表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虹の向こうへ  作者: Rred
10/13

第十話

 尚代先輩に勉強を見てもらう。


 「ここはコサインの範囲があるから最大値は3ね。」


 そう尚代先輩は言った。


 尚代先輩の説明はわかりやすい。


 下手な先生よりよっぽど教え方がうまい。


 きっと先輩は俺より賢い。


 なにか男として劣等感を感じる。


 尚代先輩が一生懸命説明する。


 いい?と俺に言う。

 

 デートした日のことをふと思い出した。


 先輩の下手ながら一生縣命のキス。

 

 わずかにのぞく尚代先輩の性欲が俺の脳を刺激した。


 「先輩?」


 そうキスをねだる。


 「だめ。亘君ったら。」


 そう笑って尚代先輩は拒んだ。


 そう言う姿もとてもかわいかった。


 「俺先輩に言うことがあるんです。」


 そう俺は先輩に言うことがある。

 それは俺の決意だった。


 「先輩に俺の漫画見てもらいたいんです。」


 「先輩が卒業しちゃうともうそんな機会ないと思うから。」


 卒業。

 無情にも別れはやってくる。

 もしかしたら永遠の別れかもしれない。

 

 自分の存在を認めてほしかった。

 夢と現実で悩む俺の生きる叫び。


 「わかった。」

 そう尚代先輩は言った。


 もう二月の終わりだ。

 先輩は入試を終え、結果を待っている。

 卒業まで二週間。

 

 

 書く題材は決まっている。

 

 ひょんなことからロック歌手になったその抜群の歌唱力をいかして成り上がる、という話しだった。


 漫画に笑いははずせない。

 必至に笑いを考えた。

 

 言葉も大事だ。

 いかに胸を打つ言葉を紡ぎ出せるか。

 

 その主人公はニートという設定にした。

 成り上がるんならそのくらい下がいい。


 主人公は昔から歌が好きだった。

 ある時から歌が嫌いになった。

 なぜなら有名な歌手だった親父が浮気をして母親をすてたからだ。


 尊敬していた父親が自分たちを裏切る。

 その衝撃は自分の人生にまで影響する。

 

 高校時代は荒れた。

 悪いことはなんでもやった。


 しかし虚しさだけがのこる。


 大人になっても働かなかった。

 なにか大切なものが欠けている感覚。

 そんな思いがする主人公。


 そんな中好きな女の子ができる。

 主人公には高嶺の花だった。

 その女の子はあるバンドのボーカルをしていた。

 ライブを見に行ったとき楽屋にいくと、女の子が倒れていた。

 ボーカル不在の中ライブは中断しそうになった。

 しかしそこである欲求が湧く。

 歌いたい。

 ただそのことを強く思った。

 俺が歌うと宣言する。

 当然ながら反対するバンドのメンバー。

 そこで主人公は歌う。

 切なく、甘い、高いハスキーボイス。

 なめらかなビブラート。

 主人公は自覚する俺はやれると。



 そういった話だった。

 はっきり言って自信がなかった。

 

 どんなに話がよくても伝えたいことがないとだめだ。

 俺はそう思う。

 自分の伝えたいことが伝わって初めてプロと呼ばれる。


 絵はあまりうまくない。

 そう自分でおもってる。

 

 一生懸命かいた。

 最初は下書き。

 

 それからペン入れ。


 自分のお気に入りのGペンをつかって書く。


 根気のいる作業だ。

 丁寧に。

 ただ丁寧に。

 

 ちょっと休憩だ。


 尚代先輩が遠くにいってしまうとなると、遠距離恋愛ってことか。

 いっぱい手紙を書こう。

 実際に話すのと手紙をかくのは全然違う。

 より素直に書ける。


 卒業まで二日前。

 先輩に自分の漫画を渡す。


 「たしかに受け取ったわ。」

 そう尚代先輩は言った。

 「ペンネームは(ワタル)ね。」


 俺は自分の名前を気に入っている。

 先輩が亘君、と甘くささやくのも大好きだった。


 「卒業式のとき感想をいうから、会おうね。」

 そう尚代先輩は言った。


 ちょっとクラっとする。

 あれ、なんだか目眩がした。

 

 「楽しみにしてる。」

 そう俺は言った。


 本当は怖かった。

 先輩と別れるのが。

 

 俺のところにいろ。


 なんの力ももたない十代の俺はその言葉を胸にしまうしかなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