婚約破棄……か~ら~の~。
また思いつきだよ
「【リアル・ド・リマー】! 貴様との婚約を破棄する!」
いかにもテンプレートな台詞がたたきつけられた。状況もこれまたテンプレ。いかにもな王子様が取り巻きとかわいい系の美少女を囲み、こちらを糾弾してくる。
もう状況そのものをコピペして貼り付けてしまいたいくらいのお約束。その最中にいながら動揺する様子もないドレス姿の女性――リマー王国第二王女リアルは、わずかに眉を寄せ手にした扇子をパチリと閉じた。
彼女が嫁ぐ予定のクレン王国主催のパーティ。離宮で行われているそれは国内だけでなく諸外国の賓客も招かれていたはずだ。そのような場で開宴早々いきなりこんな頓珍漢なことを言い出すとは。ドヤ顔の王子――クレン王国王太子【ヤーティェ・クレン】は何を考えているのか。確かに友好な関係とはいえなかったが、ただの婚約ではなく国と国との関係が深く絡まっているものだ。身勝手な理由で一方的に破棄していいものではないし出来るものでもない。それくらいは理解しているものだと思っていたが。
一瞬にして思考を巡らせたリアルは、全くいつも通りに言葉を放つ。
「はて、いきなりそのようなことを言われましても。一体全体なぜそのような事になるのか、理由をうかがっても?」
切れ長の目が、射貫くようにヤーティェに向けられる。並の人間であれば萎縮するであろうその視線を真っ向から受けても、彼は一向に動じない。ふふんと嘲り嗤いながら堂々とこちらに言葉をたたきつけてきた。
「貴様は婚約者たる私を蔑ろにした上、私の愛しきフィオーレに嫌がらせを行ったそうだな。そのような人間を伴侶にすることなど出来ようか!」
芝居がかった様子でのたまう王子の陰に隠れるようにしてこちらを伺う少女――確か【フィオーレ・ヴェレーノ】子爵令嬢だったか。最近王子と懇意(笑)にしていると耳にしていたが、はっきり言ってどうでもよかったので放置していた。さらには直接関わり言葉を交わしたことすらない。
確実に言いがかりだ。あるいは冤罪をかぶせるつもりなのか。どちらにしても浅慮と言うほかない。
(そこまで馬鹿ではないと、思っていたのですけれどね?)
買い被っていたのか、それとも。でっち上げとしか思えない罪状をつらつらと述べる王子を冷静に見つつ、これは前もって準備しておいてよかったと思うべきなのかどうなのか、頭の隅で妙なことを悩むリアル。茶番劇に付き合わされて飽きてきたようだ。
「ええい! ここまで来てしらを切るか! なんとか言ったらどうだ!」
観客からはこいつら正気かという感じの冷たい視線を向けられているのだが、全く気づいた風もなくキメポーズをとって指を突きつける王子。ここで「なんとか」と一言だけ放てばどうなるのか、非常に興味深かったがぐっとこらえて、リアルは返事を返す。
「何一つ心当たりはございません、と言うしか有りませんわね。聞けば証言ばかりで何一つ物的証拠はないようですが」
「証拠などいらぬ! フィオーレの涙がすべてを示しているわ!」
まともに言葉を交わすつもりもないらしい。そうこうしている間にも警備についていた者たちが動き出した。自分が抑えられるか、それとも王子がつまみ出されるか。どちらにしろこの茶番劇も幕が近いようだ。
しかしまあ、それでは少々面白くない。そう思っていたら。
「貴様! 殿下とフィオーレ嬢に対してどこまでも無礼な!」
王子の取り巻きが一人が歩み寄ってくる。確か国の将軍か誰かの子息だったはずだが、まあどうにも考えが浅い。『か弱い令嬢』に対してつかみかかってくるなど。
「――触るな、下郎」
深紅のドレスが翻り、艶やかな黒髪が舞った。
リアルは華麗にダンスを踊るがごとく……
将軍の子息(仮)――筋肉ダルマの腕をねじり上げ足を払い、床へとたたき伏せた。
「ぐがっ! ぐべ!」
「お黙りなさい」
呻く筋肉ダルマの頭を踏みつけ物理的に口を封じる。床に血がしみ出しているが、痙攣してるからまだ生きている問題はない。
しん、と場が静まりかえる。警備の者たちすら呆然と動きを止めてしまっていた。予想外に過ぎる展開に、思考が追いついていないのだろう。そんな観客を一通り視界に収めてから、彼女はにっこりと微笑んだ。
