第九話
駅で尚代先輩を待つ。
自分はけっこうおしゃれな方だと思う。
尚代先輩にかっこいいと思われるといいな、と思った。
あっ。
尚代先輩だ。
尚代先輩は黒のジャケットに、赤と黒のチェックのスカート。黒い長いソックスを履いて、靴はブーツをはいていた。
なんというか、かなりオシャレだ。
「待った?」
「いいえ今来たところです。」
そんな恋人のような会話をした。
あれ俺と尚代先輩は恋人だよな。
「電車乗りましょっか?」
「ええ。」
そう言って俺と尚代先輩は駅の構内に入って行った。
俺達が電車に乗る駅は学校のすぐ近くの駅だ。
二人の都合がいいので待ち合わせはその駅になった。
電車をホームで待つ。
「先輩っておしゃれなんですね。」
「おしゃれは好きなの。きれいになるって女性にとっては大事なことよ。」
そう尚代先輩は言った。
電車が来た。
ひとはあまりいない。
どうやら座れそうだ。
空いてる席に座る。
「私、デートってはじめてなの。」
そう尚代先輩は言った。
「そうなんですか。じゃあ今日は楽しまないといけないですね。」
そうなのか。
きっとあまり恋愛はうまくいかなかったのかもしれない。
俺が初めての恋人なんだな。
いい恋人になれたらいいな。
そう俺は思った。
いい恋人か。
俺はあまり器用な方じゃない。
俺にできることは誠実に、誰よりも優しくすることだ。
目的の駅に着いた。
そこは自分たちの街で一番大きな町だった。
まあデートコースとしては無難だろう。
人が波のように往来する。
尚代先輩の手を握る。
「どこか行きたいところあります?」
「亘君にまかすわ。」
そう俺を試すかのようにいった。
女の子はいつだって男を虜にする悪魔のようになれる。
そんなことを思った。
だいたい行くところは決めていた。
楽しくてドキドキするところがいい。
楽しい会話が生まれるような。
一度も行ったことのない雑貨店に行くことにした。
そこはいろんなものがあった。
魅惑的な香りがする香水。
値段の高そうなギラギラとしたシルバーのアクセサリー。
おしゃれなカバン。
かわいらしいフィギア。
きれいで鮮やかなイラストがのってある本。
どこかの国のロックなCD。
尚代先輩が気になっていたのは、星の形をしたキーホルダーだった。
じっとみている。
あまりにもじっと見ていたので、笑ってしまった。
「それ気に入りましたか?」
「うん。小さい頃よくキーホルダーをかってもらってたの。鍵なんかもってないのにね。それをランドセルにつけるのがひそかな楽しみだったの。それを思い出しちゃって。」
そう尚代先輩は言った。
「同じやつ買いませんか?思い出に。」
「それってプレゼント?」
ちょっと笑って尚代先輩は言った。
「はい。大切にしてくださいね。」
そう俺は言った。
雑貨店をでてぶらぶらする。
「亘君ってやさしいわよね。」
「そうですかね。」
「きっと亘君が思っている以上にやさしいと思うわ。」
「ありがとうございます。」
そう言って俺は笑った。
「きっといい漫画かけると思う。」
そう尚代先輩は言った。
それから音楽ショップに行って、古着屋をみてまわった。
尚代先輩が意外にもロックが好きなことに笑ってしまった。
「心を揺さぶるロックっていいわよね。」
そんなことを真顔でいう尚代先輩はとてもおかしかった。
もう夕方だ。
俺と尚代先輩は小さな公園のベンチに腰かけた。
「今日は楽しかった。」
そう尚代先輩は言った。
尚代先輩が俺の肩によりかかる。
肩を抱き寄せる。
甘い彼女の体臭がする。
「愛してる。」
そう俺は言った。
愛してる。
その言葉を俺は大切にしている。
言葉の中でも最も甘く、せつない言葉だからだ。
「私も好きよ。亘君のこと。」
彼女もきっとその言葉を大切にしているんだな、と思った。
彼女の口から愛してると言わせたい。
尚代先輩の目を見つめる。
尚代先輩も見つめ返す。
愛しいその唇。
俺は尚代先輩とキスをした。
尚代先輩の柔らかい唇。
尚代先輩の鼻息がかかる。
「好きよ」
そう喘ぐように尚代先輩は言った。
ゆっくりと舌を入れる。
ザラザラとした尚代先輩の舌は一つの生き物のように動く。
唾液の匂いがする。
俺と尚代先輩は互いに求めあった。
俺と尚代先輩は男と女になった。
ゆっくりと俺たちは大人になる。