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No.25 吐き気

「レイ君、何をしているの」

「...勉強」

「何故?どうして?ねえ、遊びましょうよ」


「...僕は、オズノワ子爵家を継ぐ長男だから、勉強しなきゃいけないんだ」


きっぱりと言い切ると、眼の前に座って、僕の持っている書物を覗き込んでいる少女はへぇ、と首を傾げた。細い指が、書物のページを閉じる。


「あっ、何をしてッ...!?」

「ねえレイ君、知ってる?たまには息抜きも必要なのよ」

「でも、僕はオズノワ子爵の...」


「知らないわ、貴方はレイ君よ。レイ君、遊びましょうよ」


その少女は、ボールドウィン男爵の長女だった。名を、フローラと言い、その名前と同じように、花が咲き誇ったような笑顔をしていた。爵位持ちの娘子にしては珍しい、小麦色の肌におてんばな性格。


「レイ君、鬼ごっこをしましょうね、ほら、鬼さん此方。日焼けしていない少年鬼は、私を捕まえられるかしら?」

「...くっそぉ、馬鹿にしやがって!」


だっ、と本を置き去りにして、彼女目掛けて突進した。白いワンピースがひらひら宙を舞う。それでも、彼女は捕まえられなかった。


「なんで、捕まえられないんだよッ...」

「本ばっかり読んでいる代償よ、もっと遊びましょう」


にこにこと笑っている彼女は、汗一つかいていなかった。それどころか、足踏みをしながら話しているぐらいだった。元気な娘子だ。


「...はい、お水...って、キャア!?」


お水が入ったグラスを差し出した彼女は、手を滑らせてグラスにあった水を自分にかけてしまった。ぽたぽた、と髪から、服から雫が滴り落ちる。


...服、透けている。

...この子、下着つけていない。


「あははっ、冷たいねぇ...って、あれ?」


じぃぃぃ、と顔を覗き込むフローラ。その後、ぷっと吹き出す。


「あははははっ、レイ君顔真っ赤だよ!なぁに、コーフンしてるの?」


コーフンが何かは分からなかったけど、明らかに顔が熱くなったのを感じた。真っ赤。耳まで真っ赤だ。見ないように、首を慌てて動かしたので、とっても痛かった。首を手で押さえて、痛みを抑えようとする。


「...レイ君になら、別にそれでも良いんだけどね」

「え、何?」

「何でもないッ、只の独り言!」


...思えば、この時から、もうフローラは分かっていたのだろう。


身分のことに。



***



「フローラが...亡くなった」

「ああ、馬車に轢かれたそうだ。見るも無残だったらしいな」


淡々と呟くお父様の前で、絶望を刻んだ青い顔で立っているのは、16歳の僕。1歳年上の、彼女の死が告げられたのは、皮肉にもお父様から結婚が許される歳となる17歳の誕生日の、一日前だった。


「残念だったな。それで、明日から結婚が出来るから、兼ねてから選んでいたマニャールラ伯爵令嬢を...」

「...お父様?何を言っているんですか、フローラの葬儀は...」

「...何度も手を煩わせるな、レイモンド」


「え?」


お父様の、手を、煩わせる?


何時?何処で?何故?どうやって??


どういう意味、で...?


「...お父様、どういう意味で...」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。お前は、オズノワ子爵家だ、一つ下の爵位の男爵娘子なんぞと付き合うな」


バッと上を見上げて、お父様を見つめた後、慌てて馬車置き場へと走った。違う、そんなことは、そんなことは...。


馬車の車輪には、鮮やかな赤色がべっとりついていた。


「...オズノワ子爵家として、当然だ。もっと良い爵位持ちと付き合え」


...僕は。


いや、()は。


強くならないといけない。


子爵家として。後継者として。爵位を、家を継ぐ者として。


仲間なぞ、無駄だ。要らない。

この世を変えることは、誰にも出来ない。誰にも。


だとしたら、俺に出来ることはなんだ?

きっと、仲間とか言って幻覚を追っている人を、少しでも救ってやることだ。


どうせ、俺は地獄に落ちる。フローラに、清い彼女に出会うことさえ出来ない。だとしたら、誰も望まないとしても、自分は己の羅刹の道を進むのみ、それしか出来ないのだ。


やがて、家督を継いで、その思いはより強力なものになった。揺らぎなどしない、強靭な心情が心に杭を打つ。


これは、きっとフローラの呪いだ。


彼女を死なせた俺と、オズノワ家に対する呪い。


呪われた楔と、鎖に取り憑かれて、刃に裂かれるようなことがあったとしても、楽しいことがあったとしても、喜べない無感情の呪い。


時が経つと共に、笑い方を忘れ、表情筋が動かなくなる。


自分の記憶が曖昧になっていく。


仲間なぞ、吐き気がするぐらい、嫌になっていた。



はい、キャラメルを作ろうとしたら何故かドロドロの何かが出来た作者です、どうも。


これは、閑話扱いしようか本編扱いしようか迷ったのですが、結局本編にしました。

閑話って大体、主人公以外の視線から書いたものなのですが、でもこの話蛇足って訳じゃなくて、多分なんか意味があるよね、みたいな...?


そう言えば、アヘル子爵のぱぱんの名前は『イヘル子爵』です。子供を愛しすぎて、相手を殺しちゃう、ちょっと行き過ぎた愛を持ったぱぱんです。怖い。


そして、アヘル子爵のフルネームは、アヘル・レイモンド・オズノワです。だから、レイ君です。


***


そう言えば、何だかブックマークが増えていたようで、嬉しさと驚きが未だに混ざっています。

ありがとうございます。

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