第五話
つたない文ですが読んでくれたらうれしいです。
「私、亘のことが忘れられないの。」
そう栄子は俺に言った。
放課後なにもすることがなく、教室で友達と話していると、栄子が俺を呼んだ。
「あれから、ずっと考えたの。そうしたら亘しかいないって気づいた。」
俺は素直に嬉しかった。
俺と栄子との出会いは席が偶然となりになったことだった。
一目ぼれだった。
俺の方から告白した。
答えはオウケイ、だった.
最初は遊びのつもりだったらしい。
俺はそれでも嬉しかった。
初めての彼女だから大切にしたい、と思った。
俺の頭に尚代先輩の影がよぎった。
俺が好きなのは尚代先輩だ。
「また今度返事をする。」
そう栄子に言った。
尚代先輩に会いたい。
この頃とくにそう思うことが多い。
しかし俺の恋心は大海に浮かぶイカダのようにはかなく、実らないだろうとなんとなく思った。
しかし、まだ分からない。
今好きな人がいるとしても、自分に好意が向く可能性はある、とそう信じてみることにした。
文芸部に足は向く。
今日は図書委員はなかった。
当番がない日でも、尚代先輩と話がしたくてたまに文芸部に行った。
文芸部の扉の前に来た。
少し緊張する。
手を扉にかける。
ゆっくりと俺は扉を開けた。
あっ!!
見てはいけないものを見た。
それとともにこの世で一番見たくないものを見た。
尚代先輩と有山という先生が抱き合っていたのだ。
なにも言わずドアを閉める。
俺は何も見なかったことにする。
そう俺は部外者だ。
彼女たちとは違う世界の。
けして開くことのできない扉が俺と彼女たちにはあるような気がした。
さっきの光景を思い浮かべる。
尚代先輩はしっかりと有山の背中を抱きしめていた。
その窮屈な感じがとても俺に欲しいものだと感じた。
裏切られたような気さえした。
どうして有山なんだ。
妙に尚代先輩のことを知っているような感じがしたのが、とても憎たらしかった。
いいようのない嫉妬の気持ちがわく。
尚代先輩のような女性が他にいるだろうか。
そう無意識に考えた。
きっといない。
俺と尚代先輩の時間はけして二つはない。
交わした言葉も、気持も。
とても切ない気持が湧く。
俺と尚代先輩は出会ってしまった。
この広い世界で偶然にも。
そんな壮大なことを考えた。
そのくらい尚代先輩のことが好きだった。
「亘。一人なの。」
そう栄子が俺を引き留めた。
「泣いてるの?」
そう栄子は言った。
最近涙もろい。
「一緒にかえろうよ。」
そう栄子は言った。
俺はそれに従った。
だれでもよかった。
一緒にいてくれるなら。
イチョウ坂をゆっくりくだる。
「大丈夫?」
「なにがあったの?」
「亘が泣くところなんか初めて見た。」
栄子はよく話した。
それが栄子のやさしさであることはよく分かった。
しかし、つい尚代先輩との時間を思い出す。
せつない気持ちが湧く。
栄子が手を握ってきた。
もうどうでもよかった。
栄子と目が合う。
栄子の柔らかそうな唇。
俺と栄子はキスをした。
読んでくれてありがとうございました。