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夢の話

作者: 椎名 めてお

この話は、友人と遊びで書いた話です。経験が少ないため、色々と至らぬところはあると思いますが、読んでいただけたら幸いです。

 まず先に言っておこう。

 この話はとある少年の思い描いた、泡沫の物語である。



――起きて! 起きてよ。

 薄れる意識の中、鈴の音のように甘美な声が響いた。

 いつまでも聞いていたくなるような、そんな音だった。


「――起きなさい!」

「アガッ!」

 俺が腹に痛みを感じ、目を開くと、そこには妹がいた。しびれを切らしたように顔をしかめ、俺を見ている。

「な、何するんだよ夢叶」

 俺は腹を押さえながら妹――夢叶に尋ねた。

「仕方ないじゃん! 幻夢にいが何度呼んでも目を覚まさないんだもん」

 夢叶はプクーっと顔を膨らませながら目で訴えかけてくる。かわいいけども……

 ――やめて! そんな目で見ないで!

 と、内心兄の威厳を意識しながらも眠いので、

「……俺は昨日夜中までゲームをやっていて眠いので二度寝します」

 と言ってみる。すると……

「もう一度殴られたいのかな?」

「すいませんでした――!」

 こうして『いつも通り』の日常が、今日も始まった。



「お、幻無、ようやく起きたか?」

 夢叶にせかされながらリビングにやってくると、まず出迎えてくれたのは俺達さん兄妹の長男、――夢須加こと夢っちゃんだった。

 夢っちゃんはへらへらと笑いながら、俺をリビングの真ん中に置かれたごく一般的なテーブルへと誘導した。

「……よっこらせ」

「お前親父臭いなぁ……てか親父そのもの? お前ほんとに俺の弟か?」

 俺がいつもの癖で嘆息を漏らしながら椅子に座ると、夢っちゃんは嘲ながら言ってきた。

「うるさいなぁ……。夢っちゃんだってそんなのでほんとに長男か?」

 試しに俺も皮肉を言ってみた。たぶん一〇割は仕返しで。

 しかし、

「俺はこういう性格なんだ」

 夢っちゃんはさらっとそれを受け流した。

「やっぱ無謀だったか……」

 俺は呟く。

「お前が俺に勝とうなんて一〇〇年はやいわ」

 それに対して夢っちゃんも対抗する様に言ってきた。

 そして数秒にらみ合うと、

 ――ぷっ

 と俺と夢っちゃん両方が噴き出した。

 これがいつも通り、俺たち夢見家の日常である。


「そういえば」

 俺はふと思い出したことことを呟こうとした。

「ん? どうかしたか?」

 俺が歯切れ悪く言ったので、気になったのか夢っちゃんが尋ねてきた。

「あ、いや。まあ一つ疑問に思ったんだけど……」

「なんだ? 行ってみろよ。答えれることなら答えるぞ」

 夢っちゃんは珍しく兄貴面をして聞いてくる。

 そして随分と溜めてしまったが、俺は疑念をおもむろに吐き出した。

「夢っちゃん、大学は?」

「――――」

 数秒、俺たちの間に静寂が漂っていた。

 そして、段々と夢っちゃんの顔が青黒く沈んでいき、

「わ、わ、わわわわわ」

 夢っちゃんは話しか言わなくなった。

「「わ?」」

 俺が尋ねるのと同時に、台所で朝食を作っていた夢叶もやってきて、声が重なった。

 目を見開き口をあんぐりと開けた、夢っちゃんと目が合う。そして――

「わ、忘れてたぁぁぁぁぁ―――‼」

 夢っちゃんはガタンと椅子をはねのけ立ち上がると、急ぎ足でリビングから消えていった。

それから数分後、ドタドタと足裏が床をたたく音と同時に、リビングの扉が開く。

そこには、乱雑にものが入れられたせいか、歪んだリュックを背負う、夢っちゃんがいた。

「い、行ってきます!」

 夢っちゃんはそれだけ言うと全力疾走で、玄関へと向かい出かけて行った。

 しかし玄関から出る時も、夢っちゃんは忘れず「いってきます」と言った。

 

「……言っちゃったね?」

 夢叶があっけにとられながら、隣に並んだ。

「ああ、ほんとせわしないな」

「うん……」

 ふと横を見ると、なぜだか夢叶の顔が、濁っている。

「どうしたんだ、夢叶?」

「いや……ねえ、幻夢にいは、今日が何の日か覚えてる?」

「え、今日? そういえば今日は起こしに来るのがやたら早いな。日曜なのに」

 俺が、ふと疑問に思って横を見やると、明らかに夢叶の顔が怒っている。

 そして、夢叶は、はあ……とため息を吐いたのち、その小さな唇から、言葉をだした。

「やっぱり覚えてなかったかあ……。あのね幻夢にい、今日は町に出かける約束をしてたんだよ」

 その瞬間、俺の全身を戦慄が走った。

「わ、わわわ……忘れてた――――!」

 俺がそのことに気付いたのは、ちょうど九時を回ったところだった。



「幻夢にいこっちこっちーー!」

 数メートル先を警戒に進む夢叶が、俺を呼んでいた。

 しかし俺は、

「無茶言うなよ、お前この荷物の量なんだ⁉」

 前方すら見えない荷物の量に右往左往していた。

「えーーだって幻夢にいがぁ……」

 夢叶が身をひるがえし俺の横に立って言った。

 続けて、

「『ほんとに悪かった! 今日はなんでも言うこと聞くから!』てお願いしてきたんじゃん」

 夢叶はかわいらしくきっと俺の声真似をしながら言った。

「う……」

 俺はぐうの音も出なかった。

「ところで幻無にい、次はどこ行きたい?」

 夢叶は、手の指を後ろで絡めながら俺に尋ねた。

「帰りたい」

 俺はただただ切実に本心を呟く。

「そんなぁ――」

 夢叶は、身をひるがえし、不満そうに言った。

 そんな時だった、夢叶の背後に金属の艶めかしい光が見えた。

「危ない!」

 俺は咄嗟に、手に持った荷物を放り、夢叶を助けようと、突き飛ばした。夢叶が「いたた」と言いながら尻餅をついているのを見て、一瞬、助けられたという感傷に浸る。

 刹那、俺の腹をナイフが貫いたのは言うまでもないだろう。


 ――痛い。いや痛くない。

 ――熱い。いや熱くもない。

 けれど、ただただ俺の前身は石で固められた人形のように、はたまた手足をもがれた虫のように動かなかった。

 ――なんで……?

 俺は口から出ない言葉をただただ心中で思った。

「幻夢にい? ……幻夢にい⁉」

 血を流した、俺のもとに、泣きながら夢叶が近づいてくるのだけが分かった。

「死なないで! お願い幻夢にい‼」

 夢叶はただただ懇願する様に俺に名を叫んだ。

 俺はそれが嬉しいけど悲しくて、ただ、助けられたというよろこびを感じながら、目を閉じて行った。

 俺の意識は暗闇に飲まれ、やがては存在しない影となった。



 電気の消えた一つの個室。そこには、カチカチと機械的に動く時計の秒針の音だけが響いている。

 この部屋に人はいない。

 まあ、ここに置いての人とは、『ちゃんと喋り、動くことができる者』のみだが。

 薄暗い部屋に、あるのは、一つの純白のシーツで覆われたベッドが一つ。

 その中に少年が一人。

 彼は動くこともなければ、もう目を覚ますこともない。

 彼は永遠に夢の中、救われることのない少年は、ただただ、医学が進歩するその時を、待つのみである。


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