第三話
つたない文ですが一生懸命書きました。
最後まで読んでくれたらうれしいです。
俺は図書館へ向かっていた。
かなり気持ちが興奮している。
あの先輩が読んでいた本に、ただ感動したのだ。
この気持ちを誰かに伝えたい。
けれど最初に思い浮かんだのは、あの眼鏡の少女だった。
彼女ならきっとわかってくれる。
なぜかそうした確信があった。
読み終わったのは今日の昼休みだった。
本の最後は、登場人物の男女が永遠の別れを描写する場面で終わっていた。
あんなに愛し合ったのに、運命は無情にも二人を引き裂く。
最初は納得がいかなかった。
絶対に二人は一緒になるものだと思っていた。
しかし、人間ってのはいつか別れるものだ、と思うとその人間の別れの切なさや悲しみが象徴された形で描かれたのがこの小説ではないか、と思った。
一番美しく、悲しく、切なく別れというのはどういう別れだろうか。
別れはあまりしたくない。
でもいつか別れなくちゃならないなら、そんな別れをしてみたい、と思った。
大好きな相手と。
図書館のドアをバンッと開ける。
先輩はいつものように本を読んでいる。
「先輩!!この間先輩が読んでいた本なんですけど、とても感動しました。この二人の別れがとてもせつないけどいいですよね。いつかこんな別れを経験したいなって思いました。」
そう一気に話した。
眼鏡の先輩はポカンとした表情をしている。
あれ、あまりにも突然すぎたか。
「ふふふ。そうね。あなたの気持ちわかるわ。」
そうコロコロと笑いながら眼鏡の先輩は答えた。
俺の気持ち伝わったのかな。
「でも、ここは読書するところだから静かに話してね。」
あ、すいません、と今頃恥ずかしくなった。
ドカッと先輩の隣に座る。
「そう、そんなに感動したの。あれはイギリスの小説だったかな。時代はけっこう前ね。彼の小説っていいわよね。かなり彼はロマンティックなのよ」
そう眼鏡の先輩は話す。
本のことになると饒舌になるようだ。
「今読んでいる小説も彼の作品なの。どこにいっても彼の作品はないのに、この図書館にはあるの。蔵書してくれた人はなかなかセンスあるわね。」
そう眼鏡の先輩は喋り終えると、ふう、と吐息をもらした。
「俺、漫画しか読まなかったけど、なんだか小説も読みたくなりました。いい小説あれば教えてくださいね。」
そう俺は言った。
「私の助言でよければ。」
「先輩の名前はなんなんですか。」
「太田尚代」
そう首をかしげて、まるで花のような可憐な笑顔で言った。
その日から、急に図書委員の仕事が楽しくなった。
尚代先輩の勧めてくれる本はどれも素敵な話で、読み終わった後先輩とその本の感想を言い合うのもまた楽しかった。
小説が好きになれば、図書館は宝の山である。
ここの図書館はかなり本の数が多い。
尚代先輩いわくここの図書館にくる本を選書している有山という先生がかなりセンスがいいらしい。また先輩いわく文学というのは芸術で、一つの作品でもひとそれぞれ受け取るものは違って、センスがいいというのは自分の本の好みがその人と合う、ということらしい。
いろんな本を読んだ。
その中でも印象に残ったのは、中国のある小説の登場人物の少年だ。
彼は夢を持っていたが、親や兄弟に反対され、悩んだ末その夢をあきらめる。
なんだか自分を見てるようだった。
夢と現実。
その言葉が自分に重くのしかかる。
この少年は夢をあきらめて自分の与えられた仕事をして、それなりに大成する。
しかし、この少年は本当に幸せなのだろうか。
本当に後悔はないのだろうか。
「尚代先輩。夢ってありますか。」
そう俺は先輩に聞いた。
「あるわよ。」
そう少し間をおいて言った。
「そうですか。」
あえて夢の内容は聞かなかった。失礼になる気がしたからだ。
「もし、現実的にその夢がかなうかどうか分からなかったら、どうしますか?」
そう俺は言うと、少し尚代先輩は手を口の辺りに持っていき、考えてから言った。
「難しいわね。私は憶病だからあきらめてしまうかもしれないわね。やっぱり先がみえない未来って怖いじゃない。でも夢にむかってがんばってる人は好きよ。なにかきらきらしてるから。」
俺は自分の夢のことを話そうかどうかためらった。
オタクであることがばれてしまうかもしれない。
でも、尚代先輩は受け入れてくれるような気がした。
尚代先輩が受け入れてくれないなら、この世の中の誰も受け入れてくれないような気さえした。
「俺、漫画家になりたいんです。」
そう俺はためらいがちに言った。
「漫画が大好きで、人を笑わせて、感動させるような、そんな漫画が描きたいんです。」
俺はそう言うと、尚代先輩はふふふ、と笑った。
「亘君っておかしいわね。」
そう尚代先輩は笑いながら言った。
「そうなの。亘君、悩んでるんだね。私は応援するな。なんだか亘君の描いた漫画を見ていて見たいって思う。」
そう尚代先輩は思わず目線をずらしてしまうような、そんな純粋な瞳で俺の目をみて言った。
尚代先輩の絵を描きたい。
そうなぜか思った。
「終わり」
そう尚代先輩は言った。
自分の読んでいた本を閉じて、腰を上げた。
ふう、少し疲れたな。
図書館を出るとやや薄暗い。
秋が来る。
そんなことを思い起こさせるような、かすかに肌寒いそんな空気。
「一緒に帰らない?」
そう言ってきたのは尚代先輩の方だった。
少しどきり、とする。
「いいですよ。」
そう俺は平静を装っていった。
彼女はどんな恋愛をしてるのだろう。
そういう疑問がうかんだ。
どこか寂しげな雰囲気をもつ彼女。
どういう友達がいるのだろう。
本以外に好きなものはないんだろうか。
嫌いなものはなんだろうか。
そういうことを質問したかったが、なかなか素直に聞けなかった。
聞けば彼女はすぐに答えてくれるだろう。
なぜだろう。
彼女に自分の好意をさとられたくないからか。
俺は尚代先輩のことが好きなのか。
イチョウ坂をぶらぶらとくだる。
「私ね、小説を書きたいの。」
そう切り出したのは尚代先輩だった。
「ごめんね。なんか変だな私。なんだかおしゃべりね。」
そう尚代先輩は言った。
「小さい頃からの夢なんだけどね。自分の才能に自信がなくて。」
尚代先輩は少し寂しそうに言う。
きゅんとしぼんだ姿はなんだかとても愛おしく思った。
かわいい、と思った。
「きっと尚代先輩は才能ありますよ。そんな気がするんです。」
そう俺は元気づけるように言った。
「そう。ありがとう。」
夢を大事にしてるんだな、と思った。
恥ずかしそうにうつむく尚代先輩。
そう恥ずかしがる尚代先輩はウサギのようだった。
さびしがりやのウサギ。
飼い主をなによりも大事に思っているそんなウサギ。
尚代先輩のことが好きなのかもしれない。
一番自分が聞いてみたいことを俺は質問してみた。
「好きな人っているんですか?」
「ええいるわよ。」
遠くをみて尚代先輩はそう言った。
その目の先にあるのは俺でないことはすぐに分かった。
でもそれはわかっていたことだ。
せつない気持ちが湧く。
イチョウ坂をゆっくり歩く。
夢がかなえばいい、と思った。
二人のどちらの夢も。
そう心から思った。
読んでくれてありがとうございました