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オイドは国王に報告する

 

「隊長見えて参りました」


「ああ」


 馬車の窓から外を見ていたローレンが静かな表情を崩す事なく俺に教えてくれた。


 アントワープでの戦いは実質1日で終わったのだが、休戦協定等の残務処理に時間が掛かり、結局半年振りの帰還となったのである。


「しかし狭いな」


 俺が乗る馬車は4人乗りの小さな物。

 ただでさえ狭いのに二人掛けの椅子にローレンとディジーが俺の両脇に座っていた。


「ローレン、貴女向かいに座りなさい」


「あらディジーこそ、だいたい貴女は身体が大き過ぎるのよ」


 笑顔で話す二人だが、何故だ?

 冷や汗が止まらん。


「俺が行く...」


「「オイド様!!」」


「分かったよ」


 腰を浮かすなり二人に引き戻される。

 結構鍛えているのだけど、全く凄い力だ。

 ローレンは分かるが、ディジーはおそらく魔力で身体強化をしてるんだろう。


「本当に、オイドは無茶ばかりして」


「そうですわ、どれだけ心配したか」


「その事は謝ったじゃないか」


 あの時、俺は敵兵に治癒魔法を全力で行った。

 魔力の使いすぎで3日間目が覚めなかったとローレンとディジーは言うが。

 本当はディジーが睡眠魔法を俺に重ね掛けしたのが原因だと後から部下がこっそり教えてくれた。


 そっちの方が無茶だろ?

 怖いから言えないけど。


「見られちゃいましたね」


「ええ」


「すまん」


 あの時、俺が治癒魔法を行っているのを別の大隊の奴等に見られてしまった。

 今まで隠していたのが悪いのだが、口止めが大変だったそうだ。


「奴等周りに言うかな?」


「おそらくは」


「参ったな」


 一部の王族には話してあるが、やはりバレたら不味い。

 口止めなんか当てにならないだろう。


「その時はその時です」


「ええ、ララミー家がオイド様を全力でお守りしますわ」


「あら、ローハイド家もですよ」


「「ホホホ...」」


 止めろ、二人共目が笑ってないぞ。

 しかしローハイド家か。

 エリック様に言って無かったのは失敗だった。

 大恩人のエリック様に隠し事をしていた罪悪感が俺の気持ちを重くさせた。


「ご苦労様です」


「うむ」


 馬車が止まり、衛兵が扉を開ける。

 俺達はこれから王宮で国王に参内する。

 今回の結果を報告するのだ。

 もちろんその場に、エリック様を始めとした国の重鎮達も居るだろう。


「第一師団、第八大隊オイド、並びに副官ローレン、同じくディジー到着しました!」


 王宮内にある国王の間、扉の前で俺達の到着を報告する衛兵の声が響く。

 緊張で喉が渇く。

 さすがにローレン達も同じ様だ。


「入りなさい」


「は!」


 中の声と同時に扉が開く。

 居並ぶ重鎮達。

 既に全員揃っている。

 中央に置かれた椅子に座るのは国王陛下。

 こんな身近で見るのは初めてだった。



「第八大隊、隊長オイド只今戻りました!」


「うむ、大義であった」


「ありがとうございます!」


 (ひざまづ)き、国王の声を聞く。

 当然だが、頭は上げない。

 この場に平民である俺が居る事自体が異常な事。


「一年以上に及んだアントワープの戦闘、無事に終わらせた功は多大なり。

 隊員には褒賞金と、オイドには加えて男爵の爵位を与える」


「は...はい」


 国王の言葉に声が詰まる。

 俺に爵位?

 しかも男爵?そんな異例は聞いた事が無い。


「お、お待ち下さい!!」


 横手から1人の男が声を上げた。

 誰だ?声だけじゃ分からん。


「その方は?」


「第五師団、師団長のアンドラです」


 国王の言葉に不満そうな声。

 確かアントワープで共同作戦を行ったのが第五師団に所属する大隊だったな。

 確かアンドラ様は侯爵だったっけ?


「アンドラよ何か?」


「な、何故第八大隊のみの報奨なのです?

 我が大隊には何の恩賞の沙汰も無く」


 成る程、自分の隊に何も与えられなかったのが不満なのか。

 気持ちは分かるが、国王の裁定に不満を口にするとは。


「貴殿の隊がだらしがないからでは無いか!」


 この声はエリック様だ。

 我慢出来なかったのか、いやよく我慢した方か。


「何だと!

