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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

不遇職に甘んじていたおっさん、実は精霊に選ばれし者でした! ハズレスキル〈雑用〉で高速レベルアップし、成り上がる〜ところで俺は不細工で通っていたのに美少女達からイケメン扱いされるのは何故なんだ?

作者: 赤羽ロビン

 連載版はコチラです! 是非よろしくお願いします!

→https://ncode.syosetu.com/n9354il/


短編版の続きから読みたい方はコチラからどうぞ! 昼12時に投稿です!

→https://ncode.syosetu.com/n9354il/14/



 現在執筆中! 連載版公開の際には前書きと後書きにリンクを貼るので、気に入って頂けたら是非ブクマを!


 5000字を過ぎた辺りから成り上がります!

「おい、レオ! まだかかってるのか! 早く運んでしまえよ!!!」


 ザガリーギルド長は俺の顔を見るなり、そう怒鳴り散らす。その瞬間、俺の口からは何も考えずとも反射的に言葉が飛び出した。


「すみません、今!」


 とは言うが、俺は自分があまり悪いとか、申し訳ないとかはあまり思ってない。何故ならこの仕事は本来四人でやるべき仕事だからだ。


(今朝届いたポーション九百本。四人でやっても昼までに倉庫にしまえるかどうかだってのに……)


 割れないように梱包されたポーションが十本つまった箱はかなり重い。しかも、終わった後には腰痛のおまけ付き。なので、俺以外の三人はサボっているのだ。


(くそっ……俺よりステータスが高いんだからこれくらいの重さは余裕だろ!)


 サボっている三人、トーマス、ヘンリー、マックスのLvは50以上。何せB級まで登りつめた後、悠々自適の老後を送るために冒険者ギルドに就職しているのだ。後進の指導やルールを守らない乱暴者を黙らせたりとかなり重宝されている存在だ。


(……だからって面倒で地味な仕事は俺に押し付けるなよな)  


 だが、そんなことは口が裂けても言えない。何故なら俺は訳あって二十そこそこで冒険者を退職し、ギルドに就職したせいでLvは12。つまり、どうあがいても勝てるわけがないのだ。


(でも、本当に問題なのはザガリーギルド長だよな……)


 早く早くと怒鳴っているザガリーギルド長は俺を叱責することはあってもあの三人を怒ることはない。つまり、問題に気づいていながらも無視しているのだ。


「若さも技術もない上に団子っ鼻のブサイク面! お前を雇ってやってることに感謝しろよ!」


 まあ、悲しいことにこれは事実だが……。怪我をしてギルドに勤め初めてから雑用ばかり。手に職もないばかりか、この年じゃどこも雇ってはくれないだろう。顔については生まれついたもんだし仕方がない。


「そんなんだからお前は非正規職員なんだよ! もっとしゃかりきにならないと正職員にはなれないぞ!」


 そんなことを言ってもザガリーギルド長が俺を正職員にする気がないことは分かってる。どれだけ真面目に働いても俺をマトモに扱う気はないんだ。


「ほらほら! スキルがないんだ! 必死に手を動かすしかないだろ!」


 自分で言うのも何だが、俺は割と自分の人生を達観してる。何を言われてもイライラはするが、何処かそれは他人事のように感じている。


 ……だが、何事にも例外はある。俺の場合、スキルのことがその例外だった。



 十八才になり、冒険者になる資格を得た俺は故郷の村を出て、意気揚々と冒険者ギルド『ホムラ』へとやって来た。


 ちなみに冒険者ギルドとは各国が魔物を駆除するために協力して作った組織。魔物の駆除や冒険者と呼ばれる組織員の管理などと引き換えに高度な独立性を維持している。


 こんな超国家的な組織が存在している理由は魔物だけじゃない。実はこの世界では冒険者の持つスキルは全て精霊から与えられるもので、その仲介は古くからの契約で冒険者ギルドがすることになっているからだ。そのため、スキルを使う人外の存在が国家間の戦争に加担しないようにこんなことになっているらしい。


 とにかく、俺は一旗上げるべく冒険者になることを決意した。自分で言うのも難だが、俺はなかなか覚えが良かった。剣術や体術は勿論、記憶力や計算、おまけに料理や家事などでも大人顔負けだったから一生田舎で燻るなんて考えられなかったのだ。


「次、クロベリー村のレオ!」

「はい!」


 ついに俺の出番……


 俺は目の前にある石版に手を触れた。これは冒険者になった時に渡される冒険者プレートの巨大版。スキル付与の力がある分、大きくなっているらしい。


 パァァァ!


 俺が手を触れると、石版が光り始めた。そして……


◆◆◆


レオ 人間(男)

Lv   1

力   9

防御  7

魔力  6

精神  6

素早さ 8


スキル


◆◆◆


 え?


「スキルは……?」

「これはどういうことだ?」


 周りにいたギルド職員が騒ぎ出す。どうやら彼らも未経験の事態らしい。


「スキルの欄に何も表示されないってことは、スキルはないってことだろ」


 ザガリーギルド長の冷たい一言が俺の胸に突き刺さる。スキルがない……? そんなことって……



 スキルがないと分かって一晩落ち込みはしたが、次の日から俺は気持ちを切り替えた。


(確かに冒険者にとってスキルは重要だ。でも、それ以外にも大切なことはある)


 武器を使う力にとっさの判断能力、それに危機管理能力……挙げればきりがない。


(それにLvが上がればスキルが身につくって書いてあるしな)


 昨日俺が受け取った初心者用冒険者ガイドブックにはLvが上がると得られるSPを使うとスキル(これは特にコモンスキルと呼ばれるらしい)が手に入ると書いてあった。  


(しかも、スキルを得る方法はそれだけじゃない……)    


 さらに稀なケースではあるが、特別な条件を満たすと身につくユニークスキルと呼ばれるスキルもあるらしい。


(まあ、流石にユニークスキルを狙ってるわけじゃないが……)


 そう、大切なのは道が色々あるということだ。スタートが上手く行かなかったからといって悲観することはない。 


 そう。最初はそう思っていた……



(イタタタ……)


 ザガリーギルド長が怒鳴り疲れて事務所に戻ってからも俺は作業を続け、何とか昼過ぎには作業を終えられた。普通なら夕方まではかかる仕事が終えられたのには理由がある。


(スキルに感謝かな……)


 俺は複雑な気持ちになった。ギルド職員として雑用をする中で身についたスキル、《雑用》。これに気づいたのは何時だったのかは忘れたが、その時の落ち込みは忘れらられない。


(スキルは生き様か……)


 一般性にスキルとはその人自身の人生の縮図だと言われている。例えば、アタッカーは攻撃スキルを覚えやすいし、タンクは攻撃を引き付けたり、防御力を上げるためのスキルを覚えやすかったりといった具合だ。だからつまり、俺の人生とは……


(やべ……落ち込んできた)


 せっかく早く仕事が終わり、腰へのダメージが最小限に抑えられたんだ。今はそのことを喜ぼう。


 ガチャ


 何とか気持ちを立て直して事務所のドアを開けると……

 

「レオ! 何処で油を売ってたんだ!」


 げっ……ザガリーギルド長。しかも機嫌が最悪だ!


(あれはスキル覚醒用の冒険者プレート? また調子が悪いのか)


 ザガリーギルド長やトーマス、ヘンリー、マックスが冒険者志望の若者が最初に触れるあの石版を前に唸っている。最近、特に調子が悪いのだが、また不具合か……


「本当に役に立たない奴め! 今の状況が分かってるのか!」


「あと数日で精霊守が来られるというのにこの不具合……バレたらどうなるかわからないのか!」


 今の今まで必死に働いていたのにこの言い草って……


(あれ……精霊守が来る時期だったかな?)