「さて皆様、宴もたけなわではございますが、どうにもわたくしは主賓に歓迎されていない様子。ゆえに大変失礼とは存じますが、ここでお暇させていただきます」
優雅に――大男一人を組み伏せている状態が優雅なのかはともかく――一礼。そうしているリアルの左腕、手首のブレスレットがチッチッとかすかな音を立てて小さな光を点滅させていた。
リアルの背後。そこは一面ガラス張りとなっており、海原に面した絶景が望めるようになっている。その光景の中央、星明かりに照らされた海面が、突如爆発したかのように水柱をあげた。
わずかな間を置いて、一斉にガラスウィンドウが砕け散る。
悲鳴と怒号が上がり、会場は阿鼻叫喚の様相と化す。そんな中子爵令嬢と取り巻きに下がるように命じつつ、ヤーティェ王子は鋭いまなざしをリアルに向ける。
「ここのガラスは耐砲撃仕様、戦車砲でも破れないはず。それに先の反応、どうやら彼女は……」
見つめ合うように視線が絡み合う中、降り注ぐガラス片を背景にリアルはにぃ、と不敵な笑みを浮かべ……
踏みつけていた筋肉ダルマを「ごめんあそばせ」と蹴り飛ばし、背後へと跳躍。よく見れば、ガラスの割れた場所は光景が歪んでおり、透明ではあれども『何か』が存在しているようだ。
「光学迷彩、消音機構解除。コクピットを開けて」
ブレスレットに呟きつつ空中に着地したように見えるリアルの足下から、染み出るように何かが姿を現し、同時に地響きとも雷鳴ともつかない轟音が響き渡る。
鎧武者か騎士を思わせる深紅の装甲。超硬精製鋼で形成された四肢。全高20メートルほどのそれは戦場の花形。人類の無駄に発展した科学力から生み出された鋼鉄の巨人。
「【人型攻撃機】! やはり人形使いか!」
王子の声をよそに、リアルは人型攻撃機――リマー王国軍主力機【トゥルブレンツ】の胸元にあいたコクピットに飛び込む。
ハッチを閉じロックユニットで体を固定、すぐさま機体の各部をチェック。索敵を開始すると同時に反応。システムがコンバットモードへと移行する。
「離宮の防衛が一個小隊だけとは。……ま、こちらもドレスが邪魔で、ちょうど良いハンデになるでしょうけど」
がおう、とエンジンが咆哮を上げ、乱気流の名を持つ機体が一気に加速した。
対するは離宮の警備についていた3機のDA。宮廷警備用に華美な装甲を施されたクレン王国の【ヴィクトール】が、押っ取り刀で駆けつけてくる。
しかしながら実際に戦闘になるとは思っていなかったらしく、また場所が場所だけに戸惑いと躊躇があるようで、動きが鈍く迷っている様子がある。
そういうのはカモでしかない。リアルは機体の腰に提げていた超振動剣を抜刀。幅広剣の形状をしたそれを下段に構え、迷わず突っ込んだ。
一瞬で至近距離。飛び込まれたヴィクトールが盾を構えようとするが遅い。下から逆袈裟に切り上げる。
轟音。歪空間バリアを抜け右脇腹に一撃。装甲の破片をまき散らしながら、重い機体が浮いた。
すかさず切り返しの太刀。肩口に入った一打はフレームにまで到達し、機体を地面に縫い付ける。
「一つ」
1機目が沈黙したときには、もう2機目と交戦が始まっていた。
今度は盾が間に合った。見た目重視でも盾は盾、振動剣の一撃をしかと受け止め――
紅き機体は、背後にあった。
「な……!?」
パイロットは驚愕するが何のことはない、打ち込みと同時に盾を影にして横をすり抜け、背後に回っただけだ。ただ一連の行動が、速い。
振り返る間もなく衝撃。背後からの前蹴りで、2機目のヴィクトールは仰け反るように体勢を崩す。
歪空間バリアは文字通り空間を歪めて攻撃をそらすものだ。しかし許容量以上の物理衝撃に対しては効果が薄くなる。詰まるところ、直接ぶったたくのが最もダメージを与えられるのだ。蹴り飛ばすと言うのも当然有効である。姫君がやることなのかどうかは別として。
大きく体勢を崩したところに剣で追撃。吹き飛ばされた機体は前のめりに倒れた。
「二つ」
3機目は大胆なのか考えなしなのか、胸部に備えられた機銃を撃ち始めた。まだ離宮周辺に人が残っているかもしれないというのに。
