皆の為に
「シルビア様、これで全員です」
縛り上げた男達を差し出す。
男達の顔をシルビア王女は何かを確認するように見つめていた。
「フローラ」
「はいシルビア様」
シルビアは隣に控えていた女を呼びつける。
流石は王女、漂う雰囲気に圧倒されそうになる。
そんなシルビア王女に私は面影を見ていた。
ある女の面影を...
「どう?」
「間違いありません、国王の側近です。
今回の事、国王の関与は間違いないかと」
「ありがとう、下がっていいわ」
女の話を聞き終えた王女は頷き、私に向き直る。
少しはにかんだ笑い方、美しいブロンドの髪。
あの女に似ている、娘だから当然だが。
「ありがとうございますエリック公爵。
この者達をジャンゴ王国に連れて帰ります。
休戦中にもかかわらずハラル王国で行った我が国の行為、赦されざる物ではありません。
必ずや調査の上、厳罰を約束致します」
「宜しく頼みましたぞ」
頭を下げるシルビア。
王女でありながら他国の一公爵に過ぎない私に頭を下げるとは。
「しかしシルビア王女、貴女はまだジャンゴ王国の実権を全て握った訳ではありますまい。
焦りは禁物ですぞ」
私の隣に居たディクソンがシルビア王女に釘を刺した。
「ありがとうございます、ディクソン様。
しかし今回は大丈夫です、国内の実権は全て国王から取り上げましたから」
シルビアの言葉にジャンゴ王国の関係者達は一斉に頷く。
前回のクーデター計画失敗は無駄ではなかった様だ。
「しかし困りましたね」
「困る?」
シルビア王女は少し眉を下げた。
何が困るのか?
「いえ、捕えた者達の数です。
こんなに大人数は要りません、この数人で結構かと」
王女は数人の男を指差し、私とディクソンを見た。
「成る程、畏まりました」
部下に命じ、数人を部屋から連れ出し、残りの男達を縛っていた縄を解かせる。
心配しなくとも連中は手足の腱は切ってあるので逃げる事は出来まい。
魔法もディクソンが連中の魔力を全て奪ってある。
「存分に」
「ありがとうございます」
シルビア王女と数人の女は剣を抜き男達の前に立つ。
静かな目と裏腹に、立ち上る殺気が部屋に充満する。
怯えた目の男達。
口に咥えさせた猿轡は外してない。
無様な叫び声は聞きたく無かった。
王女達は一斉に斬りかかる。
ある者は腕を、またある者は脚を。
そして最後に男達の陰部を切り裂いて首を取った。
「いいですか?」
「お見苦しい所を」
最後の一人を斬り終え、皆息が上がっている。
王女達は涙を浮かべていた。
彼女達に何があったか、聞かずとも想像が着く。
自分の手でケリを着けたかったのだろう。
「ヒュフテ...」
「はい?」
「ヒュフテもどうですか?」
「おいエリック、貴様何を...」
少し慌てたディクソンの声。
しかし私の言葉は止まらなかった。
「しかしヒュフテはハラル王国を裏切った反逆者。
大切な証人でしょう?」
「構いません、オイドが殺さなかっただけの事です」
「オイド...まさか天使様?」
「「「「え!?」」」」
女達の目が一斉に輝く。
なんだこれは?
先に帰らしておいて良かった。
「シルビア王女、オイドの事は」
「そうでした、忘れる約束でしたね」
ディクソン、ありがとう。
「分かりました、ヒュフテに会わせて下さい」
シルビア王女にとってアント・ヒュフテは伯父になる。
母をジャンゴ王国に差し出した憎むべき伯父。
「こちらに」
私は別室に王女を案内する。
ディクソンは困惑した表情を崩さなかった。
「起きろ」
ヒュフテを取り囲む部下を下がらせ、剣の鞘で頭を小突く。
切り取られた手足は一応止血がされており、死なない程度の治療がなされていた。
「...うぐ」
ヒュフテは呻きながら顔を上げる。
憎々しい面だ、殺しても飽きたらん。
「お前は...」
ヒュフテは俺の顔を見るなり声を震わせた。
「久しぶりだなアント」
「エ...エリック」
「ほう、俺を覚えていたのか?」
顔を青ざめ、必死で逃げようとするアント・ヒュフテ。
手足の失われた今は身体をくねらせるしか出来ない。
「何年振りだ?
