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5.守人-4

「…カイ?」


 サクに表情が戻って来る。膝の上に屈み込むように身を預けるカイを訝しげに見て。


「大丈夫ですかっ?」

「カイ!」


 トールが駆け寄って来るが、サクは混乱するようにカイの体を揺する。苦痛に顔を歪めたまま意識を失ったカイは全く反応を見せない。


 まだ記憶が戻っていない。戻っていたならば、守人と緑の民の事を知っていたならば、迷わず行なう行動は一つしかない。

 トールは顔を顰めると、サクの肩を掴んで強引に自分へと注意を向けさせる。


「今の貴方には傷を癒す力がある。僕の傷ももう塞がった。分かりますか」


 見せ付けるように曝されたのは、新しい皮膚が見える足。それは、確かに深手を負っていた筈の傷だった。緑の光を受けて、痛みすらもう感じていない。


「不思議な夢を見たんだ。あれが、僕の失くした記憶…?」


 自分が何者なのか、そんな問いはどうでもよかった。普通の人間ではないが、それ以下じゃない。カイの言葉を思い出す。


「願って、触れるだけでいい筈です」


 何処に触れるべきか分からず、体ごと抱き起こす。意識のないカイを抱いたまま、癒しを望んだ。


「く…っ」


 苦しげに歪む表情。サクが身を引きかけるのを、トールが遮る。


「疑わないで。カイを傷付ける力は、貴方にはないんですっ」

「ぐっ」

 

 激しく咳き込み、吐き出したものは。


「…砂?」


 身を捩るカイと吐き出された大量の砂を見比べ、トールは咄嗟にサクを見る。


「このままだと…!」


 少年の脳裡に浮かぶのは、砂となり消えていった人々。消えるのをその場で見た事はないが、これが違うと何故云えるのか。

 トールは閃いた考えが慄きに掻き消えるのを、無理矢理押し止めた。

 守人の力が薄れ砂になっていくのならば、その体に力を与えれば生命力が戻るのではないのか。


「力を、カイの体の中に送り込めますかっ?」

「どうやってっ」

「どうやってでもいいから、早く!」


 体内に直接送り込み、砂を止める。サクには一つしか方法が思い浮かばなかった。

 カイの頬を押さえ、口で彼のそれを塞ぐ。じゃり、と砂の感触にも迷わず、熱を感じないそこから体内全てに自分の命を移し込むように。

 どれ程そうしていたのか。目を開けたカイが伸ばした手に後ろから髪を引かれ、サクは我に返った。


「…熱烈だな」


 身を起こすカイにサクはしがみ付く。先刻まで全く感じなかった体温が、戻って来たのを感じた。


「よかった…!」


 苦笑まじりにサクの頭に手を置いて、傍らにいるトールを見る。


「消えるのかと思った。砂を吐いてたよ」


 さらりと云うあたりは大物かもしれないと思いつつ、カイは彼の言葉を繰り返す。


「砂を、吐いてた?」


 頷くトールに目を細めると、カイは片手で自分の顔を覆う。

 違う。自分は消えそうだったんじゃない。


「…なる程な」


 呟くと、心配そうに顔を覗き込んでくるサクに、にやりと笑った。


「また助けられたな」

「唇奪っちゃったけどね」

「おかげで、また人生に深みが出た」


 もっともらしく頷いてから、そうじゃなくてと顔を顰める。


「本気で云ってるんだよ。でも、種明かしは勘弁な」


 云えるものかと内心で吐き捨てる。何故体内に砂が含まれていたかなど。腹立たしさに吐き気すら感じた。 問いをタイミング良く遮られたサクが言葉に詰まると、逆にカイが問う。


「…何があった?」


 視線を逸らすサクの顎を指で自分に向けさせて、カイはその目を見据えた。


「気が付いているんだろう、自分の力に。何を思い出した?」


 これまで、敢えて記憶を引き出す事はしなかった。否、出来なかった。だが、それを強いていた鎖はもう存在しない。鎖は砂となり、体は自分の守人の物へと還った。


「――夢を見たんだ。でも、まだ分からない。あれが自分なのか、本当にあったのかなんて思い出せない」


 頭を振るサクをカイは見下ろす。後は、きっかけだけのように見えた。


「お前の名は、水城。サクってのは生まれた頃、守人としてこの街を出るまで呼ばれていたらしい。だから、俺がそう付けたんだ」

「この街って、カイ…?」


 トールの挟む声に頷くと、カイはふん、と笑った。


「ここは俺が生まれた街だ。ここが襲われた後、水城に連れられて遠い村に移ったから全然気付かなかったけどな。ここがあの街って事は持ち場の果てがここだ。目的地はすぐそこにある。夢か現実かぐらいは先に知っておいた方がいい」


 目的地? と問い返すトールの言葉に更なる返答はない。


「お前が捜しているのは種石。お前の半身で、名は柊」


 サクは身を見開く。では、あの夢は。


「俺とトールは緑の…お前の民だ」


 ――あの夢は、やはり現実だったのか。


「夢で、僕は最後の守人になった」


 大切な人を沢山失った。それでも互いを守るより護らねばならないものが他にあった。それは自らの力でしか護れないものだったから。


 そうして、独りになった。否、あの時にはまだ種石がいた。


「どうして僕は記憶を失ったんだろう。…いつ、種石と離れてしまったんだろう」


 やはり夢で見た事しか分からない。夢の中では過去も当たり前のように持っていたのに。


「大丈夫、焦る事はないんだ。種石を取り戻せば、記憶なんて簡単に戻る。大体、半身を失くしたまま全部を思い出してたら、奴の立場ってものがないだろう」

「…そういう問題かなあ」


 ぼそりとトールが呟く。


「そういう問題だよ」


 ふんぞり返るカイをサクは見上げる。


「でも、カイ。どうして急に」


 目的地が近いと云い切った事も、サクには不思議だった。

 まっすぐに見つめられて、カイは一瞬目を逸らす。反射的な自分の視線の動きをごまかすように、態とらしく片眉を上げた。


「俺もおかしくなってたのさ」


 不思議そうに見上げる二人におどけるように両手を広げて見せ、カイは心持ち軽くなった躰を大きく伸ばす。

 彼にとって目的地を悟る事は簡単だった。今まで無意識に避けていた土地を考えれば良い。それに気付き、心も僅かだが軽くなった気がしていた。

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