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    〃   ‐Ⅲ

 その頃、シンタロウとレイはアキラの指示通り部屋を硬く施錠してアキラからの戦勝報告を待った。

「あんたは行かなくていいのか?」


「ああ。いいの。俺に出来ることなんてないだろうし、事態の引き金が俺でも、もう手に負える範囲を超えちまったし、開き直って待つしかしようがないよ」

 言葉通り開き直っているのだろう。半ばやけくそ気味でもあるが、ベッドで長くなって動こうとしない。


「なんも聞こえないね」

「防音、かなりしっかりしてるからねえ。いい天気だ。こんな時じゃなきゃ昼寝したいくらいだ」

「知ったこっちゃないなら出来るだろ?」

 なにか、棘のある言い方である。顔を向けると、レイの表情は晴れない。


「どうした?」

「よく判らないけど、戦争なんだろ? それは、姉ちゃんを助けるための」

 ならばその原因は自分だと、成人もしていない少年が沈んでいた。シンタロウは苦笑してベッドを下り、椅子に座るレイに目線を合わせながら、


「原因ならいろいろさ。戦争するって決めたのはアキラだし、それを持ち掛けたのはマリレーヌって王女様、その王女様を助けちまったのが俺、城のためにあんなことになっちまったのがお前の姉さんで、お前はそれを助けたい。原因とか責任とかがあるんなら、それは俺たちみんなのものさ。お前がしょい込むことじゃないんだぜ」


「思わなかったんだ。姉ちゃんが山を登るって言い出した時に、まさかこんなことになるなんて・・・・・・」

 混乱している。無理もなかった。シンタロウはその手を取って自分の手を重ねて、


「俺には兄弟って居なかった。四年前に初めてアキラって義理の弟が出来たんだ。いい兄貴で居ようとは思ってるんだけど、あいつはもう手が掛からなくてなあ。

 レイ、代わりとか思わなくていいから、都合のいい時に寄りかかる兄貴くらいには、俺もなれるか?」


 自分の考えや気持ちを、語彙を駆使して相手に伝えるのは得意ではない。不器用な言い方ではあったが、自分を慮っているのだけは伝わった。


「大違いなんだな、それが義理の兄弟ってやつなの・・・・・・?」

「そんなことないさ。あいつは優しいよ。ただそれを表現するのが苦手みたいなんだ。あいつは伝えようとしないからさ、そこが心配になる」


 そう言ったところで、内線通話が入った。出ると、おおまかに片付いたから格納庫へ降りてきて欲しいということだった。


「格納庫?」

「ええ。少し義兄さんたちにも見てもらいたいものがあるので」

「判った。すぐ行くよ」


 小走りに部屋を出て、エレベータに乗って格納庫へ。丁度機兵を収容し終わったところのようで、ハッチが閉じようとしていた。

「足元気をつけろよ」

 外の光が眩しい。それがゆっくりと閉じられて内部照明の明るさに切り替わるのだが、それが目に優しくない。降りてみると、機兵が二体横たわっていた。


「なんだ、こりゃ・・・・・・」

 絶句した。一体は頭にめり込んだ刃物が痛そうで、二体目は頭部が陥没している。この鋼鉄の機兵が二体とはいえこんなことになるとは、改めて戦争というものの恐ろしさを知った気分だった。


「僅か七十秒です。一体目の機兵がやられ、二体目の機兵の信号が消えるまで。マリーがカメラの情報をスクリーンに映した時は、既に暗くなっていて、カメラがやられていたか地面に押し付けられていたかで、詳細は不明です。

