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私は探偵だ。あまり稼いではいないけれど、助手を雇えるくらいは仕事を貰える。
「おい、ヤス!仕事だ。」
「合点!…って、ヤスって呼ばないでくれません?」
助手の男、安浦霧生(通称ヤス)は私には勿体無いほどに有能な美形だ。なんでも、ハードボイルドな探偵映画を見て憧れて近くにあった私の事務所に体ひとつで転がり込んで来たのだとか。
「何でだよ?あだ名としては普通だろ?」
「だって!犯人はヤスとか、有名な言葉と被って嫌なんすよ!」
ああ、何か聞いたことあるフレーズだな。元ネタは知らないが、主人公の相棒が犯人だったとかいうやつだったか。
「じゃあ、私のあだ名を言ってみろ。」
「…俺、探偵さんの名前、知らないッス。」
「あ?言ったろ?探偵だって。」
「…サガサダ?…えっ?」
慌て初日に渡した名刺を見るヤス。そこには私立探偵事務所経営者、探偵と書いてある。
「しゃ、洒落じゃなかったんですか。」
「もちろん。親もこの名字のせいで探偵、探偵と呼ばれて勘違いされていたからいっそのこと私は探偵になったということだ。」
「…名前は何て言うんです?」
「?なんでお前が呼ぶことのない方を教えねばならんのだ?」
「ひでぇ!いいじゃないすか、別に、教えてくれても。あ、それともキラキラネーム?」
「いや、キラキラネームではないが…まあ、いいか。悠莉だ。サガサダユウリ。」
「ふむ、普通ッスね。」
「お前は私に何を求めているんだ…」
「え?そうですね、女っぽい名前とか、キラキラネームとか?」
一応説明するが、私は女だ。ヤスは背が高く、顔が傷だらけの強面と言う私を初めから男だと思い込んでいる。口調も相まってか同居しているにも関わらず気づかない。
もう、いっその事いつばれるか友人たちと賭けでもしようかと考えているほどに鈍い。
「…まあ、いい。今回は浮気調査だ。」
「えー、またっすか。派手な事件とかをこう、ズバッと解決したいっすねぇ。」
「残念ながら、ここには死神バーローもじっちゃんの名に懸ける青年も説明終了してくれる団体もいないんだ。そも、そういう事件は警察でないと捜査できやしない。我々は諍いになる前に解決してやるか、猫や犬を探すしかないのさ。」
「ちぇー…」
そして、今日も今日とて探偵業に励むのである。




