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第0話 プロローグ


 カチッ!

 ピピピピピピピピピピピピピピピピ

 ピピピピピ、ピッ……


 毎日の日課、いや仕事を始めた彼は俺を夢の世界から帰還させるため今日も元気に声を出す。

 だが、寝起きの良い俺によって5秒と経たずにお努め終了である。

 何とも簡単な仕事だ。


 カーテンの隙間から差し込む光に目を細めつつ、新鮮な空気を取り入れるため窓を開けた。


「くぅ~~~っ」


 4月とはいえ朝はまだ肌寒く肺に入れた空気に身震いする。


 しかし、何処までも続く群青色の世界を見れば寒さなんて一発で忘れるというものだ。


「うん、雲ひとつ無い実に良い天気だ!」


 蹴伸びをし、登校中の女子高生を見ながら今日は何処へ行こうかと考える。

 公園がいいか、河川がいいか。


 すると下の方から可愛いく俺を呼ぶ声が聴こえる。


「くきゅるるるぅ~」


 そう、俺の腹だ。


 朝食の準備を終え俺を呼ぶ可愛い妹だったり美人の幼馴染では無い。

 そもそも妹なんていないけどな!


 お腹が空いたと急かされながら、着替えを済ませて顔を洗い、朝食の準備を始めた。


 今日は気分が良いのでちょっと奮発して卵2個――割ると片方が双子だったから正確には卵3個分――を使った半熟オムレツ。

 トースターでこんがりキツネ色に焼いた食パンにはジャムをたっぷり。

 最後にコーヒーを用意すれば完成だ。


「我ながら上出来、上出来」


 綺麗な形のオムレツを見て満足そうに頷いた。


 そしてウェイターの如く片手で皿を二枚持ち、コーヒーを飲みながらリビングへ向う。


「いただきます!」


 席についた俺は早速スプーンで一口すくい、とろりと溢れる黄身に喉を鳴らすと一気にオムレツを頬張った。


「かぁー、うまい!」


 最近はトーストのみという状況が続いていたので、久しぶりのご馳走に胃も大喜びだ。

 動物性たんぱく質が栄養の偏っていた身体に染みわたるぜ。


 よっぽど苦労してるんだなと思っただろうが、同情するなかれ!


 俺は決して食う物に困るほど貧乏という訳ではなく、趣味である写真の為にカメラのレンズを新調したから節約中なだけなのだ。

 ホントだぞ?


 さて、そんなことより食事の続きだ。

 俺はトーストとオムレツを一口ずつ交互に味わいながら、綺麗にたいらげごちそうさまをした。


 リリリリリン!! リリリリリン!!


