三話 抜き打ち! 自室チェック
寒いはずの冬の朝。あまりの暑苦しさで目が覚めた。
「ん……んぅ……」
暑い。いつもなら寒くて自力で布団から出られず、ユキが起こしに来るのを待っているというのに。というか何なのだ、この拘束感は。まるで誰かに抱きしめられているような、
私は抱きしめられていた。
「……ちょっ、ダレ!?」
「ん~好きだぁ~っ」
抱き枕にされていた。手足でがっちりとホールドされていた。
じたばた暴れて何者かを引き剥がそうとする。なかなか解放されず、果てにはグーパンを叩きこんで引き剥がし、相手の顔を見ると。
館の同居妖怪のひとり、吸血鬼のサラだった。
「サラじゃないの! 何やってんの!」
「……添い寝だけど」
こいつ……しれっと言いやがる。
「いつベッドに入ってきた!」
「いや、なかなか気づかないもんだな。けっこう無理やり入り込んだし、入った後にイロイロしたのに、全然起きる気配なかったもん」
「イロイロって何よ……!」
自分で自分のからだを抱きしめながら震えた。サラは変態なのだ。危険な存在なのだ。
「まぁまぁ、気にすんなって。……にしてもお前の部屋、散らかってるなー」
「ほっときなさいよ。あんまりじろじろ見るな」
「ん? なんか見せたくないもんでもあんのか?」
「……別にないけど」
「本当かぁ~?」
サラは物珍しそうな顔で、私の自室の中をきょろきょろと見回し始めた。
「机の引き出しの中とか、怪しいな」
「や、やめなさいって……」
私の制止も聞かず、引き出しを開けて中を物色し始めた。好奇心の塊みたいな目をして。
「なんだコレ?」
取り出したのは、一本のチョーク。私に差し向けて、説明を求めてきた。
「……それで、何か描いてみなさいな」
サラは躊躇することもなく、紙とかじゃなく私の部屋の壁にリンゴの絵を描いた。
すると。
描かれたリンゴが、実体化して壁からポンっと出てきた。
「うぉ、すげぇ! 本物のリンゴになった!」
「描いたイラストを実体化するチョークね。ただ、それは安物だから――」
サラはリンゴにかぶりついた。
「――安物だから、実体化するのは見た目だけなのよね」
「硬え! ニセモノじゃないか! 自慢の吸血牙が折れるトコだったぞ!」
「人の話を最後まで聴かないから……」
「他には、何か面白いモノ入ってないかな」
サラは再び引き出しをがさごそやり始めた。
「こ、これはッ!!」
取り出したのは――男性アイドルの写真集。
「ぎゃーーーーっ!」
思わず悲鳴を上げてしまった。
「なんだなんだ? ほづみお前、このアイドルにラブなのか?」
「ち、ちがうわよっ! なんでそんなものが入ってたのかわからないわね! 後で捨てておかないとね!」
慌ててサラの手から奪い取り、背中に回した。
実際のところ、私はそのアイドルのファンだ。写真集は、このまえ山を下りて町に買い物に出かけた時に偶然見つけてしまい、思わず買ってしまったのだ。
「ふぅーん……。まぁ、今のところはそれでいいさ。さて、次の面白いモノは、と――」
(省略)
再び引き出しを物色しようとするサラを、私は全力をもって止めさせた。少々見苦しく、私のエレガントなイメージが崩れかねないので省略とさせてもらった。
サラの自室にやって来た。
「たっぷりと検分させてもらうわよ」
ここに来た理由は、一言で仕返しである。恥ずかしいものを見つけて辱めてやるのだ。
「どうぞどうぞ。ワタシの自慢の部屋をゆっくりと見ていってくれよ」
気に入らないのはサラの態度。少しも困った様子がないのだ。それだけ、所有物に自信があるということなのか。
部屋に入り、まずは奥にある机へと向かう。
机の上には、一般に「エロ本」と呼ばれる雑誌が置かれていた。
「こんなに堂々と――――ッ!?」
「暇なときに読んでるからな。机の上に置いておいたほうがいいだろ」
「いや、私がこの部屋に来る前に隠しとくなりしなさいよ!」
「ん? 隠すもんでもないだろ」
「あんたには羞恥というものが存在しないのか……」
「読みたいなら貸すけど? ちゃんと返してくれるなら」
「いらないわよっ!」
ぎゃーすか騒いでいると、たまたまユキが近くを通りかかった。
「ほづみ、いいところに。町に買い物に行くのを頼んでいいですか?」
「あ、うん……わかったわ。後で行ってくる」
箒に乗って空を飛べる私は容易に町に下りられるので、買い物係になっているのだ。
サラが平然と言った。
「ついでにワタシのエロ本も頼む」
「誰が買ってくるかっ!」
(続く)