No.15 少女
金髪の、光沢のある長い髪に、淡いピンク色の頬。
ほ、本当に、こんな子いるんだ...。
まるで、御伽噺とか、絵本からそのまま出てきたような、そんな可愛い少女が、眼の前に寝転がっていた。
「...この子、何処の子?」
多分、というか絶対この村の子ではないし...だとしたら、違う所から、態々やって来たの?
何の為に??
「と、取り敢えず寝かせよっか。タルヤの家で、介抱しよう」
「お...おう、俺運ぶぞ」
タルヤが慌てて腕を差し出したので、好意に甘えて運んでもらうことにした。
***
「...だ、大丈夫かなぁ...」
タルヤの家に運んだのは良いとして、問題は、彼女がずっと起きないことである。小さな寝息が、規則正しく聞こえてくるので、多分息はある...のだろうけど。
でも、起きないとやっぱり心配...だなぁ。
タルヤだって、「サトミに任せたぞ!」って言ってから、また王都に行っちゃったし...。
タルヤって、そんなに忙しいの?
「取り敢えず、飲み物でも飲ませようかな」
蜂蜜を白湯と混ぜた飲み物を、匙でゆっくりと掬う。ぷるぷると、腕を震わしながら、彼女の口にそっと入れようとした。
...こ、こういう動作って、不器用だから嫌いかも。
その証拠と言ってはなんだけど、彼女の口周りに匙がベチベチ当たる。溢れた分はちゃんとハンカチで拭うのだが、如何せん蜂蜜で、口周りがベタベタしてしまった。
だ、駄目だ、私こういう作業合わない...。
「...んっ...」
ぴゃぁぁぁぁぁ!?
お、起きた!?そ、それとも只の寝言!?!?
「...何処、ここ...あっ、パンテネーラ・レオは!?!?」
「パ、パンテネーラ?良く分かんないけど、ここはえっと...タルヤの家兼私の家的な...所です」
想像以上の可愛い声。
本当に、絵本の住人みたい。言葉遣いも、きっと綺麗なんだろうな...。
「はぁ?アンタ、パンテネーラも知らないの?知性の無さにも程があるわね。あと、私は村の名前を聞いているのよ、理解力が無いのかしら。ほら、さっさと教えなさいよ、この下賤の畜生が」
...前言撤回、この子、めちゃくちゃ口悪い子だ...!
というか、幼い子に言われて、傷ついている自分って一体...。
「え、えっと、お名前は?」
「アンタ、もしかしてこの私を知らないと言うの?無礼にも程があるわよ、頭が磨り減る程、土下座しなさい。下賤目にも分かるよう、しっかり名前を言ってあげるわ、頭に良く刻みなさいね」
...。
「私の名前は、モルダッダ・サロネよ。モルダッダ家3女の、高貴ある名前なの」
「よ、よろしく、えっと...サロネちゃん」
「名前で呼ばないで下さいまし、下賤の者に呼ばれるなど、限りない屈辱ですわ」
...ねぇ、何なのこの子!?!?
ちょっと...というか、とっても、大人のこと舐め過ぎじゃない!?
しかも、下賤、下賤って...何様なのよぉ!?
「何で、此処にいるの?理由があるのなら、教えて欲しいなぁ、なんて...」
「...何でもないわよ、気安く話しかけないで」
...おや?
何だか、雰囲気が...さっきの攻撃的なのとは打って変わって、ちょっとしおらしく...?
何か、理由があるのだろうか。
「サロネちゃ」
「おーいっ、サトミ、あの叫び声の原因分かったかー!?」
ナ、ナウット君にレーナちゃん!?キッシュ君も!?他の子供達も!?!?
「...っておい、その娘、誰だよ」
ナウット君がそう聞く。
あ、ああっ、待って、聞かないで...!
だって、その子、口がすっごく...!
「アンタ等下賤の者に、誰呼ばわりされる理由はないわ、去りなさい」
悪いんだからー!ど、どうしよう、子供達がショックでぽかんってなったらどうしよう。
「...ちょっと、その言い方は無いんじゃないかな」
そう言って、歩み出るルイス君。
ルイス君、なんか...どうしたの、かっこよく見えるね。私が言いたかったことを、そのまま代弁してくれたよ...何だか、自分が情けない。
「はぁ?下賤の者に言葉遣いを教えられる必要等ないわ。大体、アンタ等文字さえも知らないような馬鹿でしょう。これだから、『貧困層』は嫌なのよ。あら失礼、『貧困層』とか言う言葉も、きっと知らないわよね」
「『貧困層』と言っても、『低所得者』な訳ではなくて、元から『自給自足』だから良いんだけどね」
「そうだよねぇ、『自給自足』だとお金が要らないもんねぇ」
「じ、じきゅっ...?ていしょ...くしゃ?」
怯み始めるサロネちゃん。あれ、もしかして...。
「『自給自足』とか、『低所得者』とかの意味、知らない?」
「うっ、うるさいわ下賤の者!!退きなさいよ!!!」
どんっ、と聡美の躰を押すサロネ。
あれ。
思ったよりも、私の躰は軽かったのかも知れない。サロネに押された躰が、簡単に押されて床に叩きつけられる。机の角に打つかった頭からは、何か熱いものが出ている感覚があった。
「...あっ」
彼女が、青ざめた顔で呟く。カタカタと、手が震えていた。
「サ、サトミ!?」
「「「大丈夫!?」」」
「う、うん、大丈夫...」
頭を触ると、ぬるり、と何か赤いものが手につく。ち、ち、血?
「サトミ、消毒しなきゃ...」
「...何で、サトミに当たるんだよ、おかしいじゃないか」
「本当だよ...サトミはお前にも良くしてくれてるのに...」
キッシュ君、ナウット君、私は、大丈夫だから、責めないであげて。
そう言いたいのに、不思議と言葉が出てこなかった。
青ざめた顔で立ち竦む彼女は、此方を見て、一瞬何かを言いかけた。でも、その言葉を出さずに、口を開いた。
「わっ...私は、悪くないんだからッ!」
そう叫ぶと、彼女はドアを乱暴に開けて去っていった。
待って、まっ...。
「サトミ!!」
なんだか、目眩がする...。
「サトミ!!ね...い...」
ナウット君の声は、段々と聞こえなくなっていく。
そして、眼の前が暗くなった。
最近、またペースを戻そうと執筆に奮闘中の、作者です。
モルダッダ・サロネちゃんですが、モルダッダが名字でサロネが名前です。此処の世界でも、一応名字・名前の順番ではあります。(ただし、名前はカタカナ系)
ちなみに、パンテネーラ・レオはあのでっかいライオンのことを言います。命名の由来は秘密です(学名というシンプルかつ素敵な名前のお陰です)
そろそろ閑話を出します。レーナちゃんの告白を出したいです。




