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虹の向こうへ  作者: Rred
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第六話

 今日は図書委員がある。

 もう三週以上行ってない。

 尚代先輩にあってもせつない気持が湧くだけだ。

 

もう会いたくない。

 

 そんな気さえした。

 

 「亘〜。一緒に帰ろうよ。」

 そう栄子は甘えたように俺に言う。

 俺はいいよ、と返事をする。

 

 「亘って漫画描いてるの?」

 そう栄子は俺に聞いた。

 「ああ。あんまりうまくないけど。」

 俺はそう言った。

 「ふーん。じゃあ今度私の絵を描いてね。」

「ああ。」

 そう俺は曖昧に返事をした。


 栄子のことは好きだ。


 しかしそれ以上に好きな存在がいる。


 そのような気持で栄子と付き合うのは栄子にとって残酷なような気がした。

 しかし自分の怠惰な性格というか、面倒くさがりな性格が、なかなか別れまで切り出すのを拒んだ。


 「亘君?」

 そう聞き覚えのある声がする。

 誰よりも愛しい声。

 尚代先輩だ。

 俺は振り返った。

 「どうかしましたか?」

 そう俺は冷たく答えた。

 

 「最近当番に来ないからどうしたのかと思って。」

 そう尚代先輩は言った。

 「面倒くさいんですよ。もともと本なんて好きじゃないし。」

 

 メンドクサイ。

 

 そんな冷たい言葉を自分の口から言ったことにぞっとした。

 

 人はなかなか素直になれない生き物だ。

 

 あなたのことが好きです。

 

 そう言えたらどんなに楽だろうか。


 「そう。わかったわ。」


 そう言って尚代先輩は図書館へと歩いて行った。


 どんな顔をしていたかは見ることができなかった。

 悲しい顔をしていただろうか。

 

 オレハセンパイノミカタデスカラ。


 俺は尚代先輩に何をすることができただろう。

 傷つけてばかりじゃないか。


 イチョウ坂を下る。


 「あの人とどういう関係なの?」

 そう栄子は唐突に聞いた。

 鋭い、と思った。

 

 俺と尚代先輩との関係。


 もしかしたら、なんの関係もないのかもしれない。

 

 「図書委員の当番で一緒になるんだよ。」

 そう俺は答えた。

 「でも仲良さそうだったじゃん。よく話すの?」

 「ああ。たまにね。」

 「怪しいな。なにか隠してることない。」

 そう栄子は言った。

 その言葉が俺の感情を逆なでする。

 「なんにもない!!」


 その言葉が空しくイチョウ坂に響く。


 怒ったのなんか久しぶりだ。

 

 この感情はもしかしたら自分に向けられたものかもしれない。

 あいまいで、自分の気持ちを言うことができない自分に。


 家に帰った。

 自分の部屋に向かう。

 ベッドに俺は倒れこんだ。

 疲れた。

 

 尚代先輩。


 愛おしかった。


 今すぐにでも会いたかった。


 そうだ。

 尚代先輩の絵を描こう。


 自分の気持ちをぶつけるように絵を描いた。

 思い出す尚代先輩の顔。

 眼鏡の奥に覗く意志的な瞳。

 どっちかといえば控え目で小さな鼻。

 ちょんとついた、どこか寂しそうな唇。

 

 彼女と愛の言葉を交わすように描いた。

 しかし、自分の技量が自分の思いとは相反するように拙く、未熟であることを思い知った。

 でも一生懸命描いた。描いた。描いた。


 出来上がった作品はあまりいいできとよべるものでなかった。

 しかし、自分がどれくらい先輩を好きか知ることができた。

 

 栄子とは別れよう。

 

 そう決めた。


 このまま引きずるのは良くないことだ。


 問題は先輩との関係だ。

 

 このまま避け続けるのか。


 先輩の読んでいた本を思い出す。


 あの最初に読んだ本。

 

 別れか。


 先輩との別れはこれでいいのか。


 このままだと先輩は卒業してしまう。


 こんな中途半端な別れでいいのか。


 こんな悲しい別れでいいのか。


 絶対に嫌だ。


 明日先輩に会おう。


 そう俺は決めた。

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