表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

狐に恋した男の子

作者: アキ
掲載日:2021/08/10


あれは雨が降っていて·····ジメジメしている日のことだった。

今でも鮮明に憶えている。

はじめて「彼女」を目にした時··········純粋に······とても美しいと思ったのだ。







妖狐がでる。

家のすぐ近くにあるその神社には······昔から、そんな噂があった。

僕はよく·····そこの神社に足を運んでいた。

学校の放課後。帰り道。

誰にも邪魔されず、静かに小説を読むことができるその場所が·········僕は好きだった。


「今日もここにいるんだね」


ある雨の降る日。

いつものように神社に来て·······いつものように小説を読んでいると·········どこからともなく「彼女」が現れた。

まるで··········最初からその場にいたみたいに。


「················」


その瞬間·······僕は声を失った。

読んでいた本の内容すらも········忘れてしまう。

それほどまでに·········自分の目の前に現れた「彼女」は·········美しかった。

狐のような耳と尻尾が生えていたが········不思議と気にはならなかった。


「それ··········面白いの?」


「えっ·····あぁ·····うん······その·······」


緊張して上手く話す事ができない。


「もっとよくみせてよ」


しかし「彼女」は········こちらの緊張などお構いなしに·········本を覗き込もうと身を寄せてくる。


「·········っ」


鼓動が高鳴る。

心をかき乱される。


「ちょっとお話しない?

私·········君のことをもっと知りたいな」


琥珀色の綺麗な瞳にみつめられ·····僕は·····「うん」········と、首を縦に振るしかなかった。

これが·········僕と「彼女」の奇妙な出会いだった。








あれから毎日神社へと通った。

来る日も来る日も············飽きもせずにずっと。

「彼女」と「お話」をするために。

····························楽しかった。

言葉を交わすたびに··········自分の心が跳ね上がるのを感じた。


「私はね。

ここの場所から動くことができないんだ」


「彼女」は、神社から外に出ることはできない。

気が遠くなるほどの昔から··········この神社に縛り続けられており·········とても長い時間·······「彼女」は一人で居たらしい。


「人が来るなんて珍しいからさ···········それも毎日·········だから········君に興味を持っちゃって」


頬を赤く染め、瞳を潤ませながら·····そんなことを言われる。


「················」


「彼女」から向けられるわかりやすい「好意」に·············当然、僕の顔は熱くなった。

女の人と話したりするのが苦手だったため·········こんな経験をするのは初めてだったのだ。


「ふふっ」


学校が終わり····神社に来て····「彼女」と話す。

それが半年間も続き·······ようやく·······僕は·······自分の中にある「恋心」を自覚した。

いつか·······いや·······明日にでも·······この思いは伝えたい。

当たって砕けろ。

やれるだけやってみようと··········僕は、そう決心するのだった。








「もう来ないで」


開口一番。

彼女の口から出されたその言葉に··········頭の理解が追いつかなかった。

「なんで?」·····と、僕が言おうとすると····「彼女」はさらに·····言葉を畳み掛けてくる。


「君のことが嫌いになった」


「君とはもう話したくない」


「君のことを考えるだけでイライラしてくる」


「大嫌い!君はもうここに来ないでっ!」


·············等々。

僕に対する悪口を一通り言った後········「彼女」は消えた。

最初からその場にはいなかったみたいに。

気配もなにも········跡形もなく。


「················」


僕の心は·········ひどく冷静だった。

普通······好きな女の子にあれほど「拒絶」されれば······絶対に傷つくだろう。

だけど········そんなことよりも·········僕には、気になっていることがあった·······。


(なんで·······なんで彼女は·········)


あんなにも哀しそうで·········泣いてしまいそうな表情をしていたんだろう?