 精霊守とは精霊と人間の仲立ちをしている部族の代表のようなものだ。魔物に虐げられた人々を憐れに思った精霊は彼らを介して俺達に力をくれる。


 が、間違った人間に力を渡すわけには行かないので、定期的に精霊司が冒険者ギルドを訪問し、ちゃんと運営がなされているかを確認するのだ。


(確かにスキル覚醒用の冒険者プレートの不具合は大きな減点だな)


 スキル覚醒用の冒険者プレートは冒険者ギルド運営の要とも言える魔道具だし、精霊との繋がりを意味するものでもある。それが不具合を起こすというのは、“ちゃんと扱っていたのか?”と疑問を持たれていても仕方がない。


「くそっ……何が駄目なんだ!」 


 ザガリーギルド長が唸ると、トーマスがイライラしながらマックスに怒鳴る。


「マックス、何か分からないか? お前は魔法職だろ」


「魔法って言ってもこれは精霊魔法の産物だ。俺の使う魔法とは格が違う」


 この中で一番……というか、唯一魔法を使えるマックスでこれじゃどうしょうもない。なら、出来ることは……


「ギルド長、もっと詳しい奴を呼んだ方がいいですよ。俺達じゃ──」


「やかましい! それじゃウチがスキル覚醒用の冒険者プレートをメンテ出来てないことがバレるだろうが! そんなことも分からんのか、このバカタレ!」


 ザガリーギルド長は顔面に青筋を立てて俺を怒鳴った。その剣幕に流石の俺もびっくりしたが、本当に驚いたのは次に出た言葉だった。


「このクソ忙しい時に無駄口たたいてるんじゃねえ! もうお前なんて首だ! 二度と顔を見せるんじゃねーぞ!」


 え……


「そうだ、お前なんて追放だ!」


 ザガリーギルド長に続いてマックスまで声を上げる。すると、トーマスやヘンリーまで口々に俺を責めだした!


「お前みたいな役立たずは要らねえよ、消えろ、団子っ鼻!」


「ホラホラ、早く居なくなれ! 目障りなんだよ!」


 言いがかりもいいところだが、椅子や工具を投げつけられれば、その場にいるわけには行かない。俺は両腕で頭を庇いながら、荷物を手繰り寄せ、事務所を後にした。



(当分は冒険者ギルドに近寄らない方が良いな)

 

 途方に暮れながら一夜を過ごした後、俺はそう結論付けた。多分、問題が解決しなければ皆の機嫌は治らないだろう。 


(イテテ……野宿は応えるな)


 昨日はギルドの下宿にも帰らず、近くの森で野宿したのだ。冒険者をしていたこともあるとはいえ、この年で野宿はキツい。


(当分は森暮らし……となれば、まずは食料だ)


 買いに行けば良いと思うかもしれないが、なけなしの貯金は下宿に置いてあるし、今の手持ちは小遣い程度。しかも、迂闊に店に入ればザガリーギルド長達と鉢合わせる可能性さえある。なら、ここで暮らすしかないのだ。


(もう少し奥まで行けば、フォレストラビットがいるな)


 フォレストラビットは魔物だが、良く火を通せば肉は食べられる。俺は昔の記憶を頼りに森の奥へと向かった。


(あ、ラッキー! ジャコウソウだ!)


 道中、俺はジャコウソウを見つけた。火に焚べると一部の魔物が嫌がる匂いを発する薬草だ。あまり利用されない薬草だが、装備が心許ない俺にとっては有り難い発見だ。


(もっと生えてないかな……あっ!)


 崖の近くにジャコウソウが群生している! あれだけあればかなり安心できる!


「ツイてるぞ!」


 だが、アクシデントの連発後に現れた幸運に少し気が緩んだんだろう。うっかり崖の近くでバランスを崩し……


「わっ!」


 ゴロゴロゴロゴロゴロッ!


 傾斜が思った程でなかったことと、途中何度か低木に引っかかったこともあって、大したダメージは受けなかったのだが……


「ここは一体……」


 冒険者ギルド『ホムラ』のある街、ロザラムからさほど外れてはいないはずだが、全く心当たりがない。


(ヤバいな……)


 転がってきた坂はかなり長い。なんの装備もない俺がまた上まで登るのは無理だろう。


「上に上がれる道を探すしかないか……」


 とりあえず辺りを探索するしかないか。やれやれ、気をつけないと遭難だぞ……


(ついてないなあ……)


 ため息をつきながら立ち上がったその時、魔物が騒ぐ声が聞こえてきた。


(っ! これは魔物と誰かが戦ってる?)


 俺は急いで声のした方へ向かう。すると、ゴブリン達が杖を持ち赤いローブを来た人物を取り囲んでいるのが見えた。


(数が多いな)


 五匹のゴブリンが拙いながらも連携することで、赤いロープの人物の注意を分散させている。あれでは精神集中が出来ず、魔法を発動出来ないだろう。


(俺が助けに入ってもあまり戦況は変わらないか)


 ゴブリンが倒せないとは言わないが、ナイフ一本でゴブリンを五匹倒すというのは流石に無理だ。だが、まあ赤いローブの人を助ける方法はある。


(点火の魔道具は……あった!)


 俺は鞄を探り、マナを込めることで小さな火を出す魔道具を取り出す。これにいつもより多くマナを送り込み、さっき採ったジャコウソウを炙ると……


「ギッ!」

「……ギギギッ!」


 ゴブリン達がジャコウソウの放つ匂いに顔をしかめて浮足立つ! 効果てきめんだ!


「〈水弾〉!」


 赤いロープの人物が隙を見せたゴブリンに魔法を放つ! それによりゴブリン達の混乱は一層激しくなった!


(今だっ!)


 俺は叫び声をあげながら姿を現し、ゴブリンに切りかかった!


「ギャッ!」

「ギャギャギャ!」


 不意打ちで一匹を倒し、残りは四匹。ゴブリンたちは更にやかましく騒いでいる。


(このまま逃げてくれるといいが……)


 だが、そんなに上手くはいかないらしい。騒いでいたゴブリンのうちの一匹が俺に向かって棍棒を振り上げながら突進してきた!


(棍棒とナイフ、リーチは圧倒的に負けているな……)


 同時に攻撃すれば俺の方が不利……まあ、普通ならな


 ブンッ!  ドサッ……


 俺の放った足払いに見事引っかかったゴブリンが転倒する。敵が慌てているときほどこういう不意打ちは効果的なのだ。


「〈水弾〉!」


 倒れたゴブリンの頭部に赤ローブの人物の魔法がさく裂! 倒れたゴブリンは血しぶきとともに断末魔の声を上げた。


「ギギギッ!」

「ギイギイッ!」


 立て続けに仲間を倒されたことに脅威を感じたのか、残ったゴブリンは俺たちに背を向けて逃げ出していく。ふう……良かった。


「ありがとうございました。おかげで助かりました」


 赤いローブの人物が近寄り、礼を言ってフードをとる。すると……


(っ!!!)


 現れたのは銀糸のような髪を長く伸ばした美少女。三十年以上生きてきたが、こんなに綺麗な娘は見たことない。


(いや、比較することさえ正しいのか……)


 我ながらどうでもいいことを考えている。そう、それくらい俺は動揺し、混乱しているのだ。


「私はアイラ・ルースリーといいます。本当に助かりました。」


 赤いローブを着た銀髪の超絶美少女はそう名乗った。アイラか……いい名前だ。


(……はっ!)


 あわわ、あまりに可愛いから見とれてしまった!


「俺はレオ。力になれてよかったよ」


「そんな! あんな鮮やかな戦いは初めて見ました!」


 アイラは俺の言葉を謙遜だと思ったらしく、慌てて手を振る。こんな冴えないおっさんに対してえらく気を使ってくれるな……


(よっぽどピンチだったんだろうな)


 なんだか申し訳なくなるな……


「それにしてもどうしたんだ? 一人ってわけじゃないよな?」


「刺客に追われてエレイン、私の護衛とははぐれてしまって」


「刺客?」


「……多分ダグラス家のものだと思うのですが」


 ダグラス家……どこかで聞いたことがあるような。


(そういえば、この娘、“ルースリー”って名乗っていたよな)


 聞いたことあるな。何だっけ、年を取ると忘れっぽくなって困るな。

 

「ロザラムに行かなくてはならないのですが、この調子では行きつくかどうか」


 ん? ロザラム?


(確か、ダグラス家とかルースリー家って精霊守の家名じゃなかったっけ?)


 もしかしてこの娘、数日後にギルドを訪問するっていう精霊守なのか!?


「実は俺はロザラムの冒険者ギルドの職員なんだ。もし良ければ一緒に行──」


「本当ですか!?」


 うわわっ! 近い近い近いっ!


「レオさんみたいに頼りになる人が一緒にいてくれれば安心です!」


 うーん、可愛い女の子、しかも精霊守からそんなに歓迎してもらえるような大した人間じゃないんだけど……


「いや、どこまで力になれるかはわからないよ。しかも、今道に迷ってるし」


「レオさんってギルドの職員さんなんですか? 冒険者じゃないのにそこまで戦いなれているなんて、すごいですね」


 聞いてないな……


(まあ、すぐにわかるだろ。とりあえずできることをするか)


 でも、こんなに可愛い女の子から後で“思ったよりも大したことがないな”と思われるのはちょっとツライな……


<アイラ視点>


「実は俺はロザラムの冒険者ギルドの職員なんだ。もし良ければ一緒に行──」


 その言葉を聞いた瞬間、私は思わず舞い上がってしまった。


(これで任務を果たせる……!)


