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七天抜刀!七転八起  作者: 虹之夢 硝石
【起】の章
1/3

【第壱話】起こりの壱・七転八起、争いに巻き込まるる

全ての事の起こりは、少年少女の出会いと約束から始まる。

古来より、言葉には力が宿るとされている。

それは『言霊』とも呼ばれ、発した言葉に宿る力が、その意味の通りに現されるというものだ。

その力は目には見えねども、確かに存在しうるのだ―――そう、我らの世界においては。


これより語るるは、古来より『言葉』を名とし、『言霊』を我が身とする者たちの、森羅万象にかけた願いを叶えるための物語。


起きた物事は、覆水のごとく盆に帰らず。

承りし頼みを諾う以上、もはや断る道もなし。

転んでも倒れても、起き上がる他はない。

結ばれし運命は、既に定まっているのだから。


さてさて、事の起こりは『七転(ななころび) 八起(やおき)』なる少年が、一人の少女によって目覚めさせられるところから始まる―――。


***


「八起ーっ!!起きなさーい!!」

ばさぁっ、と掛け布団を引き剥がしながら叫ぶのは、八起の幼馴染みである日和見(ひよりみ) 小春(こはる)

一方、布団を引き剥がされた少年こと七転(ななころび) 八起(やおき)は、むにゃむにゃと何事かを言いながら腹を掻いている。

「はえぇよぉこはるぅ……まだめざましもなってないじゃんかぁ……」

「もうとっくに鳴ってるわよ!あんたが止めてそのままにしてるの!」

てきぱきと手際よく布団を畳みながら、世話女房よろしく小春は八起を叩き起こした。

「ほらっ、早く起きてご飯食べる!おじいさまが作ってくださった朝ご飯が冷めちゃうでしょ!早く準備しないと、置いてっちゃうからね!」

言いたいことを言いたいだけ言うと、小春は畳んだ布団を置いて、さっさと部屋を出て行ってしまった。八起は彼女の長い黒髪が揺れながら去っていくのを、しばらくぼんやりと眺めていたが、やがてはっと目が覚めたようで、

「あっ、まっ、待ってよ小春!わかったわかった、今行くって!」

大慌てで着替えをし、急いで彼女の後を追いかけていった。

その頃、居間では八起の祖父である八宝はっぽうが、朝食を前に新聞を広げていた。

八起の部屋から出てきた小春が顔を出すと、「おお」と顔をあげ、

「悪いな小春ちゃん、今日も坊主の面倒見させちまって」

「いいえ、慣れてますから」

小春が上品に微笑み返すと、後ろからばたばたと騒がしい足音が聞こえてくる。

「もうちょっと待って小春!今から飯食うから……あっ、おはようじいちゃん!」

「へいへい、おはようさん。いいからはよ食え、小春ちゃん待たせんじゃねえ」

「いえ、まだ時間はありますから。八起、また喉に詰まらせないでね?」

八起が食卓につき、「いただきます!」と手を合わせたところで、八宝も新聞を脇に置き、共に朝食を取り始めた。小春は既に自宅で朝食をとっているので、先ほど八宝が入れてくれたお茶を飲むだけだ。

これが七転家の、いつもの朝の姿だった。いわゆる日常茶飯事というやつである。

しかし、この日はいつもとは少し違った。普段食事どきにはめったに喋らない祖父が、突然二人に話しかけたのである。

「なあ八起、小春ちゃん。今日は学校終わりに、なんか用事はあんのかい?」

不意にそう聞かれて、八起と小春は互いに顔を見合わせてから、八宝に向かって首を横に振ってみせた。

「ううん!なんもねえよ、なあ?」

「ええ。寄り道する予定もありませんし、真っ直ぐ帰ってくるつもりでしたが……」

「そうかい……」

八宝はしばらく考え込むように口をつぐんでから、眉間に皺を寄せ、いつになく真剣な顔で言った。

「なら、帰ったらちょっと、うちの道場に寄ってくんな。そこで八起に話があんだ。小春ちゃんにもな」

「私にも……ですか?」

八起と小春は、再び互いに顔を見合わせる。八宝は剣道の師範であり、家のすぐそばに道場を持っていた。八起もそこの弟子であるわけだが、突然話と言われても、心当たりは全くない。それについては、小春も同様だった。