まあそれが通用するかどうかは別の話なのだが。
腰部のスラスターを吹かして回避行動をとるトゥルブレンツにはかすりもしない。リアルは余裕の笑みでこうつぶやく。
「古人曰く……当たらなければどうと言うことはない、でしてよ」
実際当たっても60㎜レールガン程度ではたいしたダメージにもならないが、せっかく 専用色にした機体に余計な傷をつけたくない。それに避けて周囲に被害が及んだとしても知ったことではないし。
気楽な様子のリアルに対して、実のところ相手は半ば恐慌状態であった。
「来るな、来るな、来るなぁ!」
DAに対して効果の薄い機銃を周囲にかまわず撃ちまくる時点で正常な判断が出来ていない。迫る紅い機体、その左肩にあるものを見いだし、パイロットは声を上げる。
「焔の薔薇の紋章!? これは、リマー王家近衛の……」
台詞を言い終わる前に唐竹の一撃。 頭部を粉砕し、胸部上面まで至った打撃は、一発で機体を沈黙させた。
ゆっくりと倒れるヴィクトール。それを確認したリアルは、しかし戦闘態勢を解かない。
「これで全部……ではなさそうね」
レーダーに反応。こちらに向かってくる艦船から艦載機が発ったようだ。
「準備の良いこと。……最初から私の身柄を拘束するつもりだったのかしら」
戦艦にDA1個中隊。人一人の身柄を押さえるには大仰に過ぎるが、駐留部隊が展開するには早すぎる。前もって用意していたのは間違いない。
「さて、それなりの腕なら苦戦する数ですけれど、どうかしら?」
むしろ楽しそうに笑むリアル。目視で降下してくる部隊を確認、応戦するため機体を踏み込ませ――
後方より新たな反応。それは高速で向かってきた。
「姫様ー!」
響く女性の声。現れたのは鋭角的な航空機にも見える何か。
それは降下している部隊に牽制射撃を加えつつ、後方から割れるように『変形』した。強襲型可変DA【ヴァルキュリア】。3機のうち2機は滞空し牽制射撃を続け、両手に銃と剣が一体化した武器、【バヨネットアーム】を備えた1機が、リアルの機体を護るように降り立つ。
「お待たせしました姫様。ご無事で何より」
モニターに映るのは、メイド服姿に眼鏡の女性【シャラ・ラップ】。リアルの侍従である。今日は屋敷
で控えさせていたのだが。
「むしろ早すぎでしてよ。この騒ぎどうやって知りましたの?」
その問いに対し、シャラはくいっと人差し指で眼鏡を押し上げつつ答えた。
「このシャラ・ラップ、常に姫様の動向をモニターしておりますれば」
「なにそれこわい」
きらりんと光る眼鏡になんかちょっと引くリアル。かまわず無表情のままシャラは続けた。
「ともかく船をこちらに回しております。このまま離脱を」
「え、ええ。分かったわ。一気に国外へ抜けますわよ」
「御意」
スラスターを吹かして宙に舞う。そのままシャラの機体に先導され、リアルは離脱を始めた。
その先に飛来してきたもの。鋭角的なシルエットを持つそれは、リアルが所有する大型クルーザー……に偽装した強襲揚陸艦【ダーメファルカン】。大気圏突入から再離脱、恒星間超光速航行までこなせる万能艦である。
空中にて、展開した後部デッキに着艦。全機を収納した後、ダーメファルカンは星空へと登っていく。
この騒動をきっかけに、リマー王国とクレン王国は関係を悪化させ、戦端を開くことになる。
それは、世界を揺るがす大戦の幕開けであった。
つづかぬい。
皆様おはこんばんちわ(古)緋松です。
そろそろ皆飽きてきたであろう婚約破棄もので思いついたのでひとつ書いてみましたが、ただの趣味丸出しだよ。
ただただロボットものが書きたかっただけというのがよく分かる作品ですね。なぜこれを婚約破棄からつなげようとしたし俺。ざまぁ(物理)でも書きたかったというのでしょうか。自分でやっててよく分かりません。
話を練れば面白くなりそうですが、続けても途中で力尽きるような気がするので連載とか考えていません。死ぬるし。
ともかく今回はこのようなものでお茶濁し。余裕が出来たらまたなんか書くか、煮詰まった話の続きが出来ると思います。
現在世間は大変なことになっていますが、皆様もお体には十分注意なさってください。
それでは失礼。