 エリックこそ自分の娘が居るからと国王に奏上したのであろうが!」


「...貴様、今何と言った?」


 いかん、エリック様がキレそうだ。


「....お父様」


 隣で真っ青な顔のローレン。

 こりゃ不味いな。


「聞くところによれば、その男は怪しげな呪術を使い、敵兵を助けたと言うではないか!

 しかもその事を国王陛下を始めとした皆に隠して。

 その様な不逞の徒に爵位等とんでもない!

 陛下、再度のご一考を!」


 やはりか、あの連中は告げ口していた。

 国王陛下は俺の治癒魔法を知っていたが、一部を除く他の貴族達は知らなかったんだ。

 陛下が周りに隠していたとは絶対に言えないだろう。

 最早これまでか...国を去るしかない。


「ほう、幻の治癒魔法が呪術ですか」


 立ち上がろうとする俺の耳に、新たな男の声が聞こえた。


「...貴様はララミー」


「はい、この国で全ての魔法を司るララミー家当主、ディクソンです」


 ララミー家当主?

 ディジーの父上か、何度か顔を合わした事もあったな。



「き、貴様には関係無いではないか!」


「関係無い?」


「魔法使いの家ごときがこの場で...そう言えば、お前の娘もこの男の部下だったな」


「ええ、魔法使いの娘ごときとは随分な言い様ですね」


 言葉こそ穏便だが、凄まじい気が伝わって来る。

 こりゃ完全に怒ってるな。


「貴様、この男が呪術使いと知っていたな?」


「はい、あと呪術では無く治癒魔法です」


「そんな事はどうでもいい!

 陛下聞きましたか!?

 この男は知っていたのにもかかわらず黙っていたのですぞ!!」


 ここぞとばかりにガナリたてやがる。

 こんな事になるとは。


「黙れ」


「陛下?」


「アンドラ、黙れと言ったのだ」


 陛下の声が響く。

 決して大きな声では無い、しかし部屋の中を支配した気がした。


「貴様の様な軽薄な者が居るからディクソンは隠していたのだろう」


「な!?」


「良いか、オイド男爵が使ったとされる治癒魔術は決して呪術の様な怪しき物では無い、神の如き術だ。

 その事が世界に知られてみよ、我が国は狙われる事になろう。

 だからララミー家は隠していたであろう?」


「は、その通りにございます!」


 国王陛下の言葉にディクソン様は頷いているのだろう。

 顔を上げる事が出来ないのがまどろっこしい。


「アンドラを連れて行け!

 この者に魔法の事を教えた者も尋問するのだ。

 秘密は厳守せねばならぬ、1人残らずだぞ!

 ディクソン、確か記憶を消す魔法があったな?」


「ございます、たまに失敗して発狂する事もございますが」


「構わぬ、皆も聞いての通りだ、秘密は厳守である!」


「や、止めて!」


 アンドラの叫び声が遠退く。

 そんな魔法あるのかな?

 ディジーに聞きたいが、止めておこう。

 碌な事にならない気がするし。


 何だ?

 ディジー、何故笑顔で俺を見る?


「オイド、面を上げよ」


「そ、そんな」


 上げられる筈無い。


「構わぬオイド、貴様はもう男爵、貴族なのだ」


「エリック様...」


 俺は恐る恐る顔を上げた。


「オイドよ、此度はご苦労であった。

 治癒魔法の事については不問と致す、だが余り安易に使わぬ様にな」


「は!」


 陛下の声に涙が溢れそうになる。


「そうだ、使うならローレンの許可を貰え」


 エリック様?


「いやディジーの許可ですぞ、将軍」


「あ、いやその」


 何だこの流れは?

 陛下の許可じゃないのか?


「ならば、二人の許可にせよ。

 よいな、オイドを二人で支えるのじゃローレン、ディジー」


「「はい陛下!!」」


 嬉しそうなローレンとディジーだが、良いのか?


 こうして俺は貴族となることが決まった!



 二人との婚約まで同時に。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ああああ、主人公、強制結婚((´∀`))。 [一言] 片や、公爵家令嬢、片や侯爵家令嬢に挟まれたら男爵でも軽いくらいだが。 助けた相手は王女様で、押しかけてくる可能性大だし。
[一言] 最後のスレーズ、こうして俺は貴族と決まった!→貴族となった! もしくは貴族となることが決まった!の方が良いのでは?
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