それでも、八宝の様子からただならぬ様子を感じ取った二人は、彼に向かって素直にうなずいた。

「わかった!じゃあ、今日は帰ったら道場の方に行けばいいんだな!」

「わかりました。両親には、おじいさまに呼ばれたとお伝えしておきますね」

「ああ、そうしてくれ。頼むよ」

それだけ言って、八宝は再び食事に戻った。小春はその様子に、どことなく後ろめたさのようなものを感じたが、何となく声をかけるのは躊躇われた。

食事を終え、二人で八起の両親の仏壇に手を合わせてから、学校へ向かう準備を整える。

「八起、ちゃんとお守り石は持ったか?」

家を出る直前、祖父にそう訊ねられると、八起は元気よく頷いた。

「うん!ちゃんと袋に入れて、首から提げてるよ」

「よしよし、ならいいんだ」

八宝はうんうんとうなずいてから、二人に軽く手を振った。

「じゃあ、行ってこい。小春ちゃんに迷惑かけんじゃねえぞ」

「はーい!行ってきます!」

「ふふ、おじいさまったら。それじゃあ、行ってきます」

八宝に見送られて、二人は学校へと向かう。

子供たちの背中を、八宝は見えなくなるまで見守っていた。

「……大きくなったなぁ、二人とも……」

感慨深さと共に、そんな言葉がぽつりと、老人の口から溢れ出た。


***


七転八起と日和見小春は、いわゆる幼馴染みである。

同じ年、隣同士の家に生まれた二人は自然と仲良くなり、幼い頃、八起は小春にこう約束したのだった。

『おれがおおきくなったら、こはるをおよめさんにしてあげる!』

二人はその約束を忘れることなく成長し、高校生になった今でも、家族や友人も含めた周囲公認の恋人同士として、仲睦まじく暮らしている。

時折それを冷やかされたり、邪魔が入りそうになることはあったものの、八起の毅然とした態度と、小春の一途な様子から、二人の間柄は、もはや誰にも別たれることのない、固い絆で結ばれていた。


家を出てしばらく歩き、八宝の姿が見えなくなってから、小春は八起にそっと話しかける。

「ねえ、八起……なんだかおじいさまのご様子、変じゃなかった?」

「うん?ああ……朝飯のときか?」

うーん、と伸びをしながら、八起は首を傾げてみせる。

「なんだろなあ。あんな感じのじいちゃん、俺も初めて見たよ。話って言われても、全然ぴんとこねえし……」

「そうよね……何か、悪いご病気とかじゃないといいんだけど……」

「うーん、それなら多分、もっと早く言うと思うんだよなあ」

ぐるりと首を回しつつ、八起は唸るような声を上げた。

「ほら、じいちゃんって、隠し事とかめっちゃ苦手だろ?サンタクロースのことだって、俺の父ちゃんと母ちゃんが死んでから、即じいちゃんだってバレちゃったし……」

「あれは……そうね、そんなこともあったっけ」

小春は小さく思い出し笑いをしてから、「でも、それなら尚更大事なことかもね」と言った。

「隠し事が苦手なおじいさまが、改まってお話されるのだから、よほど大事なお話かもね」

「うーん……そうかもなぁ……」

何度目かの唸り声をあげてから、八起は「あっ」と思いついたように声をあげた。

「もしかして、俺らの祝言のことかな。ほら、小春の花嫁衣装のこととかさ」

「それは……まだ二年も先のことじゃない」

思わず頬を赤らめながら、小春は小さく首を横に振る。

「それに、そんなお祝い事なら、あんな重々しい顔されないんじゃないかな。なんだか難しそうな表情をされていたし……」

「うーん、そっかぁ。それならやっぱり、思いつかねえなあ……」

二人がそんな会話をしながら、曲がり角にさしかかった時だった。

―――不意に物陰から、一人の青年が現れたのである。

「きゃっ!?」

「っ、大丈夫か小春!?」

とっさのことに、危うくぶつかりそうになった小春の体を、八起が慌てて引き寄せて庇う。

突然現れた青年は、そのことに気がつくと、

「おっと……すまないお嬢さん(マドモアゼル)。こちらの不注意だったようだね」

そう言いながら、彼は小春へと片手を差し伸べてきた。

「お怪我はなかったかい?そちらのプランスに助けられたのであれば何よりだけれど……」

「え、ええ……えっと……?」

八起と小春は、あらためて相手の姿を見直す―――と、同時に相手の風体を見て、思わずぎょっとした。

地面まで届きそうなほどの長い金髪に、同じく長い睫、整った顔立ち。それだけなら、まるで少女漫画にでも出てきそうな美青年だったが、その服装は、町中で見るには明らかに異様なものだった。

