第4.5話 行き倒れ
これはまだギルが村長になる前、ある青年と出会うお話。
雲が少なく、風も強くない絶好の釣り日和。
籠いっぱいに入った魚を見てこの位でいいだろうと帰り支度を始めた。
気分良く鼻歌なんて歌って歩いていると、道の真ん中に何かが見えた。
薄汚れた外見から魔物かと腰に挿していた剣に手を掛ける。
いつ飛び掛ってきても対処できるよう慎重に歩を進めるがそいつは動かない。
死んでいるのかとひっくり返してみると魔物ではなく人間だった。
息はしているので死んではいないようだが何度呼びかけても目を覚まさない。
どうしようかと考えたが放っておいて次に来たとき死んでいたら寝覚めが悪いなと考える。
怒られるだろうなと思いながらも村に連れて帰ることにした。
村に帰ると村長(ギルの父親)のところに、行き倒れを拾った事を告げた。
案の定ギルは怒られた。
「行き倒れだとしても素性のしれない者を村に連れてくるなど、それでも次期村長か!」と。
そんな事は分かっていたが人を助けることが悪いこととは思わない。
村長に責任は自分で取ると言い、男を担いで出ていこうとすると、男の腰に付けてある護身用の剣が見え、鞘に施された紋章に「はっ!」と何か気付いた村長に止められた。
ギルはその紋章の持つ意味は分からないようだが、また気が変わる前にと自分の家に帰った。
ベッドに寝かせると一応手を縄で縛って繋いでおく。
唇の渇き具合から水を飲ませると男は安心したような表情になった。
その後は村の年寄りが様態を見に来て、ヤスナ草を煎じた薬を飲ませると、明日には起きるだろうと言い帰ったので寝ることにした。
翌朝、朝食の準備をしていると肉の焼ける匂いに意識を取り戻した男は「ぐごごぉぉおおお」と
腹の中に魔物でも飼ってるのかと思うような音を響かせ目を覚ました。
男はいつもと違う天井と硬いベッドに違和感を覚えたが、それよりも腹が減ったと香ばしい匂いのする方に手を伸ばす。
しかし手は縄で縛られベッドに括りつけられている。
歯痒い気持ちに残り少ない水分を涙に変えて流した。
その光景を呆れた表情で見ていたギルにやっと気が付くと口を動かした。
「……ぁ……ぅ……!?」
動かしたが声は出ず、乾いた口からは掠れた音しか出なかった。
ギルは壺から水を注いできてゆっくり飲ませる。
咳き込みながらも一気に飲み干すと、喉の調子を確かめて話した。
「すみません、助かりました。何日も飲まず食わずだったとはいえお見苦しい所を見せてしまいました。」
「いや、気にしないでくれ。それよりも腹が減っているんだろ? 丁度出来たからお前も食え」
「そうでした!先程から美味そうな良い匂いがしているものの思うように動けずにいたところ。もう我慢の限界だったのです」
「良い匂いか、まぁ味の保証はしてやるよ」
「それは楽しみですね。……あの、手が縛られていては食べられないので外して欲しいのですが」
「おお、そいつはすまなかった。すっかり忘れていた」
はっはっはと豪快に笑いながら縄を解いてくれた。
縛っていた割にあっさり外すのですねと言われ、忘れていたとまた笑う。
そんなギルに男は緊張を緩め再度礼を言った後、数日ぶりの食事に旨い旨いと貪り付いた。
「そういえば何故あんな所で行き倒れていたんだ? ソレイユの町から離れているとはいっても半日もあれば辿り着くだろう。駆け出しの冒険者だとしても間抜けすぎるぞ」
「お恥ずかしい話、一人で町の外に出たことが無かったもので、着の身着のまま護身用の剣だけ持って出てきてしまったのです。そしてあまりの空腹に耐え切れず、休憩した場所の側に生えていた茸を食べたんです。最初は何とも無かったのですが徐々に気分が悪くなって――」
「道の真ん中で倒れたと、なるほどな。ま、そういう事なら運が良かったな。この辺の魔物は弱いと言っても動けないやつが助かることはないからよ」