 私は何としてでも立派に仕事をやり遂げなきゃいけない。じゃないど、私が生かされた意味がないもの……


(それにしても、強くて格好良くて、おまけに優しいなんて……レオさんってなんて完璧なんだろう)


 ギルド職員だったら精霊守である私を助けるのは当たり前かもしれない。でも、精霊はレオさんがそう言ったことじゃなく、私のことを心配して提案してくれているのだと教えてくれる。つまり……


(レオさんは純粋に私のためを思って助けようと言ってくれているんだ……)


 そんなふうに思って貰えるなんていつぶりだろう……


(……それにしてもレオさんは格好いいな)


 落ち着いた雰囲気に精悍さと優しさが入り混じった顔立ち。それに……


(あの星石のような鼻……)


 精霊守の間では伝説がある。“星石を体に宿すものこそ勇者”だと。レオさんの鼻はまさしくそれだ!


(すっごくモテるんだろうな……)


 安心したせいか、そんな浮ついたことを考えてしまう……ああ、駄目だ。もう少し落ちつかないと。


「悪いんだけど、地図とか持ってたりするかな?」


「は、はい!」


 はっ!  


「ありがとう。……なるほど。ここらは調査対象から外されてる地域か。こんなにロザラムに近い場所なのに何で……」


 持っていた地図について私にはよく分からなかったが、レオさんは理解出来るみたいだ。


「アイラの持っていた地図のおかげで何とかなりそうだ。ありがとう」


 そう言うとレオさんは爽やかな笑顔を浮かべて私に地図を返してくれた。やっぱり格好いい……


(はっ!)


 いけない、私ったらまた!


「こ、こちらこそありがとうございます!」


「そんな畏まらなくても……って畏まった方が良いのは俺の方かな?」


 えっ? 何でそうなるの?


“どうも本当にそう思ってるみたい。どうする?”


 私の一番の相棒の精霊、ハーディアはそう教えてくれる。彼が嘘をつくはずはないけど……何でだろ?


「そ、そんな! とんでもないです!」


「そうか? ならいいけど、まだ四、五日はかかるから楽にしてくれよ」


「は、はい!」


「とりあえず近くに昔使われていた野営地があるみたいだから行ってみようか」


 そう言って歩き始めたレオさん。確かに昼はかなり回ってるし、そろそろ暗くなってからのことを考えた方がいい。


(流石……私はそんなこと考えもしなかった)


 本当にレオさんは頼りになる。私も足を引っ張らないようにしなくちゃ!


(レオ視点)


「あれかな」 


 しばらく歩くと目の前にテントらしきものが見えてきた。


(暗くなる前につけてよかった)


 夜は魔物の時間。普段冒険者が魔物を間引いていないこんな場所じゃ、野宿なんて危険過ぎる。アイラの地図のおかげで助かったよ、全く。


「凄い! 流石レオさん!」


 いやいや、アイラの地図のおかげで俺は大したことはしてないぞ。


「いやいや、アイラの地図がなかったらそもそもここまで来れてないよ」


 そう言いながら設備を調べてみる。


(天幕に穴が空いたり、竈が崩れたりしているがまだ使えるな……)


 かなり放置されていたみたいだが、掃除したり補修したりすれば、使えないこともないな。


「ちょっと手を加えれば使えそうだ。ちゃっちゃとやってしまうし、周りを見ていてくれるか?」


「あっ、そんなことなら私が!」


 俺が掃除道具に手をかけるとアイラが慌ててそう声を出す。


(ん? 女性の仕事だということかな?)


 とはいっても、アイラはお嬢様的雰囲気が強いから普段家事とかやってなさそうな感じだが。


「慣れてるから大丈夫。任せてくれ」


 そう。俺におあつらえ向きな仕事なのだ。



「すっ……凄い!」


 それから一時間。俺が作業を終えた天幕を見たアイラは驚いた声を出した。


「まるで新品みたいです! しかもたった一時間で!」


「新品は言い過ぎだろ。穴は布を当てただけだし」


 天幕の穴には補修用の布を縫い付けただけ。雨は防げると思うが、見た目が良いとは言えないなあ。


「えっ……でも、何ていうか、すっごく空気がいいというか……」


“マナの淀みがないな。うん、悪くない”


 何だ、今の声!?


 俺が何がいうよりも早く、どこからともなく目の前に可愛らしい小型犬が現れた。


「ハーディア! あ、すみません、レオさん。私の精霊です」


 精霊!? 精霊守だから連れていてもおかしくはないか。でも……


(実体がある……そんなことってあるのか?)


 精霊について詳しいわけじゃないが、精霊は通常実体がなく、触れたりすることが出来ないと聞いている。だが、目の前のこの精霊は……


「頭を撫でるくらいなら良いよ。この空間は心地いいからね」


「じゃあ、遠慮なく」


 さわさわ……


 あ、触れた。しかも何か気持ちいい。


「ムムム……君、中々上手いね」


 精霊は気持ち良さそうに俺へ頭を預けてくる。何か本当に犬みたいだな。


「ふふふっ、ハーディアが私以外に懐くなんて珍しいです。私、食事の用意をしてくるのでしばらく撫でてやって貰えますか?」


「ああ、分かった」


 なかなかレアな体験だしな。堪能させて貰おう。


〈ギルド長ザガリー視点〉


(ふぅ……やっと落ち着いて次に進めるな)


 ようやく精霊守の出迎えの段取りに取りかかれる。


(レオは出迎えの準備を先にやったほうが良いとか言ってたな……あの勘違い団子っ鼻め)


 精霊守に不備を見られる訳にはいかないだろ! これだから視野の狭いやつは困る。


(精霊守の出迎えは重要行事。全てが落ち着いてからじゃないと出来ないだろうが!)


 でもまあ、しばらくあいつの顔を見ないで済んだのと、スキル覚醒用の冒険者プレートの件が片付いたおかげで俺の気持ちも落ち着いた。


 うん、退職金は無理だが、今月の給料は日払いで出してやろう。


(確かウチへの訪問に当たっては色々な条件を付けられたな……)


 実は今回の精霊守による訪問は定例のものではない。最近、どうも祭器の調子が悪く、そのメンテンスのために精霊守の派遣を依頼したのだ。


(祭器は精霊と冒険者を繋ぐ鍵。今のままじゃ、何が起こってもおかしくない)


 スキル覚醒用の冒険者プレートの不調はその一環に過ぎない。プレートのステータス表示の異常にコモンスキル習得に関するトラブル……色々と誤魔化しているが、色んな面でギルドの運営に支障をきたしているのだ。


(にしても、たまたま精霊守の家系同士でいざこざが起こってるなんて運がないな)


 詳しい話は聞けなかったが、ロザラムに来る道中で他の家から襲われる可能性があるとか。ぶっそうな話だが、この地域にある精霊守の資格がある十の家系のうち精霊守を出せるのは一家系のみ。話し合いがまとまらないと、こういうことも起こるらしい。


(で、襲撃を受ける可能性がある場所にたどり着く前に俺と精鋭冒険者が合流する、と)


 まあ、第三者の目があれば、流石に自重するだろう。戦闘にならないなら、まあ大した手間にもならないな。


(確か合流する時間は……)


 俺は二〜三日前から机の上に置いてある封書に手を伸ばした。赤いロウにルースリー家の家紋が押されているのを確認し、封を切る。


(何々……危険度が増したため、訪問を急遽早めるだと)


 その可能性については確かに通告されていた。で、何時なんだ?


(あれ……これ、既に過ぎてないか?)


 書かれていた期日はきっかり一日前。つまり、俺達がスキル覚醒用の冒険者プレートの修理に取り掛かっていた頃だ!


(ヤバイ、これはヤバイぞ!)


 今クエストに出てないのはC級やD級ばかり。こいつらじゃ明らかに力不足。くそ、誰が他に……


(あっ、あいつらならまだ事務所にいるな!)


 俺はトーマス、ヘンリー、マックスの名を叫びながら部屋を飛び出した!


