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 〃 -Ⅲ

 ユリエラが慌ただしい様子で呼びに来て、小走りに食堂へ案内されたマリレーヌは、険しい顔つきのアキラが前言を翻したことに戸惑った。

「自動機兵の指揮を俺が取ります。それに護衛させますから、貴女は貴女の装備で王城を奪還してください」

「なんと?」

「こちらも事情が変わりました。交換条件を呑むなら、貴女の手助けすると言ったんです」


 短いやり取りではあるが、マリレーヌのアキラへの印象は、冷徹な理屈屋である。こういう類は筋道の通った思考を好み、また、それを相手に浸透させるのを好む。故に、前置きもなく結論から話す様子は、只事でないことが起きたのだと察せられた。


「条件とは?」

「ローラン王国の所有する文献の全てを開示していただきます。禁書も含めて全て」

 息を呑んだ。


 それはつまり、この男に王国の歴史も内情も全て丸裸で提供するということではないか。財政が知られれば収入源に圧力を加えて押し潰すことも出来るし、城の造りが判れば簡単に攻略される。つまり、国の生命線を握られるということに等しい。

 簡単に承諾できることではなかった。寧ろ、せっかく取り戻した国をこの男に明け渡すようなものではないか。


(しかし・・・・・・)

 と、マリレーヌは考えてみた。

 この男に国盗りの考えがあるか、である。仮になかったとして、その情報を完全に秘匿する意思があるかどうか。


(おそらくその点は・・・・・・)

 後者はともかく、前者は完全にない。そもそもこんな、浮かぶ城砦などという非常識なものに住む天上人が、下界の国盗りになど興味があるものだろうか。この男は利と理があれば情報を売ることはするだろうが、そこは条件につけてしまえばいい。


 この切羽詰まった状況なら、ある程度の譲歩は引き出せるだろう。

 なににしても、マリレーヌの返答一つで国が変わる。そして、王とはそういう決断を迫られる位なのだと、マリレーヌは知っていた。


「貴方の得た情報をどこにも流さないと言う条件を呑んでくれるなら、こちらもそれを呑みましょう」

「成立ですね。では、明日にでも侵攻します。ついては、覚えている範囲でいいので、城の見取り図を作成してください」

 いきなり城とは、と言いかけたところで、アキラはユリエラを呼んだ。


「転進。目標はローラン王国王都、王城。目視可能範囲で停止。よろしいか?」

 命を下したユリエラに、そして国の命運を背負う孤独な王女へ最後通達として。

 二人は頷いた。


 マリレーヌは絵図に弱い。マリーを呼びつけて助けてもらいながらなんとか作成へ。アキラも多忙である。ユリエラに質問攻めとシミュレータを駆使して知識と知恵を積み上げる。


(何分にも付け焼刃の急ごしらえだ。しかし、急がねば)

 ほんの数時間前には予想だにしない事態である。まさか自分が城攻めの指揮を執る現実が降りかかろうとは。さすがに緊張で眼球がせり上がる思いだったが、動力炉にくべられた姉弟を思い出して性根を据えた。


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