夜・ダッフルコート
寒い季節だ。
暖冬とはいえ、さすがにパーカ一枚で出かけられる気温とまではいかない。周りはどんな形のコートが可愛いの可愛くないのと話しているが、あまり着飾ることのない私は、冬でも白いYシャツと適当な上着、ズボンがあれば生きていける主義だった。
そんな私が、唯一異常な執着を見せる冬服がダッフルコートである。
なぜだろう。あのフォルムというか、ボタンの形が妙に好きなのだ。通学用のコートももちろんそれだし、現実に飽き足らずど○ぶつの森やト○コレなどのゲーム内でも、とりあえずまず自分のMiiにはダッフルコートを与える。横からゲームプレイをのぞき込む妹が、「お姉ちゃん、またそれ?」と呆れ顔で呟いていた。
色にもこだわりがある。紺色でないと嫌だ。私は紺色が好きなのだった。
実はここでのペンネームも、最初は「獅子山 紺」だった。どうしてそれが「深紅」になったのか、今でも不思議である。多分、「獅子」と「紺」が合わないと思ったのと、某ゲームの主人公が関係しているのだと思う。まあこのペンネームも気に入っているので、結果オーライとしよう。
しかし、なぜそこまでこだわるかと不思議に思う方もいるかもしれない。紺色のダッフルコートじゃないと嫌だなんておかしい、と。
理由はもう一つある。これまた夜景のためだ。
考えてみてほしい。真冬に、祖父母宅の屋上で夜景を見ようと思う。冬の夜景は空気が澄み渡っていて綺麗だが、同時に高いところから見れば見るほど寒い。
そんなわけで、コートを着て屋上に上がる。その時仮にだ、赤いコートだったらどうだろう。
一面暗闇を下地に、キラキラと光がともる街。それをぐるりと眺めたとき、赤いコートはちょっと浮いてしまう気がしてならない。
なんと言えばいいのか分からないが、紺のコートは闇に溶け込んで、自分の大好きな夜景の中に溶けてしまったような気分にならないだろうか。私はその感覚が好きなのだ。
数日前、祖父母宅の屋上で夜景を見た。その時も私はダッフルコートを着込んで、イヤホンをはめつつ光を見ていた。
やっぱり鉄板だな、と思う。ご飯のおかずは納豆だと言い張る人がいるように、目玉焼きには醤油だと言い張る人がいるように、私は夜景には紺色のダッフルコートなのだ。
寒い季節の夜景は、ダッフルコートのおかげでいつも暖かい。