No.24 乾物レモン
「...?」
ちらちら視界に入ってくる光、薄っすらと聞こえる、子供達の声。
一体、俺はどこにいるんだ。
そう思いながら、アヘル子爵は目をうっすらと開けた。光と共に、見覚えのある顔が目に入ってくる。記憶にある限り、一番腹ただしい子供の顔。その横には、記憶にある限り、一番腹ただしい大人が立っている。
にこにこ笑っていて、苛ついた。ムカついてくる、この顔達は...。
「...村の、愚民共...」
「あっ、起きましたか?」
苛つく顔で、『サトミ』と呼ばれている女性が近付いて来る。
一つ言おう。
アヘル子爵は、生粋の、骨の髄まで『子爵育ち』のお坊ちゃまである。今まで、身分さえわきまえていれば、つまり王族や子爵以上の立場に逆らわなければ、出来ないことなど無かった。
...それを、今、訂正しよう。
俺は、今愚民に逆らわれて、出来ないことがある。
***
「良かったぁ、目立った外傷も無いし、大丈夫ですねぇ」
「大丈夫なものかッッッ!!さっさと謝罪し給え、そしてもうこの愚民村から出てく!!!」
あーっっ、お怒りのご様子。
ま、まあ...。
「悪かった、とは思っていますよぉ...」
「反省の色も感じられないな」
どうも誤魔化すのは苦手らしく、そっぽを向いて口笛を吹きながら言ってしまった。アヘル子爵が、怒り顔で「ああ、そうか!!」と叫ぶ。
「でも、待って下さい、帰る前にこれを...」
「何か用かね!?」
「待って下さい、アヘルさん」
お盆に茶器をのせて、歩み寄るレーナちゃん。茶器の隣には、滑らかな白いお皿にレモンパイが切り分けられて、のっている。
「...アヘルさんに、手伝ってもらったから、折角だから飲んで帰って欲しいです」
「...何の話だ」
「薬研で、ごりごり削ってもらったものです」
そう言うと、柔らかい布に包んでいた、アヘル子爵がごりごり削った『ウスベニアオイ』の乾燥した花弁を差し出した。ふわり、と良い匂いが部屋に充満する。
「この匂いは...」
「花の自然な香りを引き出すよう、香料などは一切使っておりません。爽やかな、良い匂いがしますよ」
穏やかな顔で、そう説明するレーナちゃん。沸騰直前のお水を茶器に、『ウスベニアオイ』の乾燥した花弁と共に入れると、紅茶らしい良い匂いが辺りを漂った。アヘル子爵が、思わず頬を緩めている。
よっし、ここまでくれば、後はもう少し...!!
レーナちゃんが、茶器で蒸らした紅茶を、静かに白い陶器のカップに注いだ。ふんわり、と立ち上る甘い香り。
「...え?」
アヘル子爵が顔を歪めた。
それは勿論、この紅茶の色でだろう。
そこにあった紅茶は紅色でも、朱色でもない。
青紫色だったのだ。
***
「...馬鹿にしおって、お主等!!!」
ひゃぁぁぁあ、アヘル子爵がまたお怒りに!!
でも待って、ちゃんと味は美味しいの!!ね!!!!
だから飲んで下さいよぉ!!
「こんな物、飲めるか!!」
「...ちゃんと美味しいですよ、出来れば飲んで欲しいです」
ふんわりと微笑むレーナちゃん。癒し系美人は流石、じじいの扱いが上手い。
「...じゃあ、頂くとしよう」
レーナちゃんに半ば根負けする形で、カップを飲もうと手に持つアヘル子爵。
ぎゅっと目を瞑って、手をカタカタ震わせて、子供みたい。
「...あれ、うまい?」
美味しい?とアヘル子爵が続けて呟く。
「...何でッ...」
「だって、ちゃんと『紅茶』だもんね!フルーツティみたいな!」
レーナちゃん、ないっすぅ!
アヘル子爵に「美味しい」って言わせるだなんて、中々やるじゃないか!!
って、何から目線だ、私は...。
「あ、あとこの乾物レモンを入れてみてください。酸味がプラスされて美味しくなるし、更に...」
「色、変わった...!?」
「あ、そうです、ってもうやったんですね」
レーナちゃんが説明する前に、乾物レモンを入れたらしい、驚きで物も言えないような状態で、鮮やかなピンク色に変わった紅茶を見つめる。
「これ、何で...」
「それはですねぇ」
『ウスベニアオイ』は、その見た目からも分かるように、青色でアルカリ性である。逆に、乾物レモンは、レモン汁からも分かるように、と酸性を含んだものである。そして、もしアルカリ性に酸性が加わった時、たまに量が同じだったときは、中性になるのだが、大抵はアルカリ性または酸性のどちらかになる。
この場合は、乾物レモンの酸性の方が強かった為、このような鮮やかなピンク色になったのだ。
「...何で、こんなもの思いつく」
「えっ、紫キャベツの実験で...」
他にも検査薬になるものはないかな、って調べてたら、そうなったんだよねぇ。
意外な発見、嬉しくもあるけど。
「じゃあッ、この白い皿は!?レモンパイは!?なんでこんな贅沢なものが愚民村に!?」
「この白い皿は白色の石を削って、粘土にして焼いたものです。レモンパイは、収穫時に採ったレモンと蜂蜜を使って作ったんです」
「そうじゃない、どうやって原材料は...!?」
焦るアヘル子爵。
「...それは、仲間の力で、ちょっと」
白色の石だって、蜂蜜だって、全てライ君達が採ってきてくれたものだ。
「...仲間?」
ボソリと呟いたアヘル子爵は、遠い、虚ろな目をしていた。
ちょっとおさぼりしていました、お久しぶりですどうも作者です。
乾物レモンにレモンパイ、レモン尽くしで羨ましいです。レモン好きだけど料理は究極的に下手なので、この話を書いているとき、血涙が出そうになりました。一体、何の拷問でしょう。
え、サボった作者が悪いんだよてめぇ、って?
はい、ごめんなさい...。
そういえば、次の閑話、誰を主人公にしましょう。サロネちゃんも書きたいけど、サロナちゃんもサロメちゃんも書きたいです。
じゃあ、また次の話で。
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そう言えば、ブックマークが9件も入っておりまして、pv数ももう少しで3,000など驚きです。
ありがとうございます。