 ふわっふわのオムレツに満足し、2杯目のコーヒーを飲みながらテレビを見ていると一本の電話が鳴る。


 間違い電話以外は滅多に鳴ることが無いので視線だけ向けて一応誰からかを確認し固まった。


 ディスプレイには産まれた時からの幼馴染であり俺の初恋の女の子『宮園梓弓(あゆみ)』の文字。


 似た名前の誰かかと迷ったが、そもそも俺のアドレス帳には家と親と会社以外は梓弓しか登録されていないから見間違いではなさそうだ。


 電話に伸びる手が一瞬止まるも、意を決して掴みとり通話ボタンを押す。


「ももも、もしもし梓弓!? どどど、どうしたよ久しぶりじゃん。げ、元気にしてたか?」

「あ、うん、私は元気だよ。えと、まこちゃんは元気?」

「お、俺か? 俺は勿論、元気にしてるぞ」

「えへへ、そっか」


 どもりつつ、何年も会ってない者同士がする定番の挨拶を交わす。


 彼女とは高校を卒業して以来7年にもなるが、一度も会っていない。


 俺は大学に進学し、その後、写真館に就職。

 梓弓は海外へと留学し、卒業後はフリーで世界を旅しながら俺と同じく写真を撮っている。


 一応海外で有名な賞を幾つか取っているらしく、梓弓の母親伝いに聞いた。

 俺と同じとか言ったけど雲泥の差だな。


 さて、世界を旅しながらと聞くと一見活発そうに思われがちだが実際はそうでは無い。

 何せこの幼馴染様は気が弱くのほほんとした性格で、虐めてオーラ全開だったりする。

 実際に中・高と虐められていたしな。


 ちなみに俺が虐めに気付いたのは高校に進学してからのこと。

 クラスの女子グループ――同じ中学出身の女がリーダーの――が梓弓を引っ張り、体育館裏に連れて行ったのを目撃したのが切っ掛けだ。


 当然俺は何をしているのかと詰め寄りその場は事無きを得たが、少しして俺も不良グループからの虐めを受け始める。


 こうなった理由は流れ的に想像が付くだろう。

 だから俺は、梓弓に気付かれないよう必死に堪え続けることにした。

 辛かったかと言われれば……まぁ、うん、それなりに。


 母さんが海外へ出張に行き、夕飯を宮園家でお世話になっていた3年の夏休み。

 その日は大好物の唐揚げだったので一心不乱にパクついていたら、急に箸を置いた梓弓に、「パパ、ママ、大事な話があるの。まこちゃんも一緒に聞いてください」と言われ何事かと注目する。


 そして意を決した梓弓から唐突に留学したいと告げられた。


 最初に留学すると聞いた時は俺と梓弓の両親でそれはもう説得したものだ。


 だが、頑として変わらない意思にオジさんとオバさんが折れて梓弓の留学が決定した。


 今思えば梓弓が留学を決意したのは俺も虐められている事を知っていたからかもしれない。

 その理由も。

 梓弓の事だ、それで一緒に居ない方がなんて思ったのだろう。


 一応確信はある。

 空港での別れ際に『まこちゃん、ごめんね』と言われたからだ。


 まぁ結果、日本に帰ってくることも無く、今も世界を飛び回っているのだから良かったと言えるかな。


「……ちゃん」

「…………」

「……い……? ま……ちゃん」

「……」

「も、もう! まこちゃんってば!」

「っ!? えっと……何?」


 やっべぇ。

 梓弓の声聞けたのが嬉しくてつい昔の事思い返してた。


 いや、無理もない。

 会うどころか電話すらしてなかったんだ。


 別に俺から電話するのが恥ずかしいとかじゃなく、時間帯が合わないからってのが理由。

 だから連絡とりたい時はメールですませてた。


「うぅ、何じゃないよもぉ。国際電話って高いんだからちゃんと聞いてよぉ」

「悪い! もう一度だけお願いします」

「うん、じゃあもう一度だけ言うね。……私ね、今度結婚するんだ」

「は? 誰が?」

「私だよ! ちゃんと言ったよね!?」


 ちょっと待て!

 梓弓が結婚!?

 あ、相手は何処のどいつだ!!

 俺の梓弓を誑かしたのは何処の"ピ――――"野郎だ!!

 ひょっとして変な写真取られて脅されてるとかじゃないだろうな!?


「フシュー……フシュー……」

「な、なに、この音? まこちゃん?」


 興奮で我を忘れそうになりながら俺は頭をフル回転させた。


 いや待てよく考えろ、とりあえず深呼吸だスーハースーハー……ひょっとして俺か?

 「私ね、今度結婚するんだ、まこちゃんと」ってことか!!!