「……ですね」
本当に運が良かったと噛みしめるように呟き、何かを考えだしたのか食事の手を止めた。
倒れた経緯は聞いたけどこんな所に来た理由はまだ聞いていない。
何日も飲まず食わずというのも気になったが話してくれるまでは待つつもりだった。
暫くしてまた飯を食べ始め満腹になった男はご馳走様をした。
食器を片付けてからお茶を淹れ飲みながら休憩した。
「ぶふぅぅぅぅっ!!」
一気に飲み干そうとした男はお茶を吹き出す。
どうした?と目を向けると苦虫を噛み潰したような顔をしてぺっぺっと吐きだしていた。
汚ねぇなと思っていると男はコップを指さし聞いてきた。
「なんですかこのお茶は」
「何ってヤスナ茶だよ。知らないのか?」
「聞いたことも飲んだこともありません。苦すぎです。よく平気で飲めますね」
「ガキの頃から飲んでるからな。村じゃ当たり前のように皆飲むぞ」
「この村に生まれなくて良かった」とか失礼なことを呟いていたので滞在中は毎朝飲ませてやろうと悪魔のような笑みを浮かべた。
朝食を終えるとギルが剣を腰の鞘に挿し、奥の部屋から弓と矢筒を持って来た。
これから狩りに行くのである。
男にまだ休んでおけと言ったが自分も行くと護身用の剣を持って付いて来た。
今日の狙いは猪。
いつもの狩場に行くと獣道を見付けた。
残された足跡を見てここを通ったやつが大物だと分かる。
さっそく罠を仕掛けると興味深そうに男が見ていた。
「手慣れてますね」
獣道に仕掛ける罠はたった数分で完成した。
仕上げも自然で何処に罠があるのかすら分からない。
如何に敏感な野生の動物とは言え呆気無く捕まってしまうだろう。
完成度の高さと早さに感心しているとバシンと背中を叩かれた。
危なく罠に突っ込んで今晩のおかずにされそうになりギルを睨むと、嬉しさと照れが混じった顔を指で掻いていた。
村の大人達からはまだまだだと認めて貰えないのでどう反応していいか分からなかったのだ。
そうとは知らない男は「酷いじゃないか!」と詰め寄るも笑って誤魔化されるだけだった。
それから幾つも罠を仕掛けて回って作業は終了。
昼食にしようと山を降りて家に帰ってきた。
料理をしているギルがふと思い出したように尋ねた。
「そういえばお前、名前はなんて言うんだ?」
今頃何を言うんだと訝しそうにしたがお互い自己紹介を済ませていなかったことを思い出した。
あのときは食事に夢中だったのと普通に話していたのでもう済ませたものとばかり思っていた。
「失礼しました。私の名前はジーニアス・ダイン・パーストリット。コルジアット領が領主、パーストリット家の長男です。気軽にジニーとお呼びください」
立ち上がり姿勢を正した男はきっちり30度に腰を曲げると、礼をして自己紹介をした。
「おう、俺はギル・クレヴュート。ギルでいい。よろしくなジニー」
ギルはというと包丁片手に魚を捌きながら簡潔に自己紹介した。
「はい、こちらこそよろしくお願いします、ギル」
「それはそうとお前、領主家の長男だったんだな。どうりで世間知らずな訳だ。そりゃ行き倒れもするだろうさ」
「あのことはもう忘れてくださいよ、ギル。自分でも浅はかだったと反省してるんですから」
自分の生涯の汚点を蒸し返され一生の不覚と手で顔を覆った。
「悪いって、冗談だよ。そっか、急に親父が村に置いても良いって言ったのはパーストリット家の人間だって気が付いていたからか」
「恐らく私の持っている剣の鞘に刻まれた家紋でも見たのでしょう」
「あーそう言えば見てたな。俺は何なのか分からなかったが……今じゃ納得だ。村長ってのは外のことまで知ってなきゃいけねぇんだな」
村長なんて大した事してないんだろと昔から思っていたが、村長ってものを理解していなかった自分は存外まだまだ未熟だったのだなと痛感させられた。