確か貴様に呼び出されたのは...」
「18年前ですよ、まだ貴方が公爵家を継ぐ前でしたね」
「そうだったか。
ディクソン、よく覚えてるな」
「一応戦友ですからね」
ディクソンが笑う。
そうだ、俺が実家の公爵家を継いだのは兄貴が戦死したからだ。
当時の俺は何の爵位も持たない冷飯食いだった。
「まさか、エリック様が...」
王女は驚いて私を見る。
あいつは娘に言って無かったのか。
「そうだ、俺が戦場に行ってる間に妹を、俺の婚約者をこいつは...」
ダメだ、言葉が昔に戻る。
「仕方なかったのです。
当時エリックは一兵士、先代の国王とジャンゴ王国で取り交わした結婚に逆らう事は出来ませんでしたから」
ディクソンが代わりに説明をする。
すまない、親友。
「...そうだったんですか」
王女は悲しそうに俺を見る。
無理矢理嫁がされた母の過去、それが俺の後悔だった。
「お、お前はシルビアだな?
我が妹によく似ておる!
儂を助けてくれ!
ジャンゴ王国とハラル王国の事を思って伯父の儂は!!」
「アント、貴様!」
「エリック様、待って下さい!」
剣を振りかぶる俺をシルビア王女が止めた。
「伯父様、貴方は母を...妹をどう思ってました?」
「え?」
「答えて下さい、大切な人と思ってましたか?」
「も、勿論だ!
あいつは儂の大切な妹、忘れた事など一時も無かったぞ!」
必死に話すアント。
コイツは心の底から腐っている。
「母の墓は何処です?
18年前、母が亡くなった時に遺言でラムズボトム領に遺骨を送った筈ですが」
「あ...」
シルビアの言葉にアントの顔色が変わる。
墓なんかある筈が無い。
俺の前で骨を撒き散らしたのだから。
「答えて下さい」
「せ、先祖の墓だ!儂の先祖の墓に埋葬...」
「嘘を吐くな!!」
シルビアの悲痛な叫び声、まさか...
「ラムズボトム領に母の墓は無い。
既に調べました。
お前は母の墓一つ作らず、何が大切な妹だと...」
シルビアの目から流れる涙。
もう終わらすか。
「アント」
ヒュフテの首に剣先を押し付ける。
「貴様は最後まで救えぬ男だったな」
ゆっくり、ゆっくりと剣を突き刺す。
絶望するアントの顔が血に染まり、やがて動かなくなった。
「灼熱」
ディクソンがアントだった物に手を翳す。
蒼白い炎が物体を包み込む。
火が消えると其処には何も残っていなかった。
「さあ行きましょうか」
「はい」
俺達...いや私達はヒュフテの屋敷を出る。
門の外には数台の馬車が止まっている。
そして町の広場には大勢の民衆が一部の人間を取り囲んでいた。
あの連中はヒュフテの関係者。
親族だったり、ヒュフテに仕えていた人間。
「あの者は?」
シルビア王女が一人の女を指差す。
そこには一人の若い女が後ろ手に縛られ、猿轡をされていた。
「あれはアント・ヒュフテの嫡子、ナッツの妻だった者です」
ディクソンが答える。
よく知っておるな。
「ヒュフテの者、つまり」
「王都に送られます。
取り調べが終わり次第」
「処刑ですか」
「はい」
当然そうなるだろう、間違いない。
「彼女の身柄を私に頂けませんか?」
「何を急に」
一体何を突然。
「ヒュフテの関係者ならば今回の事を知っていたでしょう。
ならば証人としてジャンゴ王国に」
「成る程、それは名案です」
「お、おいディクソン」
頷くディクソン。
まさかお前、ローレンやディジーから。
「...分かりました。
あの者の身柄はジャンゴ王国に渡します、但し」
「分かっております。
二度とハラル王国の土は踏ませません。
天使...オイド様の前にも」
シルビア王女は頷く。
もう何も言うまい。
娘達が決めた事、オイドの性格を知った上で考えたのだろう
「それでは、またお会いしましょう。
次は王都で」
「うむ」
「では」
王女を乗せた馬車がラムズボトムを出ていく。
後ろに続く数台の馬車。
あの中にオイドの元婚約者も居るのだ。
馬車に乗せられる時に見たが、しっかりした足取りだったが、その視線は何処か焦点が定まって無かった。
ローレン達が何かしたのかもしれんな。
「さて我々も帰りますか」
「そうだな、早く帰って報告せねば」
一連の事は全て国王に報告する。
ラムズボトム領の今後も含めて。
「エリック」
「何だ?」
「貴方も早く後添えを貰ったらどうですか?」
「何を貴様!」
何をコイツは。
「貴方の妻が亡くなって15年でしょう?
ローレンも嫁に行きましたし、ローハイド家の事も考えたら如何ですか」
「黙れディクソン!
ローハイド家は私の代で終わりじゃ!
貴様みたいに5人も妻や側室を囲えるか!
だいたいお前、何人子供が居るのだ!」
「一人、二人...10人位でしょうか?」
真剣に指折り数えるディクソン。
コイツみたいに自由に...
止めよう。
私には娘が、そしてオイドが居る。
それで充分だ。
「早く孫の顔が見たいもんだ」
「そうですな」
晴れ渡った空に、心が軽くなったのを感じるのだった。
ありがとうございました。