〈レオ視点〉


 しばらく撫でているとハーディアとかいう精霊は寝てしまった。ほんと子犬みたいだ。


「凄いですね。ハーディアが私以外にこんなに気を許したところは初めてです」


 かまどで温めた携帯食を運んで来たアイラはそう言って驚く。まあ、俺は動物にはよく懐かれるからな……こいつは動物じゃないけど。


「すみません、大したものじゃないですけど」


 携帯用の硬いパンをふやかして作ったスープ。まあ、お世辞にも豪盛とは言えないが、温かいものが食べられるというだけで有りがたい。


「ハーディア、起きて! ほら、ご飯だよ」

「ん? う〜ん、寝ちゃってたか」


 そういうと、白い子犬(のように見える精霊)は俺の膝から降り、アイラが置いた皿に向き合った。


「この空間といい、撫で方といい、本当に君は凄いな。人間とは思えないよ」


 そう言いながら食べる様は子犬そのもの。とても精霊とは思えないが……


(いや、犬なら喋らないか)


 まあ、どうでも良いことだけど。


「確かにレオさんは凄いですね。私は家事があまり上手くなくて……」


「それは言いすぎだよ、アイラ。どちらかというと──」


「ありがとう、ハーディア。でも、レオさんを見習って頑張らないと」


 そう言って小さくガッツポーズをするアイラは最高に可愛い。なので、ハーディアがぼそっと続けた言葉は彼女耳に入らなかった。


(今、壊滅的とか言わなかったか?)


 オイオイ、まさかそんな……


「ともかく普通じゃない。何かスキルの恩恵があるとしか思えないよ」


 スキル……


「こらっ! スキルは冒険者にとって生命線なんだから無闇に聞いちゃ駄目! ごめんなさい、レオさん。この子、ちょっと人間の常識に疎くて……」


「あ、いや」


 スキルの恩恵といえばまあそうだ。だが、掃除をするためのスキルなんて一体なんの役に立つのやら……



 食事を終えた後は早めに寝ることにした。交代で……と思ったのだが、不寝番はハーディアが引き受けてくれた。何でもハーディアは基本眠る必要がないらしい。


 尚、怖い顔で“アイラに変なことをしたら殺す”と脅されたが、馬鹿言っちゃいけない。こちとら既に人生守りに入ってるんだ。うら若き美少女、しかも精霊守にオイタが出来るような度胸も無謀さも持ち合わせてはいないって。


「ふぅ……」


 すぐ隣には寝袋にくるまったアイラがいる。既に寝息を立てているところを見ると、もう寝てるのかな。


(今日は色々なことがあったな……)


 アラフォーのおじさんにはかなりハードな一日だったらしい。俺の意識は急に遠くなっていった。



 スキルが無ければこれから手に入れればいい!と息巻いたは良いが、現実はそんなに甘くなかった。スキルもない冒険者とは誰もパーティーを組んでくれなかったのだ。


 仕方なくソロでクエストを受注していったのだが、これが恐ろしく非効率的だった。周りがどんどんレベルを上げていく中で、俺は中々レベルが上がらない。そんな状況に俺は焦りを覚えた。


◆◆◆


レオ 人間(男)

Lv   3

力   10

防御  8

魔力  8

精神  7

素早さ 9


スキル


SP 2


◆◆◆


(何度見てもSPは2。レベルが一つ上がるごとに一ずつしか貰えないのか……)


 例外もあるらしい。例えば、同じ種類の魔物を連続で倒したり、レベル差のある魔物を倒したりといった条件を満たすとSPが貰えると初心者用冒険者ガイドブックには書いてあった。


(だけど、俺一人じゃ……)


 一人で満たすことの出来る条件もある。例えば、「推奨レベルが自分のレベルより十以上高いダンジョンのソロクリア」とかだ。だが、そう言った条件はスキルが……しかも、相当強力なスキルが必要になる。つまり、“あちらを立てればこちらが立たず”ってことだ。


(でも、やるしかない)


 成功して戻ってくると言って村から出たんだ。ここで諦める訳にはいかない。俺は安全マージンを取りつつ、クエストをこなしていたのだが……


「う、嘘だろ! 何でこんな場所にコイツが……」


 いつものようにゴブリンの間引きをするクエストを受けていた俺は帰り道にアウルベアと鉢合わせてしまったのだ!


(どうする……っ! アウルベアは中級の魔物。明らかに格上の相手だ)


 幸いまだ気づかれてはいない。逃げることも今なら可能かも知れない。だが……


(ロザラムに近すぎる。ここで止めなきゃ被害者が出るかも……)


 勿論、ロザラムに戻り次第、直ぐにギルドに報告するつもりだ。が、それでは間に合わないぞ、これ!


「わっ! 魔物!」

「こ、来ないで!」


 その時、唐突に子どもの悲鳴が辺りに響いた。しまった、薬草かキノコを取りに来たのか!?


(行くしかないっ!)


 俺はアウルベアの前に飛び出した!



 翌朝、俺はスッキリした気分で目が覚めた。


(ふぁぁ! よく寝た!)


 昔の嫌な夢を見た気がするが、何故か気分は良い。珍しいな。


「んっ……あ、おはようございます。気持ちのいい朝ですね」


 アイラは軽く伸びをした後、屈託のない笑顔をこちらに向ける。


(本当に可愛いな……)


 いや、別にやましい気持ちはないぞ。綺麗なものを綺麗だと思うのは当たり前だからな!


「おはよう、アイラ」

「ハーディア、見回りありがとう! 」


 気配を察したのか、天幕の外からハーディアが姿を現した。尻尾を振って近づく姿は、相変わらず白い子犬のようだ。


「随分機嫌がいいね。いつもは寝起き悪いのに」


「そう?」


「だっていつもは“後五分〜”とか“もうちょっとだけ”とか言ってなかなか──むぐっ!」


 アイラは顔を真っ赤にして慌ててハーディアの口を塞ぐ。


「ハ、ハーディア! レオさんの前でやめて!」


 アイラが目をこすりながら“後五分〜”とか言って甘える姿……破壊力バツグンだな。


"妄想禁止!"


(っ!)


 脳に直接響くこの声は一体!


“キミのことは気に入ってるけど、アイラのことなら話は別だ!”


 これは……ハーディアか?


 見ると、ハーディアはアイラに口を塞がれながらも俺の方を睨んでいる。


(……分かった)


“分かればよろしい”


(……それにしても人の心を読めるとか、流石精霊だな)


“いくら僕でも心を読めるわけないよ。アイラに邪な思いを向ける人を感知できる魔法を使ってるだけさ”


 よ、邪な思いって……


(ハーディアは随分過保護な精霊だな)


 まあ、とりあえず気をつけよう。



「で、道は分かるんだよね、レオ」

「ああ、だけど問題がある」


 正直、森の中を通るとは言え、道はさほど複雑じゃない。天幕の様子から見ても一昔前は冒険者も出入りしていたみたいだし、道も残っているだろう。だが……


「ここに出る魔物はちょっと厄介らしいんだ」


 野営地にあった資料にはこの辺りにでる魔物、パラライズクロウラーについて書かれたものが多数あった。


◆◆◆


パラライズクロウラー

 イモムシを巨大にしたような外見。動きは遅く、攻撃力と防御力は低い。しかし、体液には麻痺毒がある。


◆◆◆


 後は巣の場所や攻撃パターンが書かれた資料もあったが……正直厄介すぎる。体液に麻痺毒があるということは倒したときにも麻痺毒を浴びる可能性があるということだ。


「――という訳だから、俺が引きつけるからアイラはあの攻撃魔法で援護を頼む」


「そんな! レオさんが大変なんじゃ!」


「妥当な提案だよ、アイラ。レオが盾にならなきゃアイラは攻撃に専念できないよ」


「でも、レオさんだけが傷つくなんて……」


 ……こんな冴えないおっさんの心配をしてくれるとは。なんて優しい子なんだ、アイラは。


「大丈夫だ、アイラ。奴らの攻撃力は低いらしいし」


 そう。麻痺だけが厄介なのだ。


「でも……」


「それに武器と防具も見つかったしな」


 実は掃除をした時に剣と鎧を見つけたのだ。大したものではないし、しばらく放って置かれたものだから劣化はしているが、それでもあるとないのとではやはり違う。


「レオなら大丈夫さ。僕も援護をするから」


「……うん、分かった」


 アイラは渋々と言った感じで頷く。その様子があまりにいじらしく、頭を撫でたく──


(ヤバイ、怒られる!)


 と思ったが、ハーディアからはお咎めがない。あれ……?


“アイラの盾になることに免じて今日だけはちょっと妄想するくらいは許す”


 あ、そう……



 出発してから二十分ほど歩くと、あちこちに芋虫がもぞもぞと歩いたような跡が見られるようになった。


「いよいよ来たな……」  


 野営地に残されていた書類にもこの辺りからパラライズクロウラーが出てくるって書いてあったな。


「行くぞ!」


「はい!」「いつでもいいよ!」


 俺が走り出した途端、パラライズクロウラーがやってきた!


(十匹か!)


