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     〃   -Ⅳ

 遡ること数十分前。

 トレジャーハンター姉弟は合流して講堂の床に杭を打ち込み、そこにロープを結わえ付けた。

「じゃ、姉ちゃんが滑っていくから、合図したら引き上げてね」

 腰にロープを巻き付けた姉が、暗闇の中を滑り降りていく。


 覗き込んでみたが、数センチで姉の頭すら見えなくなった。ロープの長さは三メートルほどある。これで足りなければ合図するだろうから引き上げる。時間を食ったから、もしそうなれば探索は中止して下山する。後日装備を整えて再挑戦である。

 が、そうはならなかった。というよりも、そう出来なかったというべきだろう。


「ん」

 合図があった。ロープの負担を軽くするために、出来るだけ曲がらないよう穴の入口に近づいてロープを引く。後ろ足に体重を乗せて引こうとした瞬間、

「わっ」

 前足が滑った。後ろに倒れたが、入口に近すぎてそのまま落ちた。


「え」

 戸惑いすら遅かった。暗闇の穴の中で、壁に足をつけてロープを掴み、引き上げられると同時に登ろうと体勢を整えた姉に、弟が激突した。

 衝撃でロープも切れた。暗闇の中に落ちた。

 深さは、四メートルもなかったらしい。すぐさま地面に落ちた。腰を打った。


「いった・・・・・・」

 さすりながら立ち上がって、上を見る。

「そんなに深くなかったのか。ま、これなら登れないこともないか」

 光の漏れ出る入口を見上げて、滑り台になっている傾斜の具合を確かめる。駆け上がるのは少し難しいだろうが、ナイフのように尖ったものを打ち込んで足場にすれば、上がれないこともないだろう。

 予備のロープもあるから、どちらかが上がれば引き上げてもらえばいい。

「怪我ない?」

「う、うん、ごめん、姉ちゃん・・・・・・」

 弟はしゅんとしている。その鼻の頭を指で弾いて、


「反省は帰ってから。現状を打破するために、状況の確認を急ぎましょう。自分に勝る宝はなしってのは、そういう意味なんだからね」

 年若でもやはり先達である。弟はすぐに気を取り直して新しい松明に火を点けた。

「なに、これ・・・・・・」

 そして照らされた光景に息を呑んだ。姉も同じようで、言葉を失っていた。

 明らかにそれは、異なる文明のもの。床は緑色で、石でもなければ木でもない。なにか溝のようなものが壁に向かって放射状に広がっているようで、その根は、中央に向かっている。


「姉ちゃん・・・・・・」

 泣きそうな声が出た。それを咎めるでもなく、姉は無言で松明を奪い、溝に従って中央に歩み寄った。

「見える?」

 穴があった。落とし穴のような丸い穴がぽっかりと開き、松明をかざしてみても下は見えない。床の材質と壁に向かって走った溝は、遺跡のような造りである。ならばこの穴も、なにか意味のあるもの、いや、かつて意味のあったものなのか。


「姉ちゃん?」

 姉からの返事がない。足元も見えない暗闇を這うように進んで姉の傍に寄って見上げると、表情がいつもと違う。

 とり憑かれている。思わずそう形容したくなるほど、平素にない様子だった。こういう様子は、稀にある。この山を登っている時もそうだった。

 この時の姉は振り返っても記憶がないらしく、後から、


「ん~、なんとなくお宝の匂いがするんだよねえ」

 これは大抵予感として当たった。だから心配はしていないが、この時は少し様子がおかしかった。

「えっ!?」

 あろうことか、姉は一歩を踏み出した。それも、朝食後に出かけるような、ごく気軽な足取りで。

「姉ちゃん!」

 手を伸ばしても、届かない。姉の体は暗闇の穴の中へ消えていった。


「姉ちゃん!」

 穴を覗き込んで叫んでも、届く筈もない。突然の姉の奇行に呆然としたが、なにか、くぐもったような音が聞こえる。

 なにかが回転するような、回転したなにかが大きなものを動かすような、空の器になにかが満たされていくような想像が、何故か頭に浮かんだ。

「うわ!」

 穴の中から急速にせり上がる黒く丸いなにか。仰け反って避けると、それは穴から突き出して止まった。


「姉ちゃん!?」

 筒だった。教会でしか見たことがないが、おそらくガラスで出来ているであろうその筒の中に、薄ぼんやりとした光に照らされた姉が浮かんでいた。

 やがて、光が筒の足元から溝を走って床を明るくし、壁に伝って登っていく。

 どこかで、なにかの駆動音らしきものが響いてきた。


「うわ・・・・・・!」

 そして、地震。遠くで、石の崩れる音がした。

「ね、姉ちゃん・・・・・・」

 思わぬ異変にガラスにしがみつき、中の姉を見上げた。いつの間にか、なにかの液体に浸された姉は裸身になっており、目を閉じて意識もないようだった。

 ぶくぶく、と筒の下から登った泡に一瞬顔が隠れたが、一瞬後に見えた表情は、笑っているようだった。


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