ステージ衣装とでも言うのだろうか。真っ白な生地には金の装飾があしらわれ、肩には西洋風のマントまで身につけている。履いている靴まで金ぴかだ。

八起は、若干引いている小春を背で庇うようにしながら、恐る恐る青年に向かって話しかける。

「え、えーっと……あんた、この町の人じゃないよな?げ、芸能人か、なんかとか……?」

「おや!おやおやおや、そんな風に言っていただけるとは。このヴィシー・フランソワーズの美しさも、まったく捨てたものではないね!」

しゃらりと金の髪をかき上げながら、青年は「ノンノン」と人差し指を振ってみせる。

「残念ながら、まだ芸能界に進出はしていないのさ。"まだ"、ね。いずれは、そういう機会もあるかもしれないが……」

「小春、走ろう!」

「うん!」

三十六計、逃げるに如かず。

不審人物に出会ったら、相手にしてはいけない。どんな厄介事に巻き込まれるから分からないから、というのが、七転家と日和見家の家訓であった。

脱兎のごとく走り出した八起と小春の背中を、ヴィジー・フランソワーズは追いかけもせずに「おやおや」と見送る。

「まったく、せっかちなアベックだ……まだ用件にも至っていないというのに。ねえ、ケイくん?」

そう言って、彼は物陰に黙って控えていた少女の方を振り返った。

「全くですわ、ヴィジー様」

丸眼鏡をくいと指で押し上げながら、少女は忌々しげな表情で首を横に振る。お下げにした三つ編みが、それに合わせて左右に揺れた。

「ヴィジー様のお話を遮って、敵前逃亡などとは……不遜にも程がありますわね」

「ふふふ、まあ、構わないさ」

ばさあ、とマントと長髪をたなびかせながら、ヴィジーは不敵な笑みを浮かべる。

「このヴィジー・フランソワーズの正体を知ったなら、またもああやって逃げ出したくなるに違いないからね。当然、次はそうはさせないが……」

「もちろんですとも」

少女はぽっと頬を紅潮させ、ヴィジーに見とれながらうなずいた。

「貴方様の『言霊』のお力を知れば、あの七転八起とて、怯え惑うに違いありません……何故なら貴方様は、『美辞びじ 麗句れいく』様なのですから」

少女の言葉に、ヴィジーは満足げに微笑んだ。


***


一方、その頃。

全力疾走で通学路を駆け抜けた八起と小春は、校門の前でぜえぜえはあはあと肩で息をしていた。

「ごっ、ごめんなぁ小春……!俺のスピードに合わせさせちゃったから、疲れただろ……!」

「ぜっ、ぜんっ、ぜん……!だい、じょう、ぶ……!」

二人とも何とか呼吸を落ち着けてから、恐る恐る後ろを振り返る。

あの、ヴィジーなんとやらは、どうやら追いかけてきてはいないらしい。

安心した溜め息が、二人同時に溢れ出て、思わず顔を見合わせて笑った。

「なんだったんだろうな、アイツ……悪人には見えなかったけど……」

「うーん、春だし、変わった人も増えるっていうからね……」

不審者といえば不審者だが、警察に通報するほどのことでもないだろう。二人はそう意見をあわせて、とりあえずは教室へと向かうことにした。

「とりあえず、学校には早く着いたし、いいってことにしましょ」

「まあ、そうだな……あ、小春。俺、今日は掃除当番だからさ、教室で待っててくれるか?」

八起の言葉に、小春は不思議そうにまばたきして、

「え?うん、別にいいけど……いつもみたいに、下駄箱のとこで待っててもいいよ?私、待ってるの平気だし」

「うん、それでもいいんだけど……」

八起は真面目な顔で続ける。

「あの、ビジーなんとかが学校まで来ないとは限らないだろ。また小春が絡まれたら大変だし、教室の方がいいかと思って……」

「あ……心配してくれたってこと?」

八起の言葉の意図に気付いて、小春は照れくさそうに微笑んだ。

「ふふ、八起って、変なところで気を使うんだから……でも、ありがと」

