No.21 迷惑
『...アヘル子爵のことは、丁重に扱ってくれよ』
タルヤが、そう言っていた。じゃないと、イェゴ村の人達の命が危ないのだと。
でもっ、私はっ...!!
ずんずん、とタルヤの家の奥にある、大きな客間へと進んでいく。其処にいるのは、勿論あの偉そうな指図人間だ。
「アヘルさーんっっっ、農作業しましょっー!」
自分のモットーを曲げる気なんて、毛頭ない!!!
***
「はーいっ、朝です起きてー!まず着替えて下さいね!」
カンカンカン、とフライパンとおたまを打ち付けて鳴らすと、アヘル子爵は苛立ちを浮かべながら、「何をしておる、無礼者ッ!!」と叫んだ。頭に血が上っているのか、めちゃくちゃ怒っている。
おじさん...小学生か...。
「なんて顔で見ておるのだ、貴様!」
あっ、つい顔が崩壊しそうに。面白かったから...。
「取り敢えず、低血圧の心配は無さそうですね。これ、着替えです」
「...おい、下賤者、なんだこの服は」
「えっ、どうかしました?」
言いながらも、ちょっと舌を出す私。
それもそのはず、彼に渡したのは村民の人達が普段着ている、農作業に向いている『オーバーオール』に近いものだからだ。絹しか普段着ていない子爵にとっては、耐え難い屈辱であることだろう。
「お前、サトミと言ったな?...この村が潰れても良いのか...」
...流石、すごい圧力だ。
「嫌ですよ、そりゃあ...」
「おいッ、何をしてる、サトミ!!」
タルヤの声に、振り向く聡美。
『オーバーオール』を持っている自分に気付き、それを瞬時に子爵が入っているベッドに滑り込ませた。子爵の腹立ち顔には、ぺろりと舌を出して応答する。
「...サトミ...」
呆れ顔と、酷い失望で物さえ言えないタルヤに向けて、アヘル子爵は怒り散らして怒鳴り続けた。
「こんの、無礼者!!!!下賤村民!!!」
***
「だぁ〜かぁ〜ら、あれほど言ったのに!!」
「ごっ、ごめんってばぁ...」
タルヤ、めちゃくちゃ怒っている。
ほんっとうに、ごめんって...思っている...けど。
「...でも、悔しくないの?あんなに、『下賤村』って言われ続けてさ」
ピタリ、と一瞬動きが止まったが、その後タルヤは、「俺等は爵位を持つ人達とはレベルが違うんだ」と機械的に述べた。絶対、思ってないでしょ、それ...。
「兎に角っ、今後アヘル子爵に失礼な態度をとってはいけないからな!」
「...」
「返事は!?」
「...はぁーい」
不服だ。
大変、不服だ。
でも、取り敢えず今はタルヤに従っている...ふりだけでも、しておこっかな、なんて。
***
「...サトミ、サトミ!」
「ん、あ、レーナちゃん、どうしたの?」
「この『ウスベニアオイ』が乾燥されてるか、聞こうと思ったんだけど...」
「ああ、えーっと、あと一週間ぐらいかな?」
森で摘んだ花々を乾燥中のレーナちゃんが聞いてきた質問に、上の空でそう返す。今朝、『学校』の授業、というか山菜採集ならぬ植物採集で摘んできた花を紐で括る作業も、中々の停滞ぶりを見せていた。
「...サトミ、どうかしたの?悩み事?」
「うん、いや、ちょっとね...」
まさか、今タルヤの家に『子爵』という位が高い者が来ているとは言えない。まだ、誰もこの村の人は知らないのだし、出来れば知らないでいて欲しい。だって...。
我儘だし、傲慢、だし...。
「...何か悩みがあったら、言ってね。じゃ、じゃないと...ナウットも、心配するし」
「えっ、あっ、ありがとう」
最後の方はゴニョゴニョしていて聞こえにくかったけれど、取り敢えず心配してくれていることは分かった。その言葉だけで、嬉しいよ、レーナちゃん。
...頑張ろう。
この子達に、迷惑をかけない方法で、子爵と仲良くならなければ。
***
「...じゃあ、行ってくるぞ、サトミ。くれぐれも、子爵に迷惑をかけないように」
「はーいっ、いってらっしゃーい」
タルヤは、また王都に行くとか何とかで、出かけるらしい。心配そうな顔をしているタルヤに、にっこりと微笑んで大丈夫だよ、と視線を送る。
「悪いことはするなよ」
「うん、しないよぉ、約束ね」
そう言うと、タルヤは相変わらず心配そうな顔をしながらも、馬車に乗って去って行った。
「...さて」
うん、確かに言われたよ、悪いことはするなって。
でも、だったら別に...。
「良いことだったら、良いよねぇ...」
さてと、アヘル子爵のいる部屋に行こう。
はいっ、沢山書いたように見えて話全然進んでないです、どうも作者です!!(元気)
閑話的な感覚で読んでもらえれば嬉しいです。
そうそう、次の閑話は素直な伯爵娘子サロネちゃんです。(誰得情報)
友達A子が言うには、アヘル子爵が50代でダンディなイケメンだったら、全然ストライクゾーンだって言っていました。世の中、色んな人がいますよね。
アヘル子爵は、そういう訳で枯れたイケメン枠(ダンディじいじ枠)になっています。
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そういえば、この小説のPV数が2,000間近で、驚き半分嬉しさ半分な状態です。世の中、本当に何があるかなんて分かりませんね、引き続き頑張ります。