 個人差はあるが、何の防御もしていない場合、攻撃を受けたり体液を浴びた時に麻痺する確率は四割程度。つまり、無傷で倒したとしても四回は麻痺することになる。


(麻痺すれば暫くは攻撃を受け続ける羽目になるが……アイラとハーディアが助けてくれるだろ)


 俺はとにかくアイツらの気を引きながら戦えばいい!


「はっ!」


 足を切りつけ、怯んだところに頭部に一発! 先ずは一匹片付いた!


 バシャッ!


 体液が腕にかかるが……


(今回は麻痺はなし。ついてたな)


 最初から麻痺するとかカッコ悪いからな。


「《水弾》!」「《水壁》!」


 アイラが一匹を倒し、ハーディアが俺とアイラの間に壁を作る。よし、これで安心して戦える!


「いくぞ、イモムシ野郎!」


 どこで麻痺するかは分からない。だが、やれるところまでやってやろうじゃないか!


「ふぅ……ここもあらかた片付いたか」


 パラライズクロウラーとの戦いもこれで三戦目。倒した数は……三〜四十匹くらいだろうか。


(だけど、おかしい。全然麻痺にならない)


 四割で麻痺になるなら十五〜六回は麻痺を引いて奴らにボコられてなきゃいけないのに……


「大丈夫ですか、レオさん。攻撃何度かうけてますよね……」


「ああ。でも、大した傷じゃない。それよりも〈水弾〉で大分Mpを使っただろ?」


 アイラは全力で俺に近寄ろうとするパラライズクロウラーに〈水弾〉で攻撃してくれていた。実際彼女の援護が無ければ何度も攻撃を受けていただろう。


「僕が外に出ている時は精霊魔法を使ってもアイラはあまりMpを消費しないよ」


「へえ〜」


 やや自慢気に胸を張るハーディアの言葉に俺は驚く。


(マジでか! 初めて聞いた。)


 精霊守ってみんなそうなのかな? いや、そんなはずあるわけない。


「それにしてもキミは面白いね。凄く運が良いのか、何か他に理由があるのか……」


 運は……いいかな? しかし、他に理由か。


(ステータスを見てみるか)


 何かあったらステータスを確認。これは冒険者の基本だ。まあ、もう大分見てないけど。


◆◆◆


レオ 人間(男)

Lv   21

力   19

防御  17

魔力  16

精神  16

素早さ 18


スキル

〈雑用(Lv1)〉

※状態異常無効・経験値UP付与中 new!


SP 52

※連続撃破ボーナス new!


◆◆◆


 え、Lvが滅茶苦茶上がってる。元々Lv12だったのに! 後、この「状態異常無効・経験値UP付与中」って何だ?


(それに……SPが52!?)


 何気なく開いたステータス画面だったが、一体何が起こってるんだ、これは……


「レオさん、また!」

「いくよ、レオ!」


 二人の声で前を見ると、新手のパラライズクロウラーが……ホント、うじゃうじゃいるな。


(とにかく次の野営地に着いてから考えよう)


 俺は気持ちを切り替え、剣を抜いた。



 かなりの数のパラライズクロウラーに出会ったので野営地に着くころには夕方になっていた。


(結局一回も麻痺にはならなかったな)


 これも〈雑用〉のおかげなんだろうか……


(確認してみるか)


 今、アイラは食事の準備をしていて俺は一人。あ、膝にはハーディアがいたか。ちなみにこの野営地も俺が綺麗に整えておいた。


◆◆◆


レオ 人間(男)

Lv   29

力   23

防御  21

魔力  20

精神  20

素早さ 22


スキル

〈雑用(Lv1)〉

※状態異常無効・経験値UP付与中


SP 158

※連続撃破ボーナス new!


◆◆◆


 うおっ……何だこりゃ。


(この〈雑用〉ってどんなスキルなんだ?)


 実は俺はこのスキルについての詳細を確認したことがない。だって、雑用だぞ!? 大した効果はないって誰でも思うだろ。


(まあ、いいや。見るだけ見てみよう)


◆◆◆


〈雑用(Lv1)〉

掃除などの雑用が手早く出来るようになる。また、雑用の恩恵を受けた者にランダムで追加効果を付与する。


◆◆◆

 

 ランダムで追加効果……今回は状態異常無効・経験値UPが付与されたってことか。


(ん? 待てよ……じゃあ、今までは誰にこの効果が付与されてたんだ?)


 ギルドの掃除なんかは俺の仕事だったから……どうなるんだ?


〈ザガリーギルド長視点〉


「これは一体どういうことだ!」


 俺達はとにかく急いで合流地点に急いだが、勿論間に合うはずもなく……今は燃えるような赤髪の女剣士から猛烈な抗議を受けていた。


「ダグラス家からの襲撃が予想されたにも関わらす、“必ず護衛する”とそちらが何度も保障したから里を出たというのに!」


 ぐぐぐっ、それは……


「皆様には今すぐ治療をさせて頂──」


 恐る恐るマックスがそう言いかける。が、その申し出に赤髪の剣士は更に激高した!


「我らのことなどどうでもいい! しかも、やっと来てみればたった四人。しかも、退役したような冒険者ばかり……我らを舐めているのか!」


 ぐぐぐ……本当は〈剣術〉のスキル持ちのオスカーとかうちのエースを連れてくるつもりだったんだよ!


(それもこれもあんた達が来るのが急に早まったからだろ!)


 だが、そんなこと言えるはずがない。だって、時期が悪いと精霊守の派遣を渋るルースリー家に“必ず護衛を送る”と確約したのは俺だしな……


「これがお前達の言う誠意か……もう、いい! 私達はアイラ様を探す! お前らは私達の邪魔をするな!」


 そう言うと、赤髪の剣士は名乗りもせずに部下を引き連れ、俺達に背を向けた。


(や、やばい)


 完全に怒らせてしまった。何とか挽回しないと……


 ブブブ! ブブブ!


「ギルド長、通信用の魔道具が」

「分かってる」


 マックスにそう言われて、懐に手をのばす。これはよっぽどのことがない限り鳴らすなと言ってあるのだが……どうしたんだ、一体。


「ザガリーギルド長、大変です!」


 何だ! 既にこっちは緊急事態だよ!


「オスカーのパーティーがクエストを放棄して戻ってきました!」


「何? オスカーが戻ってるのか!」


 よし、なら急いでこっちに……って放棄だと?


「他にも続々とクエストを放棄して戻るパーティーが……先方からのクレームがつぎつぎと」


 な、何ぃ?


「一体何があった? オスカーはウチのエースだぞ! それに他のパーティーもクエスト放棄っていうのはどういうことだ!?」


「状態異常にする魔物にやられたと……こんなことは初めてです!」


 状態異常だと? そんな話今まで一度も出たことないじゃないか。


「とにかく早く戻ってください! 私達では手に負えません!」  


 はあぁぁ? こっちはそれどころじゃないんだよ!!!


〈レオ視点〉


「――ってことがあったんだけど」


 食事の時にアイラとハーディアに自分に何が起こったのかを説明すると……


「アイラ、ステータスを見てみよう!」

「う、うん!」


 アイラは冒険者プレートを握りしめ、“ステータス”と囁き、ステータス画面を開いた。


「ええっ、私も!?」

「凄いや、アイラ! ほら、レオも見てよ」


 いや、人のステータスを見るわけには……


「お願いします。レオさんのステータス画面と同じかどうかを見てほしいんです!」


「……分かった」


◆◆◆


アイラ ???(女)

Lv   28

力   10

防御  11

魔力  37

精神  36

素早さ 13


スキル

〈下級精霊魔法(Lv1)〉

〈???〉

※状態異常無効・経験値UP付与中 new!


SP 102

※連続撃破ボーナス new!


◆◆◆


 SPが違う……多分、俺の方がパラライズクロウラーを倒した数が多いから“連続撃破ボーナス”とやらを稼げたんだろう。


(それにしても“???”って何だ?)


 まあ、訳ありなんだろう。精霊守だしな。


「ねえねえ、レオのステータスも見せてよ」

「こら、ハーディア! マナー違反でしょ」


 アイラはそう言うが、俺だけ見せないってのもな……それに相談したいこともあるし。


「ああ。見てくれ」


 俺はステータス画面を出し、二人に見せた。


◆◆◆


レオ 人間(男)

Lv   29

力   23

防御  21

魔力  20

精神  20

素早さ 22


スキル

〈雑用(Lv1)〉

※状態異常無効・経験値UP付与中


SP 158

※連続撃破ボーナス new!