「心配になるだろ、朝からあんなことあったら……とにかく、今日帰る時は教室で待ち合わせな」

「うん!」

そう約束を交わしてから、二人は教室に入り、それぞれの席に着いた。

すると、途端に八起の周りを友人たちが取り囲み、からかうようにつっつき始める。

「おいおいお前ら、今朝も仲良く登校かよ」

「いいよな~彼女持ちはさ~そうやって朝からいちゃいちゃとよ~」

これもまた、朝の日常風景だった。

八起は照れも隠れもせずに、けろりとした表情で肩をすくめる。

「なんだよ、別にいいだろ。小春とは結婚の約束もしてるし、別に隠してるわけでもないんだし。将来も一緒に住むんだから、一緒に登下校くらいするよ」

「お、お前なぁ……」

友人のうちの一人が、呆れたように首を傾げながら、

「いいのか?若いうちからそれでさ。この先ながーい人生を生きるってのに、他の女の子とかに興味は湧かないわけ?確かに日和見さんはめーっちゃ可愛いけどさ……」

「湧かない」

八起はきっぱりと断言する。

「いいんだよ、俺が小春が良くって、小春も俺がいいっていうんだから。それなら、それでいいだろ。俺はほんとに、小春にしか興味ないんだから」

「お、おう……」

八起の友人が、思わず言葉に詰まったその時だった。

「あ、あの、八起くん……」

男子たちの間をかき分けるようにして、一人の女子が、おずおずと声をかけてくる。小春の友人のうちの一人だった。

彼女は遠慮がちに、ちらちらと小春の方を見ながら、

「あの、小春がね、さすがにちょっと恥ずかしいって……」

そう言われて小春の方を見ると、彼女は両腕を枕に、机へと突っ伏していた。黒髪の隙間から見える耳が、真っ赤に染まっている。

八起はあっと小さく声をあげてから、「ゴメン……」と、眉を下げて笑ってみせた。


***


―――放課後。

「なあ、八起。今日の掃除当番、変わるよ」

掃除へと向かおうとした八起にそう声をかけてきたのは、今朝、二人の間をからかってきた友人だった。

彼はどうにもばつの悪そうな顔をしながら、

「ほら、今朝、変なこと言っちゃったからさ……その、お詫びってわけじゃないけど……」

「え?……ああ!」

そのことをすっかり忘れていた八起は「気にしなくていいのに」と笑いながら、それでも有り難く友人の申し出を受けることにした。

「助かる!今日じいちゃんに呼ばれててさ、早く帰んなきゃだったんだ」

「そっか。じゃあ、悪いけどさ、日和見さんにも謝っといて!俺も早く可愛い彼女作るわ!」

気のいい友人に「気にしなくていいぞー」ともう一度言ってから、八起は教室に戻り、席で待ってくれている小春へと声をかけた。

「小春、帰ろうぜ」

「あれ?八起、掃除当番は?」

「小林が代わってくれた!今朝のお詫びだって」

小春は開きかけていた文庫本を閉じながら、ふふっと笑う。

「小林くん、結構律儀だね。気にしなくていいのに」

「なー、小春にも謝っといてくれってさ」

俺たち慣れてるのにな、と笑い合いながら、八起はカバンを背負った。

「とりあえず、帰ろうぜ。じいちゃん待ってるだろうし」

「うん、そうだね」

小春も席を立ち、二人で並んで教室を出る。

急いで帰ろうと、お互い少し足早になりながらも、校門を出て、いつもの通学路を通って帰る―――はずだった。

「―――待ちたまえ!そこの二人!」

いつも通っている河原への道にさしかかったところで、どこかで聞き覚えのある声に呼び止められ、二人は足を止めた。

「あれ、お前は確か……」

ふぁさ……と、長い長い金髪を靡かせながら現れたのは――

「ふふふ……そう、ヴィジー・フランソワーズさ」

ヴィジー・フランソワーズはそう名乗りを上げながら、かっこつけたポーズを決める。

「君とは今朝、会ったばかりだろう?忘れたとは言わせないぞ?」

「な、なんなんだよお前ぇ……」

