プロローグ:いつもの
俺は週末、莉央ちゃん家に遊びに行っていた。
♪デーンデデデーンデデデーンデーンデーン
「あっはっはっは、今年の大河はホント面白ぇなぁ!」
「『鎌倉殿の13人』……比較的マイナーな題材でありながら、実にとっつきやすくアレンジしていますね。ひとえに監督の手腕の賜物でしょう」
莉央ちゃんもベタ褒め……というか、言葉では褒め称えているが、表情は相変わらずクールだ。
「しっかし、主役が北条義時……だっけ? 日本史の授業じゃ全然聞いた事ねえ名前だったけど……すげェな!
あっちこっち、歴史イベントの要所要所に出張ってるじゃねえか! 頼朝からも信頼されてるみたいだし!」
「下田さん。ひとつだけ言っておきますが――大河ドラマというのは、あくまでも歴史を題材にしたエンターテインメントです。
物語を盛り上げるために、ストーリーを脚色したり、劇的にするために敢えてリアリティを無視したり、風説を採用したりもする……という事を、決して忘れないようにして下さい。
特に主役級に抜擢されている人物や一族は、みな極端に美化されていく傾向にあります。主人公補正とでも言いましょうか」
「お、おう……で、何が言いたいんだ莉央ちゃん?」
俺が軽い気持ちで尋ねると、莉央ちゃんは目元がぜんぜん笑っていない、いつものスマイルを浮かべた。
「監督が、主役に北条義時を選んだ理由。わたしは何となく分かります。何しろ……ひたすら動かしやすかったでしょうから」
「動かし……やすかった……?」
…………ん。
街の風景を映していたテレビ画面がなんだか歪んでいる。これはまさか……
「もしかしなくてもコレ……鎌倉時代にタイムスリップする流れってやーつ?」
「みたいですね。もうすっかり慣れました……はいレッツゴ!」
良質のドラマを観た後で気分がハイになっていたのか、俺も莉央ちゃんも奇妙なノリで、過去の世界へと旅立った。