 そうかそうだよ、俺としたことがちょっと焦ったじゃないか、ハッハッハッハ。


「いや聞いてた、聞いてたぞ。で? 日取りは何時にするんだ? あぁその前にオジさんとオバさんに挨拶に行かないといけないよな。梓弓は何時帰ってくるんだ? 俺は――」

「ま、まこちゃん!? ちょっと落ち着いて? なんか怖いんだけど。それにボク日本に帰る予定ないよ? あとお父さんとお母さんに挨拶に行くってどういうこと?」

「だから結婚するんだろ? 俺と梓弓が。だったら挨拶に――」

「ふえぇぇぇ!? ど、どどど、どうしてそんな話になっているの!? 私とまこちゃんが結婚!? あ、ああ、有り得ないよ!!」

「ふぁっ……!?」


 有り得ないよ!! ……得ないよ! ……ないよ。……いよ、よ、ょ。


「………」

「まこちゃん大丈夫? 具合悪いなら電話掛け直すね。酷くなる前に病院行くんだよ? じゃあ、またね?」

「………」


 プツッ、ツ――ツ――ツ――


「――――」

「――」

「」



~~~~~~



 梓弓からの電話があった日からすでに2周間が経った。

 あれからの事はあまり良く覚えていない。

 何回か電話が鳴ったけど出る気にならず放置した。


 ふと気付くと電話も鳴らなくなっていた。

 スマホのバッテリーが切れたのだろう。


 充電しなかったのかって?

 通話が終了したあと、新調したレンズを持って何処に行くかも決めず外出したきり家には帰っていないから当然無理。


 今居る場所は何処かの山奥だ。


 桜も完全に散っているので撮るものが無くなったのか、静かな場所で一人になりたかったのか。

 よく覚えていないが、ただただ歩き続けていた。


 食料は既に尽きたが、大学時代アウトドア同好会に入っていたおかげで食べられる草やキノコは色々と知っている。

 川もあったので魚や蟹を捕って食べたりもした。


 更に一周間が過ぎもう自分が何処に居るのかも分からない場所まで来ていた。

 事実上の遭難である。


 しかし何かに吸い寄せられるように森の奥へ奥へと歩を進めていく。


 すると森の中にポッカリ開けた場所が現れた。


 直径100メートル程の空間に大きな桜の木が一本。

 通常の二倍はあろうかというその枝々には鮮やかな桜色ではなく、光を纏った純白の花弁が咲き誇っていた。


 山桜だろうか、しかしここまで神々しいのは見たことがない。


 幻想的な風景にカメラを手に取ったが、視線を液晶ディスプレイに移した瞬間に消えてしまうのではないかと構えるのを止めた。


 それからもっと近くで見たくなり桜を見上げたまま歩き出す。


 ある程度近付くと純白の花弁が一斉に輝きだした。


 桜の木が光に包まれた途端、爆発したように白い光を押し広げ、直径100メートルの空間を覆い尽くす。


「――ッ!?」


 あまりの眩しさに手で顔を覆うが、突然の浮遊感に驚き眼を開くと視界が180度入れ替わっていた。


 先程まで光輝いていた純白の桜の木は足元にあり、俺の元から遠ざかっていく。

 いや違う、俺が桜の木から離れているのだ。


 その事に気付き視線を周囲に向けると岩壁に囲まれており、俺は奈落の底へと落ちて行く途中だった。


 意味が分からず思考が停止する中、脳裏に浮かぶ『死』という一文字。


(死にたくない! 死にたくない! 死にたくない!)


 恐怖からか声が出ず、心の中で何度も繰り返し呟いた。


 必死に手足をバタつかせるも、落下速度は変わらないし何かを掴むこともできない。


 顔を亀裂の奥先に向けると青白く光る何かが目に入る。

 恐らく苔や茸が発光しているのだろう。


 俺は地面が近いことを理解し絶望した。


 ドグシャッ!


 幸か不幸か最後の最後で腕が岩に当たり、体の向きが変わった為に仰向けの状態で地面に衝突。

 肋骨は折れ、肺も潰れ、口からは大量の血が溢れだした。


 呼吸ができず薄れゆく意識の中、頭を駆け巡ったのは大好きな幼馴染との楽しい日々。


 そして最後に聞いた『有り得ないよ!!』という大好きだった幼馴染の声。


 何処とも知れない山奥で、




 ――――俺は死んだ。




【皆様はじめまして】

人生初の小説なので、文章や構成など、とにかく読みにくかったと思います。

なので此処はこう表現したらとか、この文章はどういうことなの? などありましたら教えて下さい。

更新は遅いですが、次話以降もよろしくお願いします。


第5話からエリートを目指す決意をしますので、それまではのんびりお付き合い下さい。

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