No.18 長女
「サトミ、これって『アケビ』じゃないこと!?」
てってこてってこ走って来て、スチャッと取り出したのはサロネちゃん。昨日泣いてから、少し性格が大人しくなったというか...素直になったっぽい。
「うん、そうだよ!『学校』に帰ったら、皆で食べようねぇ」
にっこりと笑うサロネちゃん。か、可愛い...。
「サロネちゃん、あの、聞きたいことが...」
「ぎゃおおおおおおおおおん!!」
「「「!?」」」
えっ、何ッ...!?
猛獣?いや、でも此処らへん一帯のは全部手懐けた、仲良くしている。...違う所から来た猛獣?でも『メイコスリ』が鳴っていないし...。
待って、『メイコスリ』が鳴らない条件って...。
「ルイス君、サロネちゃんを『学校』に避難させて!!」
『メイコスリ』は、人が近づいた時には鳴らせないようにしてある。そして、あの猛獣...多分、ライ君のあの鳴き声は...。
自分の家は、代々続くハンターの家、そんなことをサロネちゃんは言っていた。
「全く、猛獣達が多いんだから。駆除を怠ってるわねぇ...この下賤村は」
「...ハンター...」
若い女性が、ライ君の上に立って、構えていた鞭をしまった。
***
「...足、退けて下さい」
「あら...足置きとして丁度良いのだから、別に良いでしょう」
「...足置き...!?」
怒りが、沸々と込み上げてくる。
この人、動物に対して、『足置き』呼ばわりした?
「ええ、そうよぉ、本当は鞭打ちで鳴き叫ぶ姿が見たいのだけれど」
鞭でパシッ、と下に踏んでいる躰を打って、彼女は更に続ける。
「鳴き叫んで、許しを乞う猛獣程、情けなさが極まって、これまた興奮するでしょう?」
ぺろり、と鞭を舐めると、はぁはぁ息も荒々しげにそう呟いた。顔が真っ赤になっていて、息も荒い...。まさか、本当に興奮しているの?
ゾッとした。
この人...人として最悪だ。
「それなのにこの猛獣ったら、直ぐに気絶しちゃって。全く楽しみがいが無かったわ、此処に来て損した」
そう台詞を吐くと、地面にふわり、と降り立った。持っている剣やら、装飾品やらが、彼女が動く度にシャラシャラ揺れる。どれも豪華なものではあるが...ある種の空っぽさを感じる。
「さてと...一応、モルダッダ家の長女として、すべきことはしなければいけないの。サロネを返して頂戴ね」
「...サロネちゃんは、貴方と帰りたがってないです」
「そんなもの気にしないわ。あの出来損ないでも、政略結婚位は出来る筈だもの。家計の足しにはなるから、安心して頂戴ね、丁重に道具として扱うわ」
「...道具?」
道具?道具?
笑って、泣いて、ちゃんと感情のある子なのに、人間なのに、それを道具?素直で、優しい子なのに、家のことであんなに悩んでいた子なのに...。
それを道具って言うの?
「お引き取り下さい、此処は貴方が来ていい場所じゃありません」
「ええ、此処がいかに下賤者の巣窟かは分かっているわ。さっさとサロネを出してくれたら帰るわよぉ」
...下賤者ッ...?
「そ・れ・と・も」
にやぁ、っと悪い笑みを浮かべて、鞭を撫でる。
「貴方も、酷い目に逢いたいのかしらね?」
クスクス笑うと、彼女は鞭を構えて、にっこりと微笑んだ。
***
「...ッ...」
どう、しよう...。
今私が出来る、最善手を考えろ...何だ?
ベア君やアナちゃんに頼んで追い出してもらう?それとも...自分の、『魔法』が出来るかどうかにかけてみる?
いや、駄目だ。
今は、そんなこと悠長に出来るわけない。何か、違う手を...。でも、なにを、どうやって...!?
考えていると、パリパリッ、と火花が散る音が何処からともなく聞こえてきた。段々と、強烈な電気をそれは帯びてくる。
...『電気魔法』?
「...タルヤの、猫...?」
「みゃぁー」
何やらご機嫌斜めなタルヤの猫は、不機嫌そうに尾っぽを揺らしながら、『電気魔法』を発し続けた。どうやら、あの女性はいけ好かない、ということは感じているらしい。
「猫ちゃん、もっとパリパリして!!」
猫に頼るのはちょっとあれだけど...でも、今は取り敢えず、彼女を追い出さなきゃ!!
「ひぃんっ!?」
...効いている?何だか、少し前のめりになって来ている。
これ以上は、人間的に保たないから、もう止めに...。
「猫ちゃん、そろそろ...」
「イイッ、良いわァ、もっとパリパリしてぇ!!」
!?!?
ヒッ...この人...。
きょ、極度の、へ、変態ッ...。
「あっはぁ...良い刺激だわぁ...しょうがないわね、今回はこれに免じて許すわぁッ...」
うっとりとした、素敵なお顔でそう言うと、モルダッダ家の長女は聡美の方に歩み寄り、「次はどんな刺激を与えてくれるのぉ?」とゆっくり聞いた。
その後、ふふふっ、と息が抜けたように笑うと、「じゃあさようならっ、サロネをよろしくね!」と去って行った。
聡美はその場に、呆然として立ち竦んだ。
モルダッダ家の長女は、モルダッダ・サロメさんと言います。ちなみに、次女はサロネの双子の片割れで、名前はモルダッダ・サロナちゃんです。
長女さんは、親が厳しいお家柄で生きていく内に、頭のネジが外れたのか、何だか良くない方に成長しちゃいまして、今のMだかSだか分からない性格に...。
作者はMよりだと思っています。(個人的見解)
なんか、変な嗜好の人が多すぎる気が...気の所為かな。




