悲報その2:北条時政さん、領国統治でも下手打っていた
突如、周囲の景色が一変してしまっていた。
「あ、あれ? またどっか別の場所に飛んだのか……?」
「どうやら、時間がかなり巻き戻ったようです。山野の配置からして……恐らく先ほど話した武蔵国でしょう」
莉央ちゃんが秒で断定したのなら、きっとここは武蔵国なんだろう。
さっそく辺りを見て回る事にしたのだが……なんというか、実に鎌倉武士な領国であった。
「あぁん? よくも貴様、俺ンとこの隠し田を見つけてくれちゃったよなァ?」
「ひ、ひいッ……で、でも。国司に黙って勝手に田んぼを耕すのは……よ、よくないですし……」
「木っ端役人くんさぁ……逆に考えてみなよ。隠し田なんて見つけて報告したら、面倒な事になるぜ? 俺もお咎めを受けるし、上も俺を罰して恨みを買わなきゃならん。誰も得しない、幸せにならない……この状況。すべてまーるく治めるハッピーな方法があるのさ!」
「ハッピーな方法……? 一体それは……」
「死人に口なし! 今お前の喉笛を一思いにかっさばいてやる事さァ!!」
「ギャアアアアア!?」
入っていきなり、傍若無人なやり取りが繰り広げられている。
てか、不正を取り締まろうとした役人が逆にイビられ、武士になぶり殺されてるんですけど。
「ここの川の水は俺たちのもんだァ! お前らには一滴たりとも分けてなんかやんねー!」
「ンだとこらァ!? 勝手に水路を変えて、自分とこの田んぼばっかり水を引きやがって!」
「うるせー文句あんのか!? おう? 殺る気か? あん?」
「言わせておけばクズどもがッ! 殺ってやろうじゃあねェかァ!!」
猫の額ほどの小さな土地や水場を巡り、血で血を洗うヤクザ的抗争が目の前で繰り広げられている。
……うん。何しろ鎌倉武士だもんね! 分かってたよ、ホント。
「この武蔵国は鎌倉の真北にあるため地政学的にも重要かつ、領土も広く税収も美味しい。いわゆるAクラスな領地です。
しかしながら血の気の多い武士だらけと言われる坂東でも、トップクラスに統治が難しいと言われています。
各地に生息する野生の武士団たちによって、毎日のように田畑や水の所有権を巡って争いが起きたのです」
「一応人間なんだし、ポケモンってルビ振るのやめーや」
直接、武士団を従えていたのは畠山重忠であったが、苦労は絶えなかったらしい。
それでも、武蔵を統治する豪族・比企一族が健在だった頃は、調整役として機能しており、どうにか被害を最小限に食い止めていたのだが……
「二代目将軍・頼家が病に倒れて政務不能になり、比企一族が滅ぼされてしまってから……武蔵守の役職は北条時政が引き継ぐ事になります。
彼は己の実力を知らしめるため、幕府での権威を上げる点数稼ぎのため。急進的な検地や粛清を強引に断行してしまいます。
このせいで現地の武士団には不満が溜まる一方。当然ながら実務担当の重忠さんとは、どんどん折り合いが悪くなっていったのです」
「あー、なるほど……そういう理由で重忠さんもジャマになっちまった、と」
しかも悪い事は重なるもので、時政と重忠の関係を最悪にしてしまったのが、時政の嫡男の急死である。
溺愛していた息子が死ぬ間際、重忠の息子と口論していたという情報を聞いた時政は、自分の息子は畠山に殺されたと早合点してしまい……「畠山滅ぼすべし、慈悲はない」と暴走してしまったのだ。
確かにとんでもない事ばかりやらかしてる時政だが、北条氏は京の連中に犬扱いされてしまうほど身分が低かった訳で。
そんな一族がのし上がるには、なりふりなんて構ってられなかったのかもしれない。