◆◆◆


 勿論、さっき見た時と一緒だ。


「この〈雑用(Lv1)〉ってスキルのおかげで“状態異常無効・経験値UP付与”って効果が得られたんでしょうか」


「どうもそうらしいんだ」


「〈雑用〉……掃除が早いのとか、掃除したらマナの淀みが消えてるのとかもこれのおかげ?」


 ハーディアが首を傾げながら尋ねてくるが……


「掃除が早いのはスキルのおかげだが、それ以外は分からないな」


 残念ながらマナの淀みとか俺には分からないしな。


「それにしてもステータスがかなり高いね。アイラもかなり高い方なんだけど」


 グイグイ来るな……


 アイラは控えめだが、ハーディアは食い入るようにしてステータス画面を見てくる。まあ、ただのギルド職員だから、ステータスを見られたところで困りはしないが。


「アイラの魔力とか凄いぞ。こんな数字、ベテラン冒険者の域じゃないか」


 魔力は魔法の効果や持続時間に影響する。魔法使いにとっては比較的気になるパラメーターだ。


「でも、レオは全体的に高い。今日の戦いを見ていたけど、剣の使い方とか戦い方とかも上手いし、かなり強いんじゃない?」


 へ?

 

「田舎では剣の使い方は習ってたけど……」


 それに冒険者として活動していた頃は色々な立ち回りの仕方を考えていた。アイラを助ける時に使ったジャコウソウを使った立ち回りもその時に見つけたものだ。


(アウルベアにやられて大ケガをするまでだな……)


 ケガをした俺に対する周りの反応は冷ややかだった。


“まだアウルベアも倒せねぇのか、アイツ”

“返り討ちとか格好悪っ!”


 あの時の周りの反応……アウルベアは中級の魔物だが、俺の同期にとっては既に楽に倒せる相手だったのだ。


「もうっ、ハーディア! レオさん困ってるでしょ! ごめんなさい、レオさん。ハーディアは夢中になると周りが見えなくなるんです」


「や、別にいいよ」


 アイラが申し訳無さそうにそう言ってくるが、別に迷惑とかそう言うわけじゃない。ただ単に言われたことにびっくりしただけだ。


「で、SPはどうするの? アイラは精霊魔法のスキルLvを上げるよね」


「勿論」


「レオがどうするのか興味あるな」


 俺が悩んでいたのがまさにそこだ。


(SPが100あれば、どんなコモンスキルでも習得出来るが……)


 選ぶとしたら〈剣術〉だろう。持っているだけで剣を装備した時の攻撃力が上がる上、スキルLvを上げれば攻撃用のスキルも習得可能になるという強スキルだ。


(最初のスキルがこれだと冒険者としての活躍が保証されたも同然だとかいうな……)


 しかも、これを取ってもまだSPが残るとか贅沢過ぎる。


(でも、俺は今冒険者じゃないしな……)


 こんな考えを言葉にすると、二人からは意外な反応が返ってきた。


「〈雑用〉のスキルLvを上げるべきだって! これ、絶対ユニークスキルだよ。超凄いし」


 ……超凄い? そうかな?


「こんなに強いのに冒険者やらないんですか!? 勿体ないですよ」


 アイナは最後の辺りに食いついて来たんだな。強い?……うーん、今回のはたまたまじゃないかな。


(そう言えば、次の目的地は確か……) 


 掃除の最中に見つけた地図と書類を思い出す。確かランドタートルとかいう厄介な魔物だ。この魔物が厄介なのはその甲羅の硬さ。しかも、攻撃力がそこそこあるので並の攻撃力では倒す前に倒されてしまうのだ。


(まあ、明日が終わってから判断しても遅くはないだろ。流石に今日たまたま上手く行ったからといって〈雑用〉にSPをつぎ込む気にはなれないな)


 俺の化けの皮も明日には剥がれるだろう。ちょっと寂しくはあるが……まあ、いつものことだ。



 とりあえずSPはふらずに迎えた翌朝。出発の準備を整えた俺がステータスを開くと……


◆◆◆


レオ 人間(男)

Lv   29

力   23

防御  21

魔力  20

精神  20

素早さ 22


スキル

〈雑用(Lv1)〉

※徹甲・攻撃力UP付与中 new!


SP 158


◆◆◆


 ちなみに徹甲とは“攻撃時に防御力無視してダメージを与える”という強効果だ。


「あ、今日も〈雑用〉の効果が発動してる。しかも、昨日と違うね……面白いなあ」


 ハーディアはアイラのステータスを覗き込みながらニヤニヤしている。何が面白いんだ?


「ごめん、でもあまりアイラには役に立たない効果だよな」


 アイラは魔法による攻撃が主だから“徹甲”の恩恵が得られないのだ。


「そんな! 魔物の注意を引き付けて貰えるだけで十分ありがたいです! むしろお世話になりっぱなしで、お役に立てるかどうか……」


 お世話……SPが大量に手に入ったことかな? でも、まあ、あれはたまたまだし……


「アイラ、謙遜しすぎだよ。昨日〈下級精霊魔法〉のスキルLvを上げて新しい魔法を覚えただろ? 今日はレオに負けない活躍が出来るはずさ」


「活躍って……大体新しい魔法を覚えられたのはレオさんのおかげなのに」


 アイラはそう言って顔を伏せる。すれと……


“レオ、フォロー!!”


 えっ、フォロー??? えっと……


「昨日もアイラには助けられたし、今日も頼りにしてるよ」


 彼女いない歴=年齢の俺にはこの程度が精一杯。だが……


「ほっ、本当ですか! レオさん!」


 わ、わっ! 近い!


 まるでキスしそうな位置まで距離を詰められた俺は反射的に後ずさったのだが、手を握られているのでどうにもならなかった。


「私、今日も頑張りますから見ててくださいね!」


 うわっ……なんて可愛い顔をするんだ。こんな顔を向けられたら好きにならない男なんていないんじゃ……  

“レオ――ッ!”


 はっ、危ない!


「ああ。……あの、そろそろ手を」

「あっ! 私ったら!」


 顔を赤くしながら慌てて手を離す仕草も可愛らしい。本当にいい娘だな。

 

(……手、柔らかったな)


 だが、そう考えた瞬間、また殺気を感じたため、俺は慌てて余計な思考を頭から追いやった。



「〈雨弾〉!」

 

 大量の水弾がランドタートルへ降り注ぎ、一体、また一体と撃ち倒していく。


(新しい魔法は範囲攻撃が出来るのか……)


 ハーディアが自慢していたのも納得する威力だな。


(でも、こんな凄い魔法を覚えたのに何でアイラはあんなに謙遜していたんだろう……)


 謙遜というより、いっそ……


“色々あってね。アイラは自信がなかなか持てないんだ”


 自信が持てない? あんなに可愛くて魔法も使えておまけに精霊守。ちやほやされてもおかしくない気がするが……


“だから、僕はアイラに自信をつけたくて……アイラはレオのこと、気に入ってるみたいだし、協力してくれると嬉しいな”


 アイラが俺のことを……? いやいや、有り得ないだろ。だけど、どうもアイラに自信がないというのは確かっぽい。


(役に立てるかは分からないが……出来ることならやるよ)


“ありがとう、レオ。やっぱり君はいい奴だな”


 お前もな……まあ、ちょっと過保護過ぎるけど、それもアイラに自信がないことと関係してるのかもな。


“……! レオ、新手だ!”


(分かってる!)


 こんな会話をしていても戦闘は継続中だ。スキルのおかげで甲羅を豆腐のように裂くことが出来るとはいえ、数は多い。相手の攻撃をかわしながら剣を振らなくてはいけない。


 ズバッ! ブンッ! スパッ!


 厄介なはずの魔物だが、今の俺達にとっては楽な相手だ。


(油断は禁物だが……正直いい稼ぎ相手だな)


 戦っていると、レベルアップするたびにバイブするように設定した冒険者プレートが何度も振動する。野営地についてステータスを見るのが楽しみだ。


 休みを挟みつつ、昼ごろまで戦い続けると、ようやく次の野営地が見えてきた。



 グツグツグツ……


 野営地についた俺は鍋でランドタートルの肉を茹でている。ランドタートルの肉は知る人ぞ知る珍味。調理がちょっと面倒くさいが、グルメが大枚をはたいて求めることもあるのだ。


(料理は雑用じゃないから手早くはならないんだよな……)


 肉を切ったりといった下ごしらえは〈雑用〉が発動して手早く出来た。多分、これで明日も何らかの効果を得られるだろう。


(SPはどうするかな……)


 ちなみに今のステータスは……


◆◆◆


レオ 人間(男)

Lv   29

力   23

防御  21

魔力  20

精神  20

素早さ 22


スキル

〈雑用(Lv1)〉

※徹甲・攻撃力UP付与中


SP 503

※ランドタートル連続撃破ボーナス


◆◆◆


 ランドタートルの方はパラライズクロウラーより数が少なかった分、昨日より得られたSPが少ないと思ったのだが、そうでもない……というか、何だこの数字は。


(そう言えば、〈雑用〉のスキルLvを上げるにはどれくらいのSPがいるんだろう)


 普通、スキルLvを上げるには習得に必要なスキルの半分程度。だが、〈雑用〉はSPを払って覚えたスキルではないので正確なところは分からない。


(まあ、20〜30ってとこだろう。50ってことはないだろうな)


 そう思いながらステータスを操作すると……


◆◆◆


〈雑用(Lv1)→〈雑用(Lv2)〉 

 SP503  →SP3


◆◆◆


 なっ……何ぃ!? 