翌日。

神社に行っても········「彼女」の姿はなかった。

それに加えて······なにか得体の知れない威圧感のようなものを感じた。

はやく出ていけと········そう言われているかのように。

来ないほうがいいのかもしれない。

やめたほうがいいのかもしれない。

神社に······この場所に·······僕はもう·······足を運んじゃいけないのかもしれない。

でも。

どうしても。

頭の中にこびりついている「あの表情」を·········忘れることができなかった。








「この小説は·······人物の想いの表現が細かくて·····まるで自分のことのように感じられるから·······とてもおすすめだよ」


どこかでこちらをみているであろう「彼女」に向かって···········僕は一人、小説の話をしていた。

周りからみれば·····誰もいないのに一人で喋り続けてる変な人だと·····思われてしまうだろう。

どうでもいい。

もういちど·········「彼女」の声を聞きたいんだ。

もういちど·········「彼女」の笑顔をみたいんだ。




「好き」だと·········伝えたいんだ。




諦めたくない。

気持ち悪いのはわかってる。

自分自身が·············どうしようもないほど···········馬鹿な男だってことは··········。

「彼女」のいない神社に·········何度も·······何度も···········僕は懲りずに行き続けた。








長い月日が経った。

いったいどれだけの時間が過ぎ去ったのか·········僕にはわからない。

多分······いや·······きっと········絶対に··········無駄な時間を過ごしてしまっている。

だけどやることは変わらない。

今日も変わらず······「彼女」に向かって······一人で話をする。


「··········?」


その時だった。

誰かの·········女の人の········すすり泣く声が聞こえた。

遠くじゃない。すぐ近く。自分の。ほんのすぐ傍から。


「················」


·······················「彼女」がいた。

出会った時と同じように。

最初からその場にいたみたいに。

僕の隣で···········涙を流しながら··········表情をぐちゃぐちゃにして···········泣いていた。


「·············か」


「え·······」


「馬鹿っ!!」


怒鳴られる。


「なんで?·········なんで私なんかのところに来ちゃうのよっ!!」


「················」


意味がわからなかった。

どうして「彼女」は怒っているのだろう?

どうして············どうして「彼女」は···········。

そんなことを考えていると·········。


「君は、私に触れることもできないんだよ?

抱きしめることもできないし、手を繋ぐことだってできない!」


「···············」


「人間の女の子と結ばれた方が·········幸せになれるから··········私は今まで·······出てこなかったのに··········」


「···············」


「それなのに君は········何年も何年も·······こんなところに来て·········馬鹿だよっ!!」


「···············」


「そんなことされたら··········出てくるしかないじゃんか··········」


「···············」


あぁ。なるほど。

この瞬間·········僕はすべてを理解した。

おそらく「彼女」は···········気づいていたんだ。

僕が抱いている「気持ち」のことに········。

ずっと·······ずっと·········はじめから··········。


「本当に私でいいの?」


不安そうに「彼女」が聞いてくる。


「いいに決まってる」


「············っ!」


「好きだから·········また話したかったから·········毎日ここに来れたんだ············嫌なら来たりしないよ」


「で·········でも······」


「彼女」は自身を侮辱するように··········言葉を紡いでゆく。


「人間じゃないんだよ?

肉体がないから話すことしかできなくて········見た目は女の人だけど·········性別なんてないから···········女かどうかもわかんないんだよ?」


「···············」


「だから·······やっぱり········私のことは諦めて·······」


「どこが人間じゃないの?」


「!」


「同じように喋って········笑えて········「気持ち」を伝え合うことができて···········それでどこが人と違うのさ?」


「···············」


「僕はあなたを嫌いにならない」


「··········!」


「あなたがどれだけ自分を否定しても·········僕の目の前にいるのは女の子だ············笑顔が可愛くて········話していると時間を忘れるくらい楽しくて··········長い間ずっと会いたかった女の子だ」


「···········!········っ!!」


僕は「彼女」に近づき··········手を差し出す。


「返事が欲しい」


「ふぇっ!?」


少なからず·········「彼女」は僕に「好意」を持ってくれている。

だけどそれは「昔」の話。

「今」はどうなのかわからない。

彼女は顔が真っ赤になり··········どうしたらいいのかわからずあたふたしている。


「う··········うぅ·······」


琥珀色の瞳でこちらを見据える「彼女」。

上目遣いをしながら僕の方に寄ってくると·········差し出している手を·········そっと両手で包み込むようにして···········。


「わ、私も·········君のことが·········」


感じるはずのない「彼女」の手の感覚を感じながら··········僕は、続く「言葉」を待つのだった。













評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 実はキツネ耳少女のイメージ声優を考えてみました! こんな感じです! キツネ耳少女:近藤玲奈(ソードアート・オンラインのロニエちゃん) いかがでしょうか?変だったらすみません。
[良い点] 人間の男の子とキツネ耳少女による絆が素敵でした。 [気になる点] 2つ質問があります。 まず、キツネ耳少女の耳やしっぽの毛並みは黄色ですか?それとも黒ですか? 後、作者様は声優はお好きです…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