そしてジニーに会えたことは自分を見直す良い切っ掛けになったと、運が良かったのは自分かもしれないと、そう言い聞かせた。
「その気持ち分かる気がします。私も領主に成るため日々この世界を学んではいますが、知らないことばかりで不安が尽きません」
「もしかして家を飛び出したのは勉強が嫌になったからか?」
「無いとは言い切れませんね。一割位でしょうか」
「じゃあどうして。……あ、いや、答えたくないなら答えなくていいからな」
「大丈夫ですよ。飛び出した理由というのは国の経営や政治関連の勉強をしたからです」
今まで話すまで待とうと決めていたのについ流れで聞いてしまったことに急いで訂正する。
しかし問題はないと理由を話してくれた。
「政治か、俺には良く分からんな。で?」
「それらの知識を得るにしたがって、領内で蔓延っている表には出せないようなことが分かるようになったのです」
「表に出せないってのは貴族連中がやってる賄賂とかいうやつか?」
「ええ、賄賂も一つですね。領民から集めた税で媚びを売るなどあってはならないんです。領民の為に使うのが領主の勤めです。そして最終的に嫌悪感に耐えられなくなって家を飛び出したんです」
自分の住んでいる町で悪いことが蔓延していた事実と、父親がそれを容認していた事実を知り、嫌気が差して無謀なことをしたと。
ギルも親父が私利私欲の為にそんな事をしていると知ったら、きっと嫌悪感に襲われるだろう。
だが家を飛び出すのはどうだろうか?
やりたくないからと言って逃げ出すのは良いことだろうか。
無い頭を振り絞って考えた。
「なぁ、ジニーは悪事を知ったなら無くそうとは思わないのか?」
「私がですか? 嫌気が差して逃げ出すような男に出来るとお思いですか?」
質問に質問で返すジニー。
そんな事はどうでもいいと話を続ける。
「無謀にも家を飛び出すようなやつだからこそ出来ると思うんだが」
「……と言うと」
「お前は世間知らずだ」
「うっ」
「家出するにも準備をせず行き先すら決めない。最初は一人でも何とかなると思ってたんだろ」
「言い返す言葉もない」
図星を突かれ項垂れるジニーを見て単純だなと嘲笑う。
「でもな、結果はどうであれ家出をしなければ無謀だってことすら分からなかった筈だ」
「はい。」
「逃げ出したから出来ないなんて誰が決めた。結果はやってみて初めて分かることだ」
「…………」
「朝山に行って俺達は何をした。獲物がまた通るとも分からない場所に罠を仕掛けたろ」
「…………」
「まぁ勝算無く仕掛けた訳じゃなく知識と経験あってこそだが、とりあえず後で結果が出る」
「……結果はまだ分からない」
途中から黙って聞いていたが、そう呟いて顔を上げると、胸に刻むように更に言葉を紡いだ。
「今不可能なら可能になるよう万全の準備をすれば良い。もし駄目ならその時また考える。そうだ、そうだよ!」
グダグダ言う前に一度やってみろと言いたかっただけなのに、ジーニアスは自分で答えに辿り着いてしまったようだ。
「ありがとう、ギル! 君には助けられただけじゃなく私に足りなかった物まで与えてくれた! 本当に感謝するよ!」
「お、おう。どういたしまして?」
自己解決してしまった彼に置き去りにされ、「どうしてこうなった?」と考えた。
でも自分の手を握り嬉しそうに振り回すジニーを見ているとまあ良いかという気持ちになった。
いつまで経っても手を握り振り回し続ける彼にムカついたので「そろそろ離せ」と振り解いた。
浮かれきっていた自分が恥ずかしくなったのか、耳を掻いて誤魔化すと、ジニーは「では、猪が捕まったか結果を見に行こう!」と準備を始めた。
山に戻ってからは茸や山菜などを取りつつ罠を見て回った。
四つ目の罠に近付くと鳴き声が聞こえてきた。
どうやら獲物が掛かっているようだ。
