表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

オイドは敵兵を治療する

 1ヶ月を掛け、我が大隊はようやくアントワープに到着した。

 局地的な戦闘を想像していたが、意外にも戦場は広範囲に及んでいた。


「オイド様危ない!」


「いや大丈夫...」


 引き継ぎの将兵を連れ前線を視察していると、いきなり飛んで来た敵の矢にローレンは素早く反応して俺を突き飛ばす。

 そんな事しなくても、あんな矢くらいなら剣で薙ぎ払えたのだが。


「オイド隊長、後ろ!」


「分かってる...」


 ディジーが草陰に隠れていた敵に火炎魔法を叩き込む。

 そんな大事にしなくても奴等の気配ぐらい察知していたのだが。


「オイド様はダメですね」


「本当に、私達副官が付いて無いと危なかしっくて」


 一体何なんだ?

 ローレンとディジーは凄い笑顔で俺を見ている。

 確かに俺は二人と比べたら頼りないかもしれない。

 しかし俺を知らない人から見たら、全く役立たずに見えてないか?


 視察を終え、作戦本部に引き揚げる。

 前任の将兵達と今後の合同作戦を立案する。


「敵の配置からすると、この騎兵隊は...」


 テーブル一杯に広げられた地図。

 その上には建物や敵の軍勢を模した駒が置かれている。

 俺は手にした指揮棒で敵軍の駒の1つを指した。


「これは偽装ですね、ここは正面から行かず我が大隊のヨメ1中隊にお任せを、迂回して背後を突きましょう」


「そうだね」


 右隣に居たローレンが俺と同じ指揮棒で続きを言う。

 何故だろう?

 俺が間違った作戦を言い掛けたのを副官がフォローしたみたいに見えないか?


 ちなみにヨメ1中隊とはローレンが元々率いてた中隊の事。

 新しく俺の大隊に組み込まれたから区別しやすい様にだと。

 よく分からん。


「後はこの倉庫を我が隊で...」


 めげずに話を続ける。

 こんな事はよくある事さ。


「ここの倉庫は我が大隊のヨメ3中隊が焼き払いますわ、ここにある食糧を火炎魔法で燃やせば敵も終わりでしょう、ね、オイド隊長」


「うん」


 今度は左隣に居たディジーが俺の言葉を引き取ってしまう。

 俺の指揮棒は行き先を失って図上を彷徨うのだった。


「さすがは新しく新設された第八大隊のローレン様とディジー様です。

 これで1年の膠着を一気に崩す事が出来ますぞ!」


 前任の大隊長が感激の表情で俺達...いやローレンとディジーを見る。

 結局俺は何一つ発言出来なかった。

 でも俺の作戦も二人と大差無いから良しとしよう。


「お二人共、どうぞこちらに」


「いやあの...」


「私はオイドの...」


 前任の大隊長はローレンとディジーの袖を掴み、隣の部屋に連れて行こうとしている。

 確か隣は隊長の私室だ。

 豪華な食事でも用意されてるのかな?

 間違っても向こうの隊長も変な気は起こさないだろう。


 過去にそんな奴が居たそうだが、二人共一瞬で瞬殺したと聞いた。

 貴族の令嬢だが一級の兵士であるから当然だ。


「行って来たら?

 俺はもう暫くここに居るから」


 そう言いながら二人に目で合図を送る。

『こんな手合いの人間は身分でしか人を見ない。

 爵位を持たない俺が行ったら窮屈で敵わない、そいつも俺が来たら迷惑だろ?

 だから頼む』


「分かったわ」


「後でお願いね」


「了解だ」


 とりあえず分かってくれたみたいだ。

 しかしディジーは何のお願いなんだろ?

 ローレンは俺とディジーを交互に睨んでるし。


「それでは片付けます」


 作戦室に居た将兵が地図上の駒を箱に入れ始める。

 俺はまだ片付けろとも言ってない。

 仕方ない、あの大隊長の副官だ。

 バリバリの貴族意識を持っているのだろう。


「ん?」


 敵、味方の駒が取り払われ、真ん中に残されていた建物の駒に俺の視線は止まる。


「ここは?」


 建物に指揮棒を指した。


「何ですか?」


「この建物だよ、敵のキャンプじゃないみたいだし」


「さあ?」


 こいつ、知ってるのに知らん振りか?


