰にも触れられず、ただ一人きりで抱え続けた"恐怖"。

 男は何も言わなかった。驚きもせず、疑いもせず、ただその名を"記録"として瞳の奥に沈めた。

 それだけだった。

 それだけなのに。


 溶けた輪郭が再び形を持つ音が聞こえた


どこにも居場所がない


それでも立っていた


誰の手にも届かぬはずの場所に


一つ、名が残された


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