閑話 少年・前編
「アンタ等さえいなければ、あの老いぼれジジイも操れるのにねえ」
幼き日の俺と妹が最初に聞いた、継母の言葉がこれだった。
継母とは何か知らなかった俺でも、なんだか大体その一言で分かった気がした。高いお金を払って学校に通う、こんな役立たずの子供と病院代ばっか喰う妹が嫌だったのだろう。
義姉さんは、お父さんの前ではにっこりと感じの良い微笑を浮かべて此方に微笑みかけていたが、お父さんが部屋を出て行くと、態度を豹変させて腕をつねってきた。
「早く出て行きなさいよぉ、財産だけ欲しいんだからあ!」
金の亡者そのものの義姉。
意地の悪く、他人を虐めるのが好きな継母。
悪い予感はしていた。
***
「コヘラ、何で診察の時、そんなに腕を隠していたんだ。お医者様が困っていただろう」
「...お継母様が...、腕、隠さなきゃ駄目だって」
...継母、が...。
何かに気付いてコヘラの服の袖を捲くると、火傷の痕や紫色のあざが現れた。
「コヘラ...。これ、一体どうしたんだ」
「お継母様が、言ったら酷いことするよ、って言っていたから...」
「...」
なん、で...。
「大丈夫だ、安心して兄ちゃんに言ってご覧。誰も聞いていないから」
「...お継母様がね、すとれすが溜まるから、って火を吹くキャンディを押し付けてきたり、つねってきたりするんだ」
火を吹くキャンディ、とは、あのタバコとか言うものである。
俺が、冗談で言ったことを本気にしているコヘラが、タバコを吸っているお父さんによく言う言葉である。火を吹くキャンディを食べている、って。
「お父さんに言おう。兄ちゃんが必ず酷いことなんてさせないよ」
「...ありがとぉ、お兄ちゃん」
にっこりと笑ったコヘラを見て、ほっとしていた俺はなんて馬鹿だったんだろう。
***
「...お父さん、お話があります」
「どうした、何か用かな?」
夜ご飯中、にっこりと、戯けながらそう彼は言った。俺は、コヘラの服の袖を捲って、「これ、継母さんがやったんです」と事情を説明した。お父さんの顔が、険しくなる。
「...本当か、ミシュラ」
訪れる沈黙の後、継母はとぼけたように声を紡いだ。
「いいえ、そんなこと御座いませんわ。きっとあれだわ、コヘラちゃんが室内で遊んでいた時に、暖炉の中に腕を入れたからよ。...私が直ぐに気付いて取り出したから、良かったものの、ね」
「ではこのあざは?」
「たまに行く学校の学友と仲良くいってないのよね、コヘラちゃん」
「えっ...えっと」
「そうよね、コヘラちゃん」
「...は、はい、そうです」
コヘラは、捲った服の袖をぎゅっと掴むと、青ざめた顔でそう呟いた。
「だとしたら、何故お前は継母のせいだと言ったのだ?」
「えっと、だって...」
「...私は、この子に嫌われているのですわ...。本当のお母さんじゃないから、生さぬ仲な故に...」
継母は、泣き始めた。義姉さんも、涙を零して、「...私も、コヘラちゃんと喋りたいのに、義弟は駄目と言うのです」と一息に言った。
...何なんだ、継母と、義姉さん...。
「おっ、お父さんッ...」
「...嘘をつくのは駄目だ、少しは...ミシュラと話しなさい」
父は、そう言うとご飯を食べ終え書斎へと向かった。
継母と義姉さんは、にっこりと笑った後に、コヘラの方に向き直った。
どうもお久しぶりです、令和になってもよろしくお願いします、作者です。
友人からニューイヤーの時の如く、『令和おめでとう!』と送られてくるのですが、ノリについて行けません、作者です。(二度目)
少年の名前を書いていないのは、ある理由があるからです。
閑話を書くのが楽しくて、本編忘れそうです。嘘です、本編も頑張ります。
ではまた次の話で。