前三つの時はジニーが毎回「……いないか。いや次こそ! でも。いやいや!」と面白いことになっていたが、猪がいることを知ってやっぱりギルの言う通りだったと喜んでいた。
どうやら獣道を作ったのはこいつだったようで残り二つは何もいなかった。
罠を全て回収し終え、今日の晩飯は豪勢にいくかと山を降りた。
それから四日が経った頃、丁度猪の肉も尽きたのでまた狩りに行くことにした。
今日は村の横を流れる小川沿いに入った森に行くかと準備をすると当然の様にギルも準備した。
森に入り小川沿いに歩くこと数分の場所にはヤスナ草が群生している。
この村を作ったご先祖様が見つけたヤスナ草はとても役に立つ薬だ。
狩りに行けない女子供は洗濯ついでにヤスナ草を摘みに来たりする。
今日も何人か摘みに来ているようでジニーが何をしているのかと訪ねてきた。
「あれはヤスナ草っていう薬草の一種だ。ジニーも朝飲んでるヤスナ茶の素があれだ」
「名前を聞いてまさかと思いましたがあれは薬茶だったのですか。ただ苦いだけのお茶かと思っていました」
「当たり前だろう。俺だってただの苦い茶なら毎日飲みはしないさ。まあそのお陰で村人は病気で医者に厄介になったことは一度もない」
「一度も!? 凄いじゃないですかヤスナ草!でも薬学の本を読んだことが有りますがヤスナ草なんて言葉見たことがありませんよ? もしかして本に載らないくらい希少な薬草なのでしょうか」
「さあな、ヤスナ村が出来たのは350年位前らしいけどその時からこの小川周辺に群生してるって親父は言ってたぞ。希少ならもっと昔に国が見つけて違う村でも作って管理させてるはずじゃないか? 一応ここもコルジアット領な訳だし」
「それもそうですね。歴史書でもヤスナ村以前に村や集落が在ったというのは知りませんし」
「あれじゃないか。名前が違うだけで別の薬草とか。ご先祖様がただ知らなかっただけってことも考えられるぞ」
「ちなみに効能とか――」
「あのさ、そういうのは親父か村の老人に聞いたほうが早いぞ」
「分かりました。帰ったらさっそく聞いてみることにします」
「よし! 気を取り直して狩りに行くぞ。今日は兎だ」
あの日からジニーはかなり前向きになったようで、今までした事がなかった料理をしたり、洗濯をしたりした。
殆ど失敗するのだが「次こそは!」と諦めず、充実した日々を過ごしていた。
行き倒れていた頃の彼が見たらきっと驚いたことだろう。
そしてジニーが村に来てから一ヶ月が経った。
料理の腕も上がって最近は朝昼晩と任せている。
飯が出来るまでのんびり武器の手入れをして待っていると彼がぽつりと呟いた。
「ギル」
「どうした? 失敗しでもしたか?」
「いや、料理は問題ない。問題なのは私だ。助けてもらってばかりで何一つ恩を返せていない」
「恩って、今俺の代わりに料理してくれてるじゃないか」
「これは自分のためになると思ってしているだけ。恩返しなんかじゃない」
「と言われてもなぁ。別に恩を売りたくて助けた訳じゃないし友達が出来ただけで十分だ」
「友達か――」
「あ、もしかして嫌だったか? それとも友達と思っていたのは俺だけ?」
友達と言ってくれた事に喜びを噛み締めていると、その間が否定のものであると間違われた。
突然、見当違いな事を言い出し狼狽え出したギルに慌てて否定する。
「え!? ち、違う! 嬉しくて浸ってたんだ。私達は友達、いや親友だよ!」
「親友は言いすぎだろ」
「う、あ、いや、その」
「嘘だ嘘、冗談だよ。ちょっとからかっただけ。俺達は親友だ」
「はぁ、脅かさないでくれよ。寿命が縮んだじゃないか」
「悪かったな。さて、親友」
「何かな、親友」
親友という言葉が意外と気持ちの良いものだったのか確かめるように口にする。
ジニーも同じように返した。
「親友ってことは俺達は平等だ。つまり恩を返すことは当然、感じることもしなくていい」
