四話 ほづみのイタズラ仲間
ユキに頼まれて買い物に出かけた際、スーパーで目にした超高級ブドウジュースに心を奪われ購入してしまい、たっぷり怒られたのが3日前。
私の反省を促すため、そのジュースはユキによって館のどこかにしまわれた――のだが。
本日、午後1時のことだった。
館の同居妖怪のワン太と一緒に絵を描いて遊んでいると(ヒマ人二人組)、ペンのインクを切らしてしまったので、二人で物置部屋に行き、新しいペンを探していた。
突然、ワン太が叫んだ。
「おい、ほづみ。こんなところにブドウジュースが!」
見ると、先日隠されてしまったはずのジュースが、ワン太に抱えられていた。
「ワン太、すごい!」
二人でそれを持ち、うっとりと眺めた。ペットボトルではなく、ビンに入っているあたり、いかにも高級感が漂っている。
「美味しそうねぇ……はやく飲みたい」
「ユキはいつになったら飲ませてくれるんだろうな……」
「……ねぇ、ワン太」
――魔が差したのだ。ほんの、出来心だったのだ。
「……ちょっとだけ、飲んじゃわない?」
そのまま私の自室に行き、コップを持ってきて、2人でこっそり試飲することになった。
「よーし、注ぐぞー」
嬉しそうに尻尾を振りながら、ワン太がビンを握った、
瞬間、ビンが砕けた。
「…………」
「…………なにやってるのよ――――――――っ!?」
「やべぇ、テンション上がって力んじまったぁ!!」
頭が真っ白になって、床に散らばったビンの破片とジュースの水たまりを愕然と眺めて、その後二人で顔を見合わせた。
「どうしよう……ほづみ、壊れたモノを直す魔法とか知らないか?」
「そんなの、知らないよ……どうしよう……」
「正直に謝りに行くか……? それとも、隠すか……?」
「かく……とりあえず掃除して、その後考えましょう。事が露見するまで、時間はあるわ」
午後3時、おやつの時間がやってきた。
私、ワン太、クー子、サラ、みんな居間に集合し、ユキが本日のお菓子、ドーナッツを運んでくる。穏やかないつもの光景。私とワン太も時間の経過と共に落ち着いてきていた。
――落ち着いた気持ちを吹っ飛ばしたのは、サラの発言だった。
「なぁ、ユキ。この前ほづみが買ってきたジュース、まだ飲まないのか?」
「ぶっ!?」
驚きすぎて口からドーナッツが飛び出しかけた。
そして、こんな時に限ってユキは温かな笑顔を浮かべて、
「そうですねぇ。……まぁ、だいぶ経ちましたし、そろそろいいでしょう」
……アカン。これはアカン。
「あれ? どうしましたかほづみ。ちっとも喜ばないようですが」
「……う、うん。嬉しいんだけどね、勝手に買ってきたことには反省してるわけだし、素直に喜べなくって……」
「あら、ほづみに似合わず真面目ですね。いいんですよ、喜んでも」
「は、ははは……」
苦笑いしか出てこない。チラリと隣を見ると、ワン太の顔も蒼白だった。
「では、物置部屋にしまっておいたので、取ってきますね。待っててください」
ユキは居間を出ていった。
……どうしよう。私とワン太はわなわなと震えた。
「楽しみだなぁ」と、ニコニコして呟くのはクー子。
「すごく高かったからな。ほづみが持ってきたレシート見た時はびっくりしたぞ」とサラ。
そして――
――私とワン太は、同時に土下座した。
「「すみませんでした――っ!!」」
「……へ?」
何事かと、不思議そうな顔を向けるサラとクー子。
「私たち、こっそり飲もうとしてしまったんです!」
「そしたらオレが、誤ってビンを割ってしまいました!」
沈黙が流れた。……長い長い沈黙の後、
「……お前ら……すみませんで済むならケーサツいらねーよ……」
サラの恐ろしい声が頭上から振りかけられた。これはキレてる。絶対キレてる。見えないが、クー子もこちらを睨みつけてる気がする。きっともうすぐ、ユキが戻ってくる。
「ごめんなさい……ごめんなざいい……っ」
怖くて、申し訳なくて、私たち二人はいつの間にか泣いていた。
「ずびばぜん……ずびばぜん……っ」
涙をぼろぼろこぼして、鼻水をだらだら垂らして泣いた。
……そんな私たちにサラは、はぁ、と呆れたため息を吐いて。
「もう、泣くなよ……わかった、ワタシはいいから」
続けてクー子も、
「わたしも、別に気にしないから。泣かないで」
そう言って、ハンカチを渡してくれた。
「うっ……ううっ……ごめんなさい」
私とワン太はぐちゃぐちゃになった互いの顔を拭いて、頭を垂れた。
そこにユキが戻ってきて、
「取ってきましたよー! ……あれ? どうして二人は泣いてるんですか?」
超高級ブドウジュースのビンを抱えて、不思議そうな顔をするユキに、サラが、
「ん? 物置のジュースは、ほづみとワン太が割ってしまったと聞いたんだが……」
「……それってもしかして、わたしが物置の奥にしまっていた葡萄ワインじゃないですか? ずっと前に賞味期限切れて、放置してたやつで」
「えええっ!?」
(続く)