 レベルを上げるのにSPを500も使うのか、このスキル! 無茶苦茶だな!


(スープは……後は暫く寝かせればいいか)


 どうするかはアイラやハーディアの意見も聞いてみてから考えるか。まだ掃除も残ってるしな。



 ランドタートルの肉とアイラの採ってきた山菜のスープに舌鼓を打った後、俺は二人にSPの使い方について相談した。


「500か……まあ、でもその分の価値はあるんじゃない?」


「そうか?」

 

 ハーディアの言葉に俺は首を傾げたが……


「だって、このSPは〈雑用〉があったから手に入ったんだし」


 ……そう言う考え方も出来るな。


「それに何か面白そうだ。そんなスキルみたことないし、Lvが上がったらどうなるか見てみたい!」


 興味本位かよ!


「もうっ、ハーディア! せっかくレオさんが相談してくれてるのに!」


 アイラが唇を尖らせるが、ハーディアはどこ吹く風だ。


「確かにSPが500も必要なのにはびっくりですが……正直その価値はあるスキルだと思います」


「そ、そうかな」


 アイラの表情は真剣だ。彼女の性格上、本当にそう考えてるんだろう。


「パラライズクロウラーもランドタートルも下級の魔物ですが、討伐難度は中級レベルと言われています。ハーディアの援護があってもあの数を二人で倒すことが出来るようにするスキルなんて他にありませんよ!」


 パラライズクロウラーやランドタートルは麻痺能力や防御力の高さのせいで実入りの悪い魔物として冒険者から不人気な魔物だ。この辺りの設備がボロいのもそのせいかもな。


(といっても間引きや生息調査のためにクエストを出さなきゃいけないはずだけど……)


 今までの野営地と同様、ここもしばらく人が入ってない感じだった。


(まっ……とりあえずSPのことを考えるか)


 SPが500あれば、〈剣術〉〈鑑定〉〈アイテムボックス〉など今まで欲しいと思っていたスキルが全て手に入る。それらを諦める価値が〈雑用〉にあるのか……



 ビュッ! 


 風切り音と共に急降下してきた魔物、クロムレイヴンを紙一重で避けると同時に剣を突き立てる。勿論、こんなこと、今の俺の力で出来ることじゃない。スキルの力だ。


(これが回避カウンター……〈雑用〉のスキルLvが2に上がったことで開放された新たな力か)


 結局、勧められるままに〈雑用〉にSPを振ると、スキルの説明文がこうなった。


◆◆◆


〈雑用(Lv2)〉

 掃除などの雑用がかなり手早く出来るようになり、出来もかなり良くなる。また、雑用の恩恵を得た者に以下の追加効果のうちから三つ選んで付与することができる。


(選択出来る追加効果)

力UP(中)・防御力UP(中)・魔力UP(中)・精神UP(中)・素早さUP(中)・状態異常無効(中)・経験値UP(中)・取得SPUP(中)


※対象者によっては日替りで選択出来る追加効果を選択出来ることもある。


◆◆◆


 俺が選んだ回避カウンターは日替りで現れるタイプの追加効果。初撃は100%回避出来るが、二撃目からは発動する確率が減っていく。だが、二つ目に選択した追加効果、力UP(中)のおかげで二〜三発で止めをさせるため、何も困らない。


(クロムレイヴンはパラライズクロウラーやランドタートル以上に厄介な魔物のはずなんだけどな)


 クロムレイヴンは上空から突進してくる上に体が硬い。そのため、落下するスピードと相まって、落下しながらの攻撃には砲弾のような威力がある。


(それを躱したとしても、並の攻撃ではダメージが与えられない……もたもたしていれば、再び上空へと逃げられてしまう)


 で、また厄介な急降下を受けるという悪夢のような魔物だ。だが、厄介な落下攻撃を回避カウンターで躱し、奴の防御を貫く攻撃が出来るなら何の脅威でもない。


「〈雨弾〉!」


 クロムレイヴンにとっては魔法が一番効果的。だが、今のアイラの攻撃は一味違う。 


「グァッ!」「ガァッ!」


 雨のように降り注ぐ氷の針が全てクロムレイヴンに突き刺さる! アイラが選択した追加効果、攻撃魔法必中の力だ。


 バタバタバタ……


 クロムレイヴンが次々に空から落ちて来る。アイラの魔法攻撃は二つ目の追加効果、魔力UP(中)でとんでもない威力になっているのだ。


(今回はアイラが主役だな)


 落下してくるやつを狩る俺と空を飛んでいるところを攻撃出来るアイラでは倒せる数は違う。


(少しは自信がつけばいいけどな)


 そんなことを考えながら襲ってくるクロムレイヴンと戦っていると……


「クロムレイヴンの巣か」


 クロムレイヴンは地面に穴を掘って作った巣に光り物を集める習性があるのだ。で、稀に貴重なアイテムが眠っていることもあるとか。


(まあ、大抵小銭や破損した武具くらいだが……)


 さほど期待せずに巣を漁る。すると……  


(これは……まさか!)


 巣にあったのは赤い石がついた首飾り。それが何が俺は一目で分かった。


(これは魔道具か……)


 魔道具とは魔力を注ぐことで魔法を発現する道具のことだ。点火するための小さな火を灯すもののようにありふれたものから世界に一つしかないものまで価値はバラつくが、基本安いものではない。


(何の魔法かは分からないが……使ってみる価値はあるか)


 時間をかけてわざわざ作るものなので、人が不利になるような魔法は入ってないはず。俺は魔道具を首にかけると、魔力をこめた。


(さあ、何の魔法かな……)


 ブンッ!


 魔道具が起動し、音なき音が鳴り響く。その瞬間……


「ガァガァッ!」

「ガァッ!」

「ガガガァッ!」


 クロムレイヴン達が急に俺に向かって襲いかかって来る。これは〈ヘイト〉の魔法か。


(丁度良いな)


 今の俺には回避カウンターが発動している。だがら……


 スカッ……ズバッ!


 攻撃を避けては反撃、次の攻撃も避けては反撃……回避から反撃までが自動的なので全く困らない。しかも……


 グサグサグサッ!


 的が絞られたことでアイラも魔法を撃ちやすくなる。これはいよいよ作業に近くなってきたな。


 バタバタバタ……スカッ!


 あまりにサクサク討伐が進むので。しまいには絶命して地上へと落ちてきたクロムレイヴンにさえ回避カウンターが発動する始末。


 結局クロムレイヴンの討伐は二〜三時間で終わり、俺達は昼ごろまでクロムレイヴンの巣を漁る作業に従事した。



 野営地に着き、掃除や補修が終わったあと、俺達はステータスを開いた。


◆◆◆


レオ 人間(男)

Lv   37

力   27

防御  25

魔力  24

精神  24

素早さ 26


スキル

〈雑用(Lv2)〉

※回避カウンター・力UP(中)・取得SPUP(中)付与中


SP 452

※クロムレイヴン連続撃破ボーナス


◆◆◆


 おおっ! SPがほぼ元に戻ってる!


(〈雑用〉にSPを振って正解だったな)


 本当、二人の助言には感謝だ。


「レオさん、見てください! 私、Lv37になりました!」


◆◆


アイラ ???(女)

Lv   37 

力   13

防御  14

魔力  46

精神  45

素早さ 16


スキル

〈下級精霊魔法(Lv3)〉

〈中級精霊魔法(Lv1)〉

〈???〉

※魔法攻撃必中・魔力UP(中)・取得SPUP(中)付与中


SP 582

※クロムレイヴン連続撃破ボーナス new!


