No.4 果物屋
「...ベネさん、こんな歌知っていますか?」
そう言うと、すう、と息を吸ってある歌を歌い始めた。お世辞にも上手いとは言えない歌声だが、それでももし知っているのなら、歌詞などを聞いて分かるだろう、と思う。
「ゆーきやこんこ、あられやこんこ、ふってもふってもまだふりやまぬ...」
「えぇえ、なぁに、可愛い歌。でも、知らないなぁ。歌詞さえも聞いたことないし」
...や、やっぱり...。
宿屋に帰った後、宿屋の上にいるマルシェルに聞いても、二日酔いが止まらないタルヤに聞いても、「知らない」と言われた。マルシェルに至っては、「もしかして、転生出来なかったから幻聴が...!?」と深刻そうな顔をしていた。
「やっぱり、この世界でこんな歌はない...」
だとしたら、何故、彼女は知っていたの?
私達の世界でしかない歌を、どうしてあの子は知っていた?誰か...そう教えた人がいる?それとも...彼女が元から知っていた??
「...と、ここまで考えたんですけど...」
ばさぁっ、と紙をテーブルに広げる。紙には、今まで考えてきた仮定などが書いてある。
「分かんないんですよぉーっ!」
「...あのなぁ、嬢ちゃん...俺も分かんねぇよ」
どうやら、分かんないらしいです。
***
「大体、何で俺に抱き着いてくるわけ」
「だってぇ、この時間帯起きてるのジョンさんだけなんですもんー!」
「...お、おう...」
3号室の、ジョンソンさん、ことジョンさんが呆れ顔でそう呟く。テーブルに突っ伏している聡美は、すがるようにジョンさんを見た。ちなみに、今は夜(朝?)の1時である。
「あのなぁ、嬢ちゃん、俺は夜から『モンスター討伐』に行ってくるから、別に起きててもいいわけ。嬢ちゃんは、こんな時間に起きていい理由はないの」
ガジガジ、と果物を食べながらそう言う。宿屋では、食卓は共同なので、好きなものを食べれる。
「でも分かんないんですー!!」
「...食べる?」
疲れた者に施しを与えるような、憐れみの眼で果実を差し出してきた。
...うっ、なんだこの気持ち...?
憐れみって...悲しいんだなぁ...。
「...ってかさ、知らない人が多いだけで、別にいないわけじゃないんじゃね。この国じゃない所から、その歌ってた人が来てただけじゃねーの」
「えっ?他の国もあるの?」
「なぁーに言ってんだよ、そんぐらい分かるだろ、お前イェゴ村から来たんだろ?境界付近じゃねぇか」
「あっ、あはっ、そうだよねぇ!」
異世界転生者だとは言ってない。言ったら、それこそ大問題になるから...とタルヤは言う。
今、とりあえず宿屋では、誤魔化しておかないと...いけないし、なぁ。
っていうか、イェゴ村が境界付近って何気にお初だよ???
あと、他の国があるっていうのも。
なんか、ジョンさんが叫んでいる気がするけど。
「ま、いっか...」
「よくねぇよ!!お前、そんなに果物食べるなよ!」
「あっ」
いつの間にか、そこにあった果物を全部食べていたらしい。
***
「えーと、『オレンジ』と『イチゴ』と...」
そう言って、ジョンさんが渡してくれたメモを見る。
「...『キエラ』と『マドマド』...」
何、それ???
いや、オレンジとイチゴまでは分かる。
でも、何なの、『キエラ』に『マドマド』って???
「そんなもんあったっけなぁ...」
自分、そんな得体の知れないものまで食べちゃったけな。
そう思いながら、買い物リストのメモを見て、溜息をついた。
あの後、ジョンさんに全部果物を食べられたと言われ、それから新しいのを買ってこい、と買い物リストを渡された。ジョンさんは『モンスター討伐』に向かったようだが。
そんなわけで、朝一番から王都を散策しているのである。
「あっ、あれ『果物屋』かな?」
果物が沢山店先に出してある。きっと、ジョンさんが言っていたのはこの店だろう。
「『オレンジ』と『イチゴ』...ああ、あったあった」
これは直ぐに分かるんだけどねぇ...。
『キエラ』と『マドマド』って、本当になんぞや??
「おばちゃーん、『キエラ』と『マドマド』ってどれー?」
おばちゃん、聞こえているのか分かんないけど、ずっとシーンとしている。
「おばちゃーん、おばちゃーん」
無視。静寂。
「おばちゃ...お姉さーん」
「はいはい、お客さんかね?『キエラ』と『マドマド』はあっちの方だよ」
めっちゃ聞いてるじゃないですか!?!?
ま、まあいいや。
おばちゃんの言われた方向に行くと、『キエラ』と『マドマド』と書かれた紙が果物の下に下がっていた。あ、あったぁ!!
「「...え?」」
残り一つの『キエラ』に手を差し出しているのは、私と...それから、別方向からやってきた女性。ぱちくりと眼を瞬かせてから、「あ、ごめんなさい」と彼女は手を引いた。
「あ、大丈夫ですよ!貴方の方が、先に取ったじゃないですか!」
「え...いいの?」
「私は他にも買う物があるので、どうぞ」
「...あっ、ありがとうございます!助かりました、何とお礼を言ったら良いか...」
「えええ、そんなに言わなくても大丈夫ですよ!」
ぺこり、と頭を垂れた少女にそう言う。
「このご恩は忘れませんわ。ありがとうございます」
そう言うと、彼女は去って行った。
「...じゃあ、私も帰ろうかな」
「その前に金払いなッ!!!!!!」
おばちゃん...いや、お姉さんの罵声が響いた。
新キャラがサラッと出て来ていますが、触れないでおきましょう。
さてと、おやすみなさい(寝)
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