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カプセラ  作者: t
4月のはなし
5/13

5

俺が庶民出だからか特待生だからか入学式で倒れたからかはたまたその全てかは分からないが、クラスメイトから若干腫れ物扱いされてる雰囲気を感じつつ、無事に授業は終わり時間は放課後。新入生歓迎会開始時間となった。

立食形式のケータリングで、お目当ての料理前にいるシェフに取り分けてもらったり、目の前で調理してくれるらしい。こんな機会滅多にないと思い、料理を物色していたのだがどうやら俺みたいなタイプは少数派らしく新歓開始早々殆どの生徒は上級生の元へ挨拶に行っていた。さながらテレビで見た会社の飲み会である。

郷に入れば郷に従えとは言うが自分に人脈作りなんて必要ない。という訳で俺は新入社員達を横目に改めて物珍しい料理達に向き直った。


「改めまして。皆さん、入学おめでとうございます」


しばらく経った後アナウンスが響いて会場内のざわめきが小さくなった。名前の分からない肉の春巻きみたいな料理を口に入れながら視線を向ければ何人かの生徒がステージ上がっていて、その中にはどこにいても目立つ生徒会メンバーも勿論居た。そしてできれば見たくない人物も当然の様にそこに居る。


「そう言えば加美様のところ、また新しく子会社できるらしいよ?」

「聞いた聞いた!さすが手広いよね」

「後でお祝いってことで一緒にご挨拶に行こうよ」


今更ながら昨日、俺はこの学園について初めてちゃんと調べた。その際、特色として書かれていたいくつかの中の一つに“自主性"が教育方針として掲げられており、要約すると、生徒の自主性を尊重し主に生徒会を中心として生活や行事を生徒達が運営する。そして教師はその成長をサポートする。といった内容だった。

つまり、俺は生徒会がこういった会に現れない訳がないと心構えしていた訳だ。

そのかいあってか、多少頭は痛いが前回程ではない。カミ様を視界に入れる度にぶっ倒れていたら学園生活に支障がでるし、こうやって少しづつカミ様慣れしていかなくては。

そう思いステージ上で堂々と俺達に対し祝いの言葉を並べるカミ様を見るが、なんの理由も無くただ当然の様に頭から好きという感情が湧く。これだけ聞けば俺がカミ様に一目惚れしたみたいだ。いっそ、そうならば平和なのに。


「昨日振り、三葉は行かなくていいの?」

「俺は別にいいです。筒見先輩こそ話しかけられて忙しいんじゃないんですか?」


さすがに食欲が無くなり人脈作りに勤しむ人達を壁際からただ見ていたら筒見先輩がやってきた。

チラチラと筒見先輩の様子をうかがう周りからの視線を感じる。詳しくは知らないがやはりこの人も話しかけられる側の人なのだろう。そうじゃないとしても、1人で居る俺にすかさず話しかけてくれる世話焼きで喋りやすい先輩なのだし、と思って聞いてみたのだがしばらく経っても筒見先輩からの回答は無く動きも固まったまま。


「どうしました?」

「あいやごめん、先輩なんてここ数年呼ばれてないからちょっと、感動してる」

「え?」


現に今もこんなに1年生から視線を受けているのに?と周りをチラ見したが、確かに生徒会メンバーへ向けられていたテンション?視線の種類?とはどこか違う。


「先輩優しいのになんで?」

「優しい?俺」

「え、はい。そう思いますけど」

「お前…良い子だね」

「…ありがとうございます」

「ま!俺の事なんかよりも、体調大丈夫?」


どうやら筒見先輩は具合が悪そうな俺を心配して話しかけに来てくれたらしい。ほら、やっぱり優しいじゃないか。

ちょうど終わりの見えないこの会をそろそろ抜けようと思ってたところだったので、このまま退出してしまっていいのか聞こうとしたところで後ろから声がした。


「筒見、そっちはどうだ?」

「問題ないよ、って話中に割込むなよ」

「あ?悪い気がつかなかった」


確かに俺は平凡だから目立たないほうだけども。小さな抵抗としてせめて視線で文句言ってやろうと振り返ればカミ様。


「なに」

「ちょっと、三葉にガンつけないでよ」

「つけてねえよ」

「お前顔面強いから見てるだけでガンつけるんだよ。三葉、平気?」

「…動かねえけど。こいつ大丈夫か」


大丈夫じゃない、頭がぐちゃぐちゃと掻き混ぜられたみたいに頭が痛い、せっかく食べた物がせり上がるような感覚がある。やばい。少しづつ慣れるって言ったじゃないか、こんな突然の対面は全く想定してない逃げ出したい、なのに体が動かない。口の中に唾液が溢れてきた。もう、だめ。

手でおさえたが塞き止められるわけなく一気に溢れた。周りからは悲鳴が聞こえる。蹲ってる俺に何かの布が頭からかけられてそのまま引き寄せられた。


「俺が保健室まで連れてく」

「待って!俺が行く」

「お前の仕事はここだろ」


そして浮遊感。布で見えないがどうやらカミ様に抱えられてしまっているらしい、それもいわゆるお姫様抱っこと呼ばれる方法で。抵抗しようにも口の中にはまだ残った物があるし手もそれを抑えているからまったく動けず、会場内の喧騒がただ遠のいていくのを聞くことしかできなかった。

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