オイドは戦場に向かう
宜しくお願いします。
「ハラル王国第一師団、第三大隊所属オイド中隊長只今参りました!」
突然の召集に緊張しながら指令部の扉を開け、敬礼する。
指令部から直接呼ばれる事自体が異例だ。
「待っておったよ」
「はい!」
指令室の部屋は広い。
その中央に置かれた1つの机。
立派な装飾が施されており、長く使い込まれたであろう木目の輝きは俺の緊張を更に高めるには充分だった。
「オイド、早速だが行って欲しい所がある」
俺の名を呼ぶ1人の男性。
この方こそハラル王国第一師団、師団長エリック・ローハイド公爵。
この国で一番の武勲を誇るローハイド家の当主、そして政治にも長けている。
そして俺の大恩人でもあった。
「は!」
気さくな言葉と裏腹に眼光は鋭い。
少し小柄な身体であるが、その剣技は世界で敵う者は居ないと言われている。
もちろん俺など足元にも及ばない。
「アントワープに行ってくれ」
「了解です、直ぐに準備致します!」
エリック将軍の言葉に再度敬礼した。
アントワープはもちろん知っている。
現在我がハラル王国が隣国のジャンゴ王国と紛争状態にある辺境の地だ。
「オイド、貴殿には大隊を率いて貰いたい」
「は?」
将軍の言葉が理解出来ない。
俺は今、部下50名を率いる中隊長だ。
しかし大隊ともなれば、その規模は100名を軽く越えるだろう。
大隊長は貴族が任命される事が殆ど、平民上りの俺が勤める事は異例。
「副官を二人付けよう」
「副官ですか」
「うむ、入って来なさい」
困惑する俺を見ながらエリック将軍は隣の扉に声を掛ける。
扉が開き、二人の士官服に身を包んだ人物に言葉を失う。
「宜しく」
「頼むわねオイド隊長」
「...ローレン様、ディジーも」
二人の女性士官。
知っているどころではない。
二人とも中隊長で階級は俺と同じなのだから。
そしてローレン様は、
「将軍」
「なんだね?」
「どうしてローレン様が私の副官なのですか?」
「娘に不満でも?」
「そういう事では無くて」
凄まじい殺気を俺に向ける。
将軍との訓練で慣れているから耐えられるが、おそらく普通の人間なら気を失っていただろう。
「オイド、私が志願したのです」
「...ローレン様」
「貴方が派遣されるアントワープは激戦の地、大隊の損害を最小限に留めるには私の力も必要と考えました」
「はあ...」
淀みなく答えるローレン様。
小柄な身体ながら、その瞳は鋭く俺を射貫く。
流石はエリック将軍の一人娘。
女性でありながら剣の腕も俺と互角だし。
「後、オイド隊長」
「はい」
「私は今日より貴方の部下です、様は要りません」
「...畏まりました」
ローレン様...ローレンはそう言うが、俺からすれば10年の付き合いだ。
彼女は公爵令嬢、平民の俺が呼び捨てるのは...
「オイド様、良いんじゃないのローレンで。
私の事はディジーって呼び捨てなんだし」
「...う」
イタズラな笑みを浮かべるディジー。
ローレンと違い女性らしい身体つき。
彼女は魔法を得意としており、その攻撃魔法の力は王国の中でも随一。
そして彼女は名門、侯爵ララミー家の令嬢。
彼女との付き合いも長いが、よく話す様になったのは彼女が軍に入ってからの事で、どちらと言えば仕事の同僚としての感覚が強かった。
「そういう訳だ、お前の中隊とローレンの中隊、そしてディジーの中隊を組み合わせて新しく第八大隊を新設する」
「...はあ」
将軍の言葉に従うしかないのか。
「返答はハッキリ!!」
「は、畏まりました!
第八大隊、隊長オイド、準備出来次第アントワープへ向かいます!!」
「うむ、これより別室にて隊の編成を行う。
ついてこい」
将軍に続いて部屋を出る。
こうして俺は新しく新設された大隊を率い、戦地へと向かう事となった。
二人の副官と共に。