五話 今年はサンタがやって来る
唐突なことに、明日はクリスマスである。
多くの子供たちにとって、クリスマスの朝に枕元に置かれているサンタさんからのプレゼントは非常に楽しみなものであろうと思う――のだが、私はそうではなかった。
ひとつ前の春に今住んでいる洋館にやって来るまで祖父の元で育てられた私は、わずか5歳にして祖父の失敗によりサンタの正体を知ってしまった上、毎年渡されるプレゼントがいちいち説教くさくて少しも嬉しくなかった。
私自身はクリスマスのプレゼントに良い思い出はないのだが、子供には夢を見る権利があるはずで、「サンタからのプレゼント」の慣習は続いて欲しいと思っていたりする。
……朝食の時のこと。
「今年はサンタさん、来てくれないかなぁ」
クー子がトーストにジャムを塗りながら呟いた。それに対して、
「なんでウチには来ないんだろうな、サンタ」と、サラが乗っかって。
「毎年楽しみにしてるのになー。もしやここが山の上だからか?」ワン太も乗っかって。
「ほづみはともかく、みんな良い子にしてますし、枕元に靴下も用意してるのにどうしてでしょうね」ユキが続いた。(一部に気に障る言葉があったが無視する)
……あれ?
「みんな、もしかしてサンタのこと信じてる?」
「信じてるって、何がですか?」
ユキにきょとんとした顔で返され、確信した。
「……いや、なんでもないわ」
こいつら……本当に信じてやがる……。
「ところで、みんな」
ユキがみんなに呼びかけた。
「もうすぐ今年も終わってしまいますから、大掃除を終わらせないといけません。今日はみんなで館の掃除をしましょうね」
私は席を立った。
「ちょっと、用事を思い出したので」
「嘘を吐かないでください、ほづみ。怠け者のあなたにも、今日は仕事してもらいますよ」
「違うの。私には、真実を知る者としての義務があるのよ!」
……そして。
私はさっさと館から逃げ出て、箒でひとっ飛びで町に下りた。
――みんなへのプレゼントを買いに出かけたのだ。
時は流れて、夜中。
私はばっちりサンタ服に身を包んで、プレゼントの入った袋を背負い、真っ暗な館の廊下を歩いていた。
「そーっと、そーっと……」
まずは、ユキの部屋。
「飾り気のないユキには、と」
枕元の靴下に入れたのは、ピンク色のリボン。すごく可愛らしいやつ。
「……ま、絶対つけてくれないと思うけど」
さて、次はクー子の部屋。
自室に引きこもってばかりいるクー子が、普段何をしているのか、私は知っていた。
「新しいノートをあげよう。これで、恥ずかしいポエムをいっぱい書いてくださいな」
実はこの間、ワン太と一緒にクー子の部屋に忍び込んで遊んでいたところ、クー子の書いたポエム集を偶然見つけてしまったのだ。
続いて、サラの部屋。
「私、いつもいじめられてるから……。サラが少しでも女の子らしくなりますように」
白ウサギのぬいぐるみをプレゼントしておいた。
「サラがぬいぐるみを抱えてるトコ想像すると……ぷぷっ。似合わないなぁ」
最後に、ワン太の部屋。
「男の子が喜ぶプレゼントって、よくわからないのよね」
無難なモノを選ぼうと考えて買った、てぶくろを置いておいた。
「雪が降ったら、一緒に雪合戦してくれるといいな……」
……これにて全員の部屋にプレゼントを置き終え、本日のミッションは完了。
「ふわぁ……眠い」
これでやっと寝られる。フラフラな足取りで廊下を歩き、自分の部屋を目指した。
しかし、睡魔は強敵で。
私の歩く速度はどんどん遅くなってゾンビのような足取りになって、やがて、
「……ぐう」
ばたりと倒れた。
いやいやこんなところで寝たらイカン、とわかっているのだが、もう動けない。
ぼんやりとした意識で、見た。
――目の前に、本物のサンタがいた。
突然、身体が持ち上げられる感覚。どうやら私はサンタに背負われたらしい。
どこか懐かしい雰囲気のする背中に自分を預けて、運ばれてゆく。
運ばれて……。
目覚めた。朝だった。
私は、自分の部屋のベッドにいた。
「あれ……?」
しかも、枕元にプレゼントが置いてあった。はてなと思いながらも、開けてみる。
中身は――小難しそうな、魔法の教則本。
「……勉強に励めってことですか……」
これは……祖父ですわ。
(続く)