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「…」


「…」


「…おい、ヤス。」


「サーセン…」


浮気調査はただの惚気に終わり、帰路についていたのだが、どこかのお約束のようにヤスの足もとに何だかよくわからん模様が浮かび上がり、光った。パニックになったらしいヤスは近くにいた私にあろうことか抱き付き、押し倒し、異世界に来ていた。


「…まぁ、来てしまったのは仕方がないか…おい、ヤス?」


「あ、あの、探偵さん。」


「ん?」


「ま、まさかとは思いますけど…その、探偵さんは男、ですよね?」


「いや?女だが?」


隠す必要はないので素直に答えるとヤスの顔は見る見るうちに青くなり、そしてなぜか、うわああああああああ!と羞恥にのたうちまわるヤスは顔を真っ赤にしてゴロゴロと地面を転がる。

まあ、無理もない。私のような女の胸に顔を埋めていたとなると彼の経歴に傷がつきかねないからな。もっとも、ここは誰もいない静かな森だが。


「…こうなったら、責任取るしか…」


「なにをぶつぶつと言っているんだ。取りあえず食糧確保に行くぞ。」


「探偵さん!」


「んあ?何だ?急に大声出して…」


「俺、幸せにしますから!」


手を握り、キラキラとしたいつものオーラで私を見上げるヤスはそう宣言したが、そのセリフはプロポーズとか大切な人に使うべきだろう。


「何言ってんだ、お前は。そういうのは好きな子にでも言ってやれよ。」


「いや、だって、嫁入り前の若い娘さんに…」


「若いって…24でお前より年上だろ?それにこんな見た目だ、結婚なんて最初から考えてねーよ。私のほうが背が高いからお前が抱き付けば胸が頭の部分に当たるのは仕方がないだろう。」


「で、でも」


「気にすんな。早まって、こんな女の責任は取らなくていい。」


私はそれなりに荒事もしてきた。そういう依頼もなくはない。だが、助手を雇ってからそういう依頼は断ってきた。ヤスはまだ18で未来がある美形だ、割と気に入っている此奴の顔に傷はつけたくなかったからだ。


「…探偵さん。」


「ん?理解したか?」


「いいえ、諦めません。でも、取りあえず保留にしておきます。…その顔の傷とか、どうしてついたんですか。」


「傷?…ヤーさんとかとドンパチやったときとか、潜入捜査をしたときにへましたとか…結構チマチマ怪我してきたからな…。体は服で隠れるんだが奴ら顔というより頭狙ってくるんだよな。」


「そ、そんな…!なんでそんな依頼受けたんですか!?」


「稼ぎがいいから。誰もやりたがらない仕事ばかりだったから、女でも何でもよかったんだとさ。幸い、私は喧嘩もしていたし、武術の心得もそれなりにあったから、できた。お前が助手になってからは止めたがな。」


「??」


「お前の綺麗な顔は私のお気に入りだ。傷などつけさせやしないさ。」


なるべく柔らかく笑うとヤスはあからさまに目を反らしてしまった。

…顔が怖い自覚はあるが、そんなに酷かっただろうか。


「さ、ヤス。取りあえず食糧確保だ、行くぞ。」


「…っは!待ってくださいよ、悠莉さん!」


焦った声が私の名前を呼んだことにその時は気づくことはなかった。

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