 しかし、機兵を生身で倒せる人間が下界に居ることが判りました。幸いなのは、倒した機兵を回収されていないことですね」


「これ、やっぱり生身か?」

「おそらく。斧が刺さっていますが、もしなにか装置を使ったのなら矢か、せいぜい槍や石でしょう」

「ああ、これ斧なのか」


「残骸が周囲から見つかっていますからね。レイ、機兵を倒せる人間は、下界に他に居るものですか?」

 急に話を振られて驚いたが、慌てて首を振った。


「う、ううん、こんな機兵も見たことないし、見たことないものを倒せるかって言われても・・・・・・でもこんな硬そうなもの、やれたらバケモノだよ・・・・・・」


 なるほど、とアキラは頷いた。

「なあ、マリレーヌは? 勝ったのか?」

「ええ。それは問題ないです。明日、処刑だそうです」


 そうか、と安堵したと同時に気分が重くなった。妹が兄を処刑しようとしている。戦勝という華やかさとは裏腹の重さが、その一事にある。


「なあ、追放ってことで俺たちが預かるわけにはいかないかな? いくら何でも妹が兄貴をだなんて・・・・・・」


「義兄さん、それは本当に口を出さない方がいいです。たとえそれが最善の解決策だとしても、マリレーヌ王女を慮ってのことであっても、二度と口にしない方がいい。

 それだけ、誰かを殺す決意とは重く、痛いものです」


 それが肉親なら尚のことだ。さすがにシンタロウも軽率な発言だったと後悔したが、やりきれなさが残った。

「やっぱり、間違ってたのかな・・・・・・」


「なにを言うんです。義兄さんはあの時、正しさなんてどうでもよかった筈です。あの時の義兄さんは自分の心を救おうとした。寝覚めの悪い思いが嫌だから、それだけの理由で助けただけの筈です。それが発端で、今回のことが予見できたものだったとしても、それで良いと決めたのなら、以後の苦悩は全て無意味です」


「そんな言い方は・・・・・・」

 レイが思わず反論しようとしたが、シンタロウに止められた。

「そう、だよな・・・・・・ごめんな、ズルいこと言って・・・・・・」


「いえ。俺は、そんなことで悩んでストレスを抱えるよりも、沈んだ気持ちを回復させるようなことを考えて欲しいと言いたかっただけです。俺はこれからマリレーヌ王女との約束があるので降りますが、二人はどうしますか?」


「え、もう? 夜になってからでも」

「ここまで大々的に侵攻した以上、城の存在を隠すことは出来ません。ならば堂々としていた方がいい。ローラン王国が中立的な立ち位置であることが不幸中の幸いです」


 一応、事は片付いたが事が起これば違う出来事が生まれ得る。シンタロウは、

「同盟、とか結んじゃう感じ?」


「いえ、マリレーヌ王女との約束さえ果たされれば関係は白紙に戻します。出来るだけ下界の事情には関わりたくはない。とはいえ、噂は止められないので余計な敵を作ったかもしれない。城の防備を強化するためにも権限の解放は必須事項です。

 まあ、今後のことはとにかく情報を得てからです。差し当たってやることはないので、二人とも城でのんびりするのも構いませんよ」


 ただ、シンタロウはともかくレイは下界の人間なのだからなにか用もあるだろうと加えた。

 アキラは万一に備えてユリエラの駆る高速艇に乗って下界で降りた。まさかこの期に及んでマリレーヌが約束を反故にするとは考え難いが、一応機兵を三機随伴させている。


(また、あいつは・・・・・・)

 そういう用心深いアキラを、シンタロウは好ましく思っていない。マリレーヌがアキラに対して好い印象を持っていないことも知っている。その源は、やはり義兄以外は何者も信じない性格から来ているのだろう。信じなければ、信じられることはないのだ。


「シンタロウ、俺、ちょっと降りたい」

「ああ、そうね。そうするか。目立つのも嫌だし、紛れられるように離れたところで下ろしてもらって・・・・・・えっと、足をどうするか。アキラが戻るのを待ってまたユリエラに・・・・・・いつ戻るかも判らんし、えっと、どうするか・・・・・・」


 とても城の主の一人とは思えない様子にレイはため息を吐いた。

「アキラならそういうのも手配してるんじゃない? あれで訊いてみたら?」

 指で電話の形を作って振ってみる。


「ああ、そうか。確かマリーがまだ司令室に居るって言ってたっけ。じゃあそうするか。あ、金は・・・・・・」

「それも訊けばいいじゃん」

 それもそうか、と備え付けの休憩室に通信に行った。なんとも頼りないが、なんとなく手を貸してやりたくなる。不思議な兄弟だと、レイはここへ来て初めて笑った。


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