昼・女の子らしさ
文章、ちょっとかっこつけました。すみません(汗)
日常生活の中でたまに聞く台詞である。主に、母親が子供に言っているのをよく見かける。
「ハンカチぐらいちゃんと持ち歩きなさい、女の子でしょ!」
「男がそのぐらいで泣いてちゃいかん!」
そんな瞬間は見ているだけでげんなりする。
男に生まれてきたらズボンで拭いていいのか。また、女の子に生まれてきていたならベソをかいても許してもらえていたのか。意味が分からない。
どちらの性別で生まれてくるのかなんて、子供が選んでいるわけでは決してないのだから、女子だからそれじゃ駄目、男子だからこう在れという理不尽な理由を用いて叱りつけるのは、いわゆるお門違いというやつではないだろうか。
私も祖母によく言われる。
「深ちゃん、女の子でしょ? お婆ちゃん家に来るときぐらいスカートを穿きなさい」
「口笛を吹くなんて、女の子がはしたないわよ」
本気で勘弁してほしい。男か女かなんて所詮確かなのはフォルムの違いぐらいではないか。私は「女」という記号ではない。「獅子山 深紅」という、ちょっぴりボーイッシュな女子中学生だ。何も他人に決められる権利があってたまるものか。
そういう風に区切られるのは大嫌いなので、私は普段から出来るだけ中性的な見た目になるように気をつけている。
秋~春の外出の基本スタイルは、白シャツに紺色のダッフルコート、それに七分丈のチノパンと白い靴下、ローファー。冬季は赤いマフラーを適当極まりない巻き方で身に着ける。
「あのお兄ちゃん、カチッとした格好してるね」と通りすがりの小学生が話していた。残念、一応お姉ちゃんだ。
ドッジボールも大好きだ。身体能力は極めて低いため活躍はできないが、一人スリルを楽しんで過ごす程度のフットワークは、学童保育所で鍛えた六年間で身に付いている。
女子が団子になって悲鳴を上げ、その反対らへんに男子がぱらつく。その中間に、私は友人をまいてぽつんと立ってみる。ゴンゴン飛んでくる球を、ちょっとニヤリとしつつよけ続けるというしょうもない遊びだが、いかにも女子らしく固まっているとか、体育会系の男子みたいに豪速球を投げまくるよりは大分楽しい。
いつだったか、公共施設の屋上に寝そべって夜景を撮っていたとき、一人のお爺さんが話しかけてきた。
「坊っちゃん、いい写真が撮れたかね?」
「はい。あ、一応女です」
どうでも良かったが、一応訂正する。お爺さんは悪びれることなく笑って言った。
「まあまあ。君がお坊っちゃんだろうがお嬢ちゃんだろうが、ここの夜景が綺麗なことに何か変わりがあるかい?」
それは、何度も初対面の人に性別を間違えられたときの相手のリアクションとして、私がもっとも待ち望んだ返答だったと思う。
思わず笑顔が浮かんだ。それから一回シャッターを押し、ちょっと気取って返す。
「いいえ。きっと男に生まれてきても、私はこの夜景に心を奪われたことでしょうから」
けれど、こんなキザな台詞は、もしも男だったら冗談混じりに言うことはできないのかもしれないな。
そう考えた自分に苦笑して、私はもう一度カメラを覗き込んだのだった。