表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/76

第5話(7)

(どういうことだ? 鳳佳は例外なく、男にビビっちまうはずだろ……)

突然訪れた衝撃と疑問に、自分に注目していた周りの目など気にする余裕もなく、純は無意識に歩き始めた。

(千歩譲って、『男性恐怖症』を抜きにしたとしても、あんなバカ男を鳳佳が相手にするとは思えん……)

到底納得できない事態に、待っていなければならない琴乃のことを、彼はすっかり忘れてしまった。

物思いに耽りながら、美味しそうなデザートの並んだのテーブルを横切ろうとした時──


ドンッ!!


「あっ!!」

通りかかった人と、ぶつかってしまった。

(あ〜、くそッ、何やってんだオレ!)

注意力散漫になっている神経を奮い立たせ、すぐにぶつかった相手の方を見る。

「……」

それは、純よりも小柄な子供だった。

ぶつかった衝撃で、抱えていた何かの紙をバラバラと床に落としてしまっている。

「……」

無言で散乱した紙を拾う少女。

ふわふわとした長い巻き髪に、フリルのついた薄ピンクの可愛らしいドレス。

屈んでいるので、顔は見えない。

「ゴ、ゴメンね──」

純は咄嗟に謝った。

その時、ふと足元を見ると──

「あ……」

一枚、こちらまで紙が飛んできていた。

親切心で、彼はそれを拾おうと手を伸ばす──……

「──! だめっ!!」

突如、少女がそう叫んだ。

しかし、一歩遅かった──純は紙を拾って、その表面を見た。

「──……え?」

紙には、何かが書かれていた──と言うより、()()()()()()

『人物画』だ。

しかも、かなり上手い。

鉛筆を使って描かれた濃淡は、まるで白黒写真と見間違うような精巧さだった。

何より、純の意表を突いたのは──

「これって……」

紙の中に描かれていたのは、紛れもなく、()()()()()()()の姿だった。

呆気にとられて、茫然としている彼の前で、サッと少女が踵を返す。

「あっ!」

純が我に返ったときには、彼女はその場を走り去っていた。

「ちょっと待って──」

遠ざかっていく女の子を追いかける。

幸い彼女の足が遅いので、純の早足でも、十分見失わない。

(刑事のおっさんに、サラ髪カン違い男……、お次は一体なんなんだよ?)

立て続けに訪れる出会いに溜息をついて、純はホールを横切った。









「はぁ、はぁ、はぁっ……」

少女は会場の隅まで走り、防音仕様の壁に手を突くと、荒れた息を整えた。

「──なんでアタシを描いてるの?」

不意に、背後から声がする。

振り返ると、そこには、腰に手を当てて、片手に持った少女の絵をペラペラと揺らしながら、純が仁王立ちしていた。

「……」

何も答えず、彼の方に向き直る少女。

純は、初めて彼女の顔を正面から見た。

きゅっと一文字に結んだ唇、柔らかそうな頬、上目遣いでこちらを見る大きな目、無表情を作る眉──……

「……あれ?」

小首を傾げる純。

その顔に、彼は見覚えがあった。

と、言っても、先程の昭夫や完斗のように、この会場に来る以前の記憶ではない。

そして、すぐにその答えは見つかった。

琴乃と別れた直後、テーブル越しに一瞬だけ目が合った──あの女の子だ。

「あの時の……」

純はポツリと、そう呟いた。

少女は未だに目線を逸らさず、じっとこちらを見つめている。

「……」

あまりにも見つめ続けるので、逆に純の方が申し訳ない気持ちになってきた。

「……えっーと…」

しかも、よく考えれば今のこの状況を他の誰かが見た時、一見すると純が幼い女の子を追い詰めて、威圧しているようにも取られかねない。

純は、急いで笑顔を取り繕った。

「その──絵が上手なのね。 よかったら、もっとオネエサンに見せてくれる?」

彼がそう言うと、少し心を許したのか、女の子がこちらに近づいてくる。

そして、口を開いてこう言った。

「じゃあ、黙ってコソコソあなたを描いていた事、許してくれる? わたしも、あなたの『秘密』をみんなに黙っておくから」

女の子が懇願する。

純はすぐに答えた。

「まぁ、別にいいけど……──ん?」

しかし、彼女の言った言葉を反芻し、怪訝な顔をする。

「『秘密』……?」

純が聞き返すと、突如、少女の表情が満面の笑みに変わった。

「あなた、『男』でしょ?」












「……一体、何の話?」

表情を変えず、あくまで笑顔のままで、純は聞き返す。

「隠しても無駄よ」

少女が笑顔から、真顔に戻った。

「さっき、向こうで完斗と話してたよね」

「……」

「彼に身分を追及されて、ちょっと焦ったんでしょ」

ジワジワと純を追い詰めていく少女。

数秒、純は何も言わず黙っていたが、しばらくすると、瞼を伏せて、ふぅっと息を吐き、眉間にシワを寄せて口を開いた。

「……──あのキザ男のこと、知ってんのか?」

少女の口調と眼光から、彼は隠し通すのは無理だと悟った。

幸い、今いるのは薄暗いホールの片隅で、客達は演台で挨拶する人物に注目を集めている。

ここでなら、多少『演技』を解いていても、誰の目にも着かない。

純に尋ねられた少女は、肩の高さで両手を広げてみせた。

「あいつのことは、別にあんただってどうでもいいんでしょ? それよりも、わたしが気になってるのは、あいつとの会話に出てきた人の方」

そのセリフに、純がさらに眉間にシワを寄せる。

「鳳佳か?」

その名を告げると、少女は頷いた。

「どうして、あんた、鳳佳の事を知っているの?」

こんな小さな子供が、自分を含め、鳳佳まで呼び捨てにすることに、純は心底ムッとした。

「年上には敬語を使うもんだぞ、コラ?」

純が腕組みしてそう言うと、言われた彼女も、ムッとした表情を見せる。

「あーら、あなたってば、ものすっごい勘違いをしているようだけど──」

純に対抗するように、腕を組んで、胸を張る少女。

「──わたしも、鳳佳も、それに完斗も、()()()()()()よ」


──……。


二人の間を、静寂が満たした。


「……はぁ?!」


純が思わず声を上げ、その反応に、少女は冷ややかな視線を送る。

それでも、純は狼狽(うろた)えたまま続けた。

「お前……だって……──その()り《・》で?」

「あんただけには言われたくないんですけど?!」

ぷくっと頬を膨らませて、少女は純に食ってかかる。

「わたしの名前は大和屋 瑠璃子(やまとや るりこ)。 正真正銘、虎賀美高校の一年生です!!」

腰に手を当て、胸を張って自己紹介する。

純は表情を引きつらせて、呟いた。

「全ッ然、そんな風には見えねぇ……『中学生』どころか、てっきり、『小学──」

「とにかく!!」

強い口調で、純を黙らせる瑠璃子。

よっぽど幼く見られるのが嫌いらしい。

「もう一回聞くけど、あんた、鳳佳とはどうゆう関係?」

再び、会話を元に戻す。

「お前こそ、あのサラサラヘアー含め、鳳佳とどういう間柄だ?」

純も素直に答えようとはしない。

「……」

「……」

しばらく、無言で睨み合いになる二人。

「……──わかったよ」

先に瞼を伏せたのは、純の方だった。

「この状況じゃ、どう足掻いたってオレのが不利だしな」

軽く両手を挙げて、降参の意思を表明する。

「さて、どこから話すべきかな」

腕を組んで、自らの唇に触れると、純は頭の中で話を整理し始めた。


ここ数ヶ月の間、自身に起きた物語を──





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