またあの不審者かと、八起はうんざりした声を出す。

「俺たち急いでるんだよ。早く帰らないとじいちゃんに叱られ―――」

「きゃあっ!?」

―――突然、小春の悲鳴が響き渡る。

八起が振り返ると、小春は見知らぬ少女に羽交い締めにされ、じたばたともがいていた。

「なっ、何するの!?」

「いいから、大人しくしていなさい。怪我をしたくなかったらね」

少女は低い声で、脅すように小春に言った。

「小春!?」

「ケイくん、レディはもっと丁重に扱いたまえ」

ヴィジーはやや呆れたように首を左右に振りつつ、

「なんなら、その子は逃がしても構わないのだよ?」

「いいえ、ヴィジー様」

少女は丸眼鏡越しに鋭い視線を小春へと向けながら言った。

「この女に、『言ノ葉争い』の邪魔をされては困ります。国に許されている闘争とはいえ、ヴィジー様のお戦いに、瑕疵があってはならないのですから」

「やれやれ……」

「おいっ、小春に何すんだよ!?」

ヴィジーは八起の動揺を気にも止めず、札のようなものを手に取ると、周囲へとばら撒き始めた。

それらは風に乗って宙を舞い上がったかと思うと、ぴたり、ぴたりと一枚ずつ空中に留まり始め―――その札から発される不思議な力によって、一つの大きな半球状の空間が、段々と形作られていった。

八起も小春も、何が起きているのかわからないまま、謎の空間越しに分断されてしまう。

「何、安心したまえ。『言ノ葉争い』が終われば、彼女は解放するとも。もっともそれは―――」

ばさぁっ、と長髪とマントをなびかせながら、ヴィジーは高らかに宣言する。

「『七転八起』、君の敗北と―――この私、『美辞麗句』の勝利を意味するものだがね!!」

「な、なんで俺の名前を知って……!?」

「さあ、始めよう!!私と君の、『言ノ葉争い』を!!」


***


―――その頃。

八起の祖父である七転八宝は、一通の手紙を前にして、悩み、考え込んでいた。

真紅の和紙に書かれているのは、一言だけ。


―――『言ノ葉争いの刻、来たれり』、と。


勝利さえすれば、森羅万象にかけた願いが叶うという、『言ノ葉争い』―――。

だが、その戦いは言ノ身霊(ことのみたま)の持ち主がただ一人になるまで続けられるという、長く過酷なものでもあった。

そんな争いへと、孫を向かわせるわけにはいかない……。

「……やはり、儂が向かうべきだな……」

老体に鞭打ってでも、自分が参戦すべきだろう―――八宝が、そう考えていた時だった。




「貴様が、『七転八起しちてんはっき』か?」




―――冷水を背に流し込まれたような、ぞくりとした感覚。

八宝がとっさに振り返った瞬間、喉元へと鋭い刃が突きつけられる。

「貴様の言ノ身霊石(ことのみたまいし)を寄越せ」

八宝に刃を向けながら、黒衣の男が言った。

「さもなくば―――死ね」

その、低く暗い声色には―――この世の悪意と殺意の全てが、含まれているかのようだった。


<続>

【登場人物紹介】

七転(ななころび) 八起(やおき)

本作の主人公。高校2年生。

幼い頃に両親を事故で亡くして以来、祖父の八宝に厳しくも愛情を持って育てられた。

真っ直ぐな性格で、何事も諦めない意志の強さを持つ。

小春とは相思相愛の仲であり、清く正しく交際中。

好きな食べ物は小春の手料理と祖父の卵焼き、柏餅。


日和見(ひよりみ) 小春(こはる)

八起の幼馴染であり、恋人。高校2年生。

心優しく面倒見の良い性格だが、非常に頑固な面もあり、一度決めたらてこでも動かない。

幼い頃に八起と結婚の約束をして以来、相思相愛の仲である。

好きな食べ物は桜餅、桜風味のスイーツ。得意料理は肉じゃが。

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