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  〃  -Ⅱ

 ローラン王国の新王となったマクレガーは、人変わりがしたと評判だった。

 先王マクノイアは酷烈な成果主義と実務主義で、家柄や血統など頭から信じておらず、よく働き、よく成果を上げ、更によく働こうとする者を評価した。


 こういう王は自分の中に独自の評価基準を持ち、臣下に対する監視のような目を幾つも持っている。人を道具のように愛し、道具として価値がある限り愛した。無能に対しての厳しさの裏返しのように、よく働く者への愛情は強かった。

 マリレーヌを娘として遇したのも、その出自の哀れさよりも子供ながらの理知に感心したから、というのが正確だろう。


 マクレガー、マリレーヌ兄妹は父王とは逆だった。特に兄王子は仁愛を以て和とする穏やかな人柄で、その口添えで守られた臣下も多い。マリレーヌは勁烈な法治主義で、法に照らし合わせた正しさを基礎として人間を評価した。

 三者が他人に対する評価と愛情の基盤を別に持ち、それがために三者ともに相手の言うことをよく聞いて、意見を取り入れた。


 まだ五十一である。王位を譲るのはまだ当分先のことで、三者による支配はこれからも続くものと誰もが思った。そして継承権を有する王子は、その優しさと穏やかさの中に厳しさを育てて、父王を超える王となることを、誰もが願った。


 が、突如マクノイア王の病死を発表して王位につくなり、かつて見せていた仁愛が幻であったかのように辣腕を振るった。

 マクノイアと同じ基準を更に厳しく評価して、少しでも懈怠の痕跡が見られると精査も待たずに職を取り上げた。特に司法卿と外務卿は無理矢理に隠居させられ、相談役に棚上げされてしまった。相談役とは聞こえはいいが、決定権を持たない役職だから、実質は閑職に近い。


「いったい、なにが起こっているのか」

 賢君であった先王は兄王子に討たれ、新たな王は心変わりしたように烈しくなり、妹王女は行方不明。僅か数日の間で、この異変は国中に伝播し、王城から離れた地方の諸侯は動向を測るために、敵国を偵察するように王都へ人員を発した。


「陛下、また昨日もお休みになっておられないようで」

 内務大臣、サルティエ。齢は先王より六つ上で、忠臣であった。マクレガーの即位を待たずして早くから接近し、旧体制と新体制の調整を進めた文官である。

 その接近ぶりがあまりにも露骨であったため、特に体制から漏れた連中は佞臣と影口を叩いた。


「妹は死んだか・・・・・・?」

 刺客がマリレーヌに追いついた頃、新王はようやく妹に死が迫っていることを知った。思わずサルティエを怒鳴りつけようとしたが、留まった。この忠臣は国のため、王が命じづらいことを自ら買って出たのだ。


 マクレガーは自分を責めるように首を振り、膝をついた忠臣の手を取った。そして、数日。刺客として発したのが王城でも最も信頼の厚いオルゲルトでありながら、未だ戻らないことを案じ、マクレガーはサルティエを顧みた。


「おそらくは・・・・・・。如何にマリレーヌ王女とはいえ、精鋭を発しましたし、愛馬も繋がれたまま。戦装束もお部屋にございますし、もう生きてはおられますまい」

「ならば、オルゲルトは私の元から去ったということか」

 目的を遂げながら戻らないということは、そういうことだろう。マクレガーはその心情を慮って、またも首を振った。


「無理もない。あれは、妹を可愛がってくれていた。なんと非情な王だと思っただろう。去るならば、贈っておくべきものが幾らでもあったのに」

「陛下、オルゲルトも老いました。老いは余計な感傷を呼ぶものです。未来に進む御身が推し測るものではございません」


「未来、か・・・・・・」

 立ち上がって外を見る。

 つい数日前まで父が使っていた執務室は、本棚があまりにも多くて採光が悪い。窓際に寄って、外を見た。


「妹にも、あった筈の未来だな」

「陛下・・・・・・」

 思わず絶句した。やはりこの優しい兄には、自分の都合で妹に死を押し付けた現実が、受け入れがたいもののようだ。


「生きて、いれば・・・・・・」

 その先は言えない。立場と、起こした行動が軽はずみな言葉を禁じている。苦悩するように眉根を寄せて、マクレガーは現実逃避のように、

「もしもあれが生きていたら、私を殺すだろう。いや、国に棄てられた王女にそんな軍事力も人脈もあるまい。あるとすれば、あれの子や孫が、私を殺しに来る。私は、その日を待つことにしよう」


 子や孫ならば、わざわざ待たぬでもこの新王自身が別の要因で死んでいるだろうに、そんなことも考えられないようだった。サルティエは痛々しさに涙を浮かべながら、若き新王へ言った。

「諸侯が離反を決めかねているようです。知らしめておかねばなりません」


「そうだったな。賢君マクノイア亡きといえど、ローランは揺るがぬことを示さねば、彼らの不安は消えぬだろう」

 全ての悲しみを断ち切るように、マクレガーは拳を握った。

 マクレガーの見る景色の更に向こう、薄い白雲に隠れた遥かな天に、ゆっくりと城が出現しようとしていた。


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