「言え!」


「は...はい!」


 少し威圧を込め睨み付ける。

 奴は身体を震わせながらコクコクと頷いた。


「こ、此処は敵の救護所です」


「救護所?こんな前線の真ん中に何故だ?

 中に入ったりしなかったのか?」


「わ、分かりません。

 私達も気味が悪くて一度も入りませんでした...」


 脂汗を掻きながら兵は説明する。

 嘘は言ってない様だ。

 何かある、敵が極秘裏に葬り去りたい何かが...


 「分かった、もう良いぞ」


 兵を解放する。

 腰を抜かした様だ、情けない奴め。

 翌朝、俺は信用出来る自分の部下を引き連れ例の建物に潜入した。


 ローレンやディジーは既に昨日の作戦で居ない。

 取り残された俺達はちょうど良かった。


「こちらです」


 古参の部下が建物の扉を開ける。

 中は広いが薄暗く、酷い臭いがした。


「...う」


「こ、これは」


「酷いな...」


 灯りに照らされたのは(おびただ)しい死体の山。

 手当てもせず、ここに放置されたのが分かった。


「誰か息のある者は居ないか探すんだ」


 部下に命じながら俺も死体に近づく。

 死体は1ヶ所に集められている。

 つまり誰かが死体を運んだという事だ。


「...こ殺してくれ...」


 ベッドの隅から聞こえる掠れた声。

 警戒は緩めない、罠の可能性もある。


「隊長...」


 部下の1人が顔を背ける。

 全身を蛆に食われた敵兵が数人集まっていた。


「ふむ」


 見た所、この兵達は戦闘でこの救護所に集められたのでは無い。

 それは入った時から感じていた。


「毒か」


「...の様ですね」


 部下にも分かった様だ。

 糞尿と腐敗臭に混ざっているが、この臭を嗅いだ事がある。

 ジャンゴ王国に伝わる毒薬。

 ローレンも一度食らった事があったな。


「無様な...事だ...」


 敵兵の1人が呻く。

 その声から察するに女の様だが、痩せ衰えた身体には蛆虫がはい回っていた。


「息の有るものを集めよ」


「オイド様」


「隊長、了解です」


 部下達は俺が何をするか分かっている。

 治癒魔法の精度を高めるのに部下達は協力してくれた。

 何しろ俺が魔法を使えるのは極秘事項だ。


 これまでに戦場で敵味方拘わらず治癒魔法をゴッソリ使って来た。

(基準はあるが)

 助かった連中は何があったか理解出来なかっただろう。

 幸いにも俺の部下達を含め、誰1人秘密を洩らしたりしなかった。


 息のある人間を1ヶ所に集めた。

 俺達が殺してくれる、そう考えているのだろうが、そんな事はしない。


完全治癒(パーフェクトヒール)


 渾身の力を込め、治癒魔法を発動させる。

 一度にこれだけの人間に使うのは初めてだ。

 しかも直接手を触れずに、失敗のリスクはあったが事態は一刻を争う。


「糞...」


 凄まじい疲労が俺を襲う、しかし休む訳にいかない。


「...これは」


「信じられない...」


 集めた敵兵から聞こえる歓喜の声。

 何とか成功した様だ。

 集められた敵兵は全て元の姿に戻った、全員裸なのは仕方ない。


「オイド様!」


「オイド!!」


 後ろから声が聞こえる。

 ローレンとディジーだ。

 どうやら作戦は無事に完了したのか。


「すまん...後で説明する。

 連中を頼んだ」


 ローレンとディジーに身体を預け、俺は意識を手放した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ヨメ1中隊とヨメ3中隊(笑)。 それだと嫌でもヨメ2中隊に名前するしかないが。 いや、これは良くある軍隊での略名に違いない。 [一言] 全員裸・・・お察し。 又、2人の頭痛の種が。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