6.禍 ―3
「…誰か、倒れてる」
不意にサクが立ち止まった。
星空の下、防寒着を着込んでからそう時間も経たない頃である。
砂の地帯は広くあるが、激しい気温の変化をもつ砂漠はこの地方独特のものだった。
その夜の寒さに自分の腕を擦っていたカイはサクの隣に立つ。
「助けないのか?」
そう云いながらも言葉とは裏腹に、促すでもなくサクの様子を見ている。彼の表情が強張っているのに気付かない振りをして。
「…うん」
戸惑いがちに倒れている男に近付く。こんな場所に倒れているのだから、早く助けなくてはいけない。そんな考えを裏切るように、サクの足は重い。
「――大丈夫ですか」
うつ伏せになった男の、やつれてはいるが大柄な体を引き起こして、サクは眉を顰めた。
何処かで見た顔だった。脈を調べる為にたくし上げた袖から覗いた手の甲には、鈍い灰色の石。
「…!」
反応したのは後ろから覗き込んでいたカイとトールだった。
「守人か?」
「何で石になって!」
痩せこけた口許が微かに動く。サクは男の冷え切った体を揺さ振った。
「う…」
瞼がゆっくりと上げられ、濁った瞳がサクを捉える。顔を歪めたのは笑ったのかもしれない。
「何だ…水城―――」
はっとしたように身を固くしたサクに向けて、男は言葉を続ける。
「まだ、生きていたのか? どうりですっきりしない筈だ。だからなのか…老が、お前を育てろと云ったのは。…護りの、強い事だな」
途切れ途切れの言葉。声を立てずに嗤い出す。
何を云っているのか、その場にいる誰にも理解出来ない。それでも、正気でない事は明らかだった。
「―――――!」
徐に、それまで目を見開いたまま男を凝視していたサクが、男の襟首を掴み上げた。容赦のない動作。その表情に常の柔和さはなかった。
「滝津瀬、貴様あ!」
そのまま焦点の定まらない表情で何やらぼそぼそと喋り続けている男は、サクをもう一顧だにしない。
息を呑んだトールや無言のままのカイの耳に、聞き慣れない名前らしきものが幾つか水城の名前と共に届いた。
「滝津瀬!」
ガクガクと揺すると、サクは怒りに任せるように男を殴り飛ばした。
見た事もないサクの様子に狼狽えたトールに袖を強く掴まれ、ようやくカイはサクに手を伸ばして無理矢理彼を押さえ込んだ。
「理由を云ええ!」
尚も掴み掛かろうとするサクの脳裡には、一つの光景が浮かんでいた。




