現実逃避行
【現実逃避行】
「あんたってさスマホばっかいじって
漫画ばっか読んでるじゃん。
それってやっぱり
現実逃避だよね?」
そう言って話しかけてきたのは
たまにしか学校に来ないクラスメイト。
名前は…なんだったっけ。
覚えていない。
6限の体育をさぼって教室で怠けてんのは俺だけじゃなかったのか。
「…〇〇くん?なんか答えてくんない?」
「あー、えっと…急に何?」
「良かった!私、ちゃんとここにいたんだね!」
「…は?」
「いやー、だってさ私たまにしか学校来ないじゃん?
家でも全然人と話してないからもしかしたら私って存在してない…?とかたまに思っちゃって笑
返事してもらえないと不安になっちゃうの笑」
そう言って彼女はとても嬉しそうに笑う。
わりと可愛い。
でもそこからもっと訳のわからないことを言い出した。
「今日見てたけどさ、ずっとスマホいじって漫画読んでたじゃん。前に学校来たときもずっとそうだったし。
逃避行するなら、もっと他の形で“現実逃避行”しない?」
「え。」
「スマホはスマホだけどスマホじゃなくて
漫画は漫画だけど漫画じゃないの!」
「は。」
彼女は楽しそうだが
それは何よりなんだが
意味がわからない。
何を言っているんだ?
「んー、私説明するのって苦手でさ…あ!
実践しちゃおっか!」
「え、ちょっ、まっ」
彼女に腕を引っ張られた瞬間、
俺は教室じゃなくて
なんか、知らないとこにいた。
なんて説明すればいいかわからない。
とにかく、「知らない」場所なのだ。
「…なんだよここ」
「じゃじゃーん!すごいでしょ!!」
「なんなのここ」
「ここはね」
「ここはね」
「ここはね」
「ここはね」
彼女は急にバグったように同じ言葉を繰り返し始めて
顔も変に歪み始めた。
「ちょっ、おま、なに、どうした」
「ここはねここはねここはねここはね」
「おい!しっかりしろって!!」
彼女の肩をつかんで揺さぶるが
バグったまま
むしろさっきより悪くなってきている。
顔なんてもう歪みすぎて
顔だってことがわからないくらいだ。
「なぁ、おい!なぁってば!!」
キーンコーンカーンコーン
「あー体育だっりいわ」
「それな」
「俺はお前ら負かせて超楽しかったけどな笑」
「いやまじうぜぇ。」
「ってか〇〇ってばさぼりだろ。まじずりぃ。」
「〇〇?誰だよそれ。」
「え、〇〇は…あれ、誰だっけ。」
「まだ書き終わってなかったのか。早く帰るんだぞ」
「あ、はい。すみません。」
放課後の学校に人はまばらで
教室には日誌を書いてるふりしてスマホをいじっている少女しかいない。
「あ、□先生、まだいらっしゃったんですか」
「△先生こそお疲れ様です。まだ日誌を書き終わってない生徒がいますし、僕の仕事も終わらなくて…」
「終わらないですよね。毎日毎日生徒は何かしら問題を起こすし…
□先生のクラスは問題とかなくてすごいです。
みんなちゃんと毎日学校にも来ているし」
「いやーははは。良い子たちのクラスで良かったですよ。おかげでいじめも不登校生徒も出ずに済んでいます。なにか困ったことがあったら言ってくださいね。僕で良ければ力になりますし」
廊下を歩く先生の声も遠ざかり、もう教室には届かない。
とんとん、
放課後の教室、日誌を書いてるふりの少女の肩を叩く少女がひとり。
「ねぇ、現実逃避行しない?」
終
最後までお読みいただきありがとうございます
あなたも現実逃避行しませんか。