◆◆◆


 SPは前回の野営地で使い切らなかったらしく、俺よりも多い。それにしても凄いパラメーターだな。


(まあ、今回稼いだ分も俺より多かっただろうな)


 Lvが同じになっているのがその証拠だ。


「〈雑用〉、本当に面白いスキルだ。まさかこんなことが出来るなんて……」


 ハーディアは俺達のステータスを見ながら何やらしきりと感心している。まあ、確かに予想外の結果ではある。


 ちなみにクロムレイヴンの巣には剣と古びたポーションがあった。ポーションはもう使えないが、剣はミスリル製の業物。少し錆びてはいるため、後で手入れして俺が使わせてもらうことになっている。


「確かこの先はもう魔物がいないんでしたよね」


「ああ、この先からは定期的に間引きがされている地域だからな。ロザラムまでは後少しだ」


 勿論絶対ではないが、それでも今まで通ってきた場所みたいに魔物が溢れているわけではない。


「まあ、レオのおかげでいいレベルアップになったけど、何で放っておいたんだろう」


「ロザラムからさほど離れていないのに結構な数の魔物がいて……スタンピード直前って感じだったよね」


 スタンピードとは魔物が大挙して人のいる地域へとなだれ込んでくる現象のこと。魔物は数が増えて共食い寸前になると、新たな棲家を求めて街へと下りてくる。その被害は甚大で過去には国が一つ滅んだことさえある。


 こんな恐ろしい災害を防ぐためにギルドは間引きをしたり、生息調査をしたりする。逆に言えば、冒険者ギルドの存在理由の一つがスタンピードの防止だと言えるくらいだ。


「定期監査だったら減点レベルだね、こりゃ」  


「そうね……可愛そうだけど」


 え、目的は監査じゃないの?


「あれっ……その様子だと僕達の目的は聞いてないの?」


「聞いてないな。まあ、非正規職員だし」


「「非正規!?」」


 アイラとハーディアが揃えて驚いた声をあげる。そ、そんなに驚くところか?


「こんな凄いスキルがあるのに?」

「こんなに強いのにですか!?」

 

 引っかかった部分はそれぞれ違うみたいだな。


〈ザガリーギルド長視点〉


 不味い

 マズイマズいまずい


 あのエレインとかいううるさい護衛を黙らせるために「精霊守を無事に保護した」と言ったら、今度は「早く精霊守と会わせろ」とうるさく言うようになったのだ。


(精霊守が見つかれば黙ると思ったのに……)


 会わせればいい? 馬鹿言っちゃいけない。実はまだ見つかってはいないのだ。勿論、見つけるつもりだし、捜索隊も出している。祭器のメンテをしてもらわなきゃならないからな。


(だからとにかく黙っててくれよ……別に俺達が責任を持って探すと言っているんだから構わないだろ?)


 仕事なんだから人に振れるならそれでいいじゃないか。それとも精霊守のことを個人的に大切にしてるとか言うのか?


(全く……俺は今手一杯なんだよ)


 まだ日は高いが、俺の周りには酒瓶が転がっている。褒められたことではないが、呑まねばやっていけない……問題は精霊守の捜索だけではないのだ。


(状態異常にかかるようになったり、攻撃をが通じなくなったり……一体何が起こってるんだ!?)


 先日ホムラのエース、〈剣術〉持ちのオスカーを始めとした多くの冒険者が状態異常耐性の低下からクエストを失敗した次の日、今度は魔物の防御力が異常に上がってるという知らせが入ったのだ。


(一体何が!? いや、それよりも、このままではノルマを満たせない……)


 冒険者ギルドはクエスト達成率や持っている戦力でランク分けがなされている。我がギルド、ホムラは現在Aランクだが、このままではランクダウン確実だ。


(何とか……何とかしないと)


 俺は再び酒瓶をあおる……が、もう酒がない!


(くそっ! どいつもこいつも!)


 何もかも上手くいかない……一体どうなってるんだ!


〈アイラ視点〉


「まあそんなこんなで非正規職員なのさ」


 レオさんから語られた身の上話はとんでもないものだった。


(こんなに強くて優しいレオさんがそんな扱いを受けるなんておかしい!)


 怒りを感じると共に尊敬の念もある。酷い環境でも自分のすべきことをきちんとやり遂げる……何て尊いことだろう。


「でも、これからは違うでしょ? これだけ強くなったら冒険者としてもやっていけるし」


「どうかな? もう四十前だしな」


 四十前……十分若いんじゃ?


 エルフだと百歳まではみんな若者で、なんなら子ども呼ばわりされることさえあるし。


(それに十分若々しいし……何より格好いい)


 思わずこんなことを考えてしまう自分が恥ずかしい……駄目だ。私、なんか舞い上がってるよ。


「マナも良い感じで循環してるし、体調面は十分じゃないかな……」


 ハーディアも同じ意見みたい。人間の年齢の基準はよく分からないけど……  


「そうなのか? そのマナの循環ってのがよく分からないんだが」


 マナの感知は精霊や純血のエルフの特権みたいなところがあるし、いくらレオさんでも難しいよね……純血のエルフではない私も苦手だ。


「ねぇ、レオ。もし暇ならギルドに着いたあとも護衛とかで手伝って貰えないかな」


「護衛……ロザラムに着いても心配ってことか?」


 ハーディアの言葉にレオさんは不思議そうな顔を浮かべる。えっ、何でだろ……


(私達と一緒にいるのが嫌なのかな……確かに大して役には立ってないし)


 違う違う! レオさんは何で護衛が必要なのかをハーディアに尋ねてるんだ! 私の話はしていない!


“その通りだよ、アイラ。普通、ロザラムに着いたら大丈夫ってみんな思うんだ。だって、ダグラス家とのことはレオは知らないんだから”


 っ!


(そうか。でも、レオさんには嫌われたくないし、あまり詳しくは知られたくないな……)


“まあ、それでレオがアイラに対する態度を変えるとは思えないけど……まあ、任せといて”


(ハーディア、ありがとう)


 良かった……とりあえずハーディアに任せよう。


「行きに襲ってきたのは対立するダグラス家。奴らは流石にロザラムにいるうちは襲って来ないかもしれないけど、帰りにはほぼ確実に来る。で、急に帰るって事態もありうるから……」


「なるほど。ロザラムの中でも警戒はいるし、すぐに動けるようにもしておく必要もあるんだな」


 す、凄い。ハーディアの意図を一瞬で理解するなんて……


“そうだね。レオは話が早くて助かるよ”


 本当は全てを話して協力してもらった方がいいのかも知れないな……


〈レオ視点〉


 翌朝も俺はいい気分で目覚めることができた。


「これも〈雑用〉のおかげか」


 アイラは既に起きているらしく、寝袋は空だ。昨日例の剣の手入れをして夜ふかしをしたせいで寝坊してしまったらしい。


(こんな気持ちのいい朝を迎えられるなんてな……)


 自分の部屋なんて滅多に掃除しない……というか、気になる部分のホコリをつまんだりする程度だったので、このスキルの恩恵を受けてこなかったのだろう。


(まあ、気分の良さはスキルのせいだけでもないか)


 昨日、ハーディアとアイラから依頼された護衛の話は将来に不安があった俺には有り難い。


(それに……二人とまだ一緒に入られるっていう点も嬉しいな)

 

 冒険者時代もギルド職員時代も仲間はおろか、まともに扱ってくれた人がいなかったからかな……


(それにしても二人共えらく持ち上げてくれるよな)


 最初は過大評価だと思ったけど……いまやLv37。中級者まで後一歩というレベルだ。


(過信するつもりはないけど、追加効果次第ではトーマス達にも勝てるんじゃ……)


 もしかして……もしかしてだけど、少し自信を持ってもいいのかも。


「レオー! 起きてる!? 朝ご飯出来たよ〜」


「悪い! 今いくよ」


 俺は急いで寝袋を出た。まあ、今日どうなるかは分からない。けど、出来る限りのことはやってみよう。もしかしたら、ワンチャンあるかもしれないしな。


 しかし、後から考えたらこれは間違いだった。ワンチャンどころかここから俺の成り上がりが始まったのだ。

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 お読み頂きありがとうございましたm(_ _)m

 如何だったでしょうか? 現在連載準備中ですので、ブクマやポイントで応援していただけると筆者の筆が加速するとか(笑)


 連載を始めた暁には前書きと後書きにリンクを貼るので是非ブクマ、出来ればポイントもお願いします。


 最後に……欲しがりすぎてすみませんでした!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここまで充実した文章内容なのに、非常にサクサク読めました。 読了して文量を見てみると、いつの間にここまで読んだのかと驚いたくらいです。 作者様の実力に敬服の一言でした。 レオは昔は才能が…
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