「それとこれとは話が別だと思うんだけど」
「だったら親友は取り消しだ。今すぐここから出て行け」
「卑怯だぞ、ギル」
「何とでも言え。お前が恩という言葉を口にだすたびに同じことを言ってやる」
「う、分かった。もう言わないから許してくれ」
「分かれば良い。それより鍋は大丈夫か? 煙が出てるぞ」
「……は!? うわわ、早く火からどけないと!? あっつ」
油断大敵。
最近失敗が無かったので「やっぱりジニーはこうでないとな」と首をうんうんと振っていた。
実に満足そうだ。
その後ギルがちゃちゃっと料理を済ませて食卓に並べた。
左手を火傷したジニーにヤスナ草を磨り潰した薬を塗って包帯を巻くと食事を始めた。
火傷をしたのが利き手じゃなかったのも幸いして、男同士が「あーん」する光景は避けられた。
食器を片付けゆっくりしていると、ジニーが包帯の巻かれた掌を見ながら何かを考えていた。
痛むのだろうかと聞くも、「大丈夫」と答えるだけで目は離れなかった。
また失敗したことを反省しつつ次に活かそうと考えているのだろうと結論付け寝る準備をした。
布団を敷いてもまだ考え中で、呆れたギルは「程々にしとけよ」と言って先に寝るのだった。
次の日の朝、朝食を食べ終え今日の予定を考えていたら、大事な話があるとジニーが言う。
まさか性懲りもなく恩が何て言うんじゃと、こいつなら有り得ると思っていたが、どうやら思い違いだったようだ。
「私は今日、ソレイユの町に、家に帰ろうと思います。村長さんには既に言ってあります」
「そうか、帰るのか。次期領主だもんな。いつまでも油を売っているわけにもいかないか」
「ええ、私はこれから領主になるためもっと知識を身につけようと思います。そして今度は逃げ出さず、町民のために立派な領主になってみせます。親友に誇れるような、ね」
「行き倒れのジーニアスが言うようになったもんだな。まあ、精々立派になって俺に誇らせてくれ。俺の親友は悪に手を染めず、町民に愛される最高の領主だって」
「うん、今までありがとう」
「いいって、俺の方こそありがとうだ。楽しかった。それで、もう発つのか?」
「半日掛かるからね。あと早い方が良いと思ってる。流石に行方不明で死人扱いされたら戻っても意味が無いからさ」
「もしそうなったら戻ってこいよ。歓迎してやるぞ」
「そうならないように願ってて欲しいんだけどね。ギルこそ家出したくなったら家に来るといい。歓迎するよ。あ、途中で行き倒れても見つけてあげられないから気を付けてね」
「お前じゃないんだからたった半日で倒れねぇよ。ま、ジニーらしく頑張れ。またな、親友」
「ギルも立派な村長になってね。またね、親友」
固く握手を交わして、そう遠くない未来に再会を約束する二人だった。
こうしてソレイユに帰ったジーニアスは、門番に発見され「領主様のご子息がお戻りになられた! 急いで報告するんだ!」と大騒ぎになった。
不良息子の帰還を聞いたジーニアスの両親は心配そうに駆けて来たが、無事そうな彼を見ると怒りを露わにして叱りつけた。
いつもなら怒られすぐに泣いていた息子は、少し大人びて決意を持った男の顔になっていた。
お叱りが止まり深々と謝るその姿にこの一ヶ月の間、いったい何が彼をここまで成長させたのだろうかと嬉しさ半分、困惑半分でまた頭を悩まさせられる父と母であった。
その後は私欲を肥やす役人貴族たちを徹底的に裁き、ギルとの約束通り町民に愛される立派な領主となるのだが、それはまた別の機会に。
【補足】
ヤスナ茶は滋養強壮に良く、酒を飲んだ後に飲めば二日酔いも一発で治る。ルーシーの大嫌いな飲み物。普段は甘やかされ飲むことはないが、風を引いた時にだけは飲まされる。その後一週間は口を利いてくれなくなる。飲ませるのは毎回ジルなので好感度はけっこう低い。