表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四神獣記  作者: かふぇいん
赤の国の章
94/199

再会

 酒場は大通りに面しているが、都を囲う城壁にもほど近い。飛びだした先は無差別な騒乱で溢れていて、剣戟(けんげき)の音が建物の間をこだましていた。ファンはすぐに上を見あげ、町の上空へと火の粉を落とす(ちん)の獣人を捉えた。まっすぐにそちらへ飛びあがる。飛び方など知らないが、ただそちらへと向かう意思だけは確かに持って、強く地面を蹴った。

 踊り子は火を払い落し、(すす)のついた顔でこちらを見た。髪も息も乱れ、睨む目だけが鋭く、こちらに輝いた。羽根の色と同じように妖しく、だが、怒りに満ちた目だ。

「その輝く羽根も、何でも掴む腕も、曲がらない意志も何もかもが(いと)わしかった……」

 上空で対峙した踊り子は目こそこちらを向いていたが、彼女が見ているのは自分ではなかった。この朱雀の羽根を通して、別のものを見ている。

「その手が掴むものは、すべて私が得ようとしていたものなのに。いつも横から(さら)い、得るのはあっち」

 ファンは眉を寄せて、怪訝に踊り子を見る。ぶつぶつと呟きながら、彼女は一度羽ばたき、焼けて減った毒羽根を元通りに揃えた。

「あんたさえいなければ、私はもっと愛された。半分ずつ与えられるものまであんたが全部持っていった。あんたがいなければ、いなくなれば、いなくなれば……」

 踊り子の羽音に交じって、呪いの言葉がこちらに届く。

「いなくなれ、いなくなれ、いなくなれ」

 伏せられた視線が、再びこちらに戻る。押し寄せる怨嗟(えんさ)に、背筋が強張る。

「死ね」

 毒羽根が矢のようにこちらにいくつも向かってくる。ファンは振り払うように、火の残る腕で必死にそれを払う。羽根は羽毛を通らず、落ちる途中で燃えつきた。踊り子に視線を戻し、凍りついた。宙を舞う、無数の毒羽根。それは雨のように、広く下で暴れ、惑う人々に無差別に降り注ぐ。

「やめろ!」

 ファンは火を体の周りに広げる。演舞のように空を踏み回り、ファンは届く範囲の毒羽根を焼くが、舞に関しては毒羽根の主の方がうわてだ。下を見れば惨憺(さんたん)たる場景。足元で広がる叫喚(きょうかん)に、ファンは宙で立ち尽くす。

「やめろよ!」

 その叫びと同時、空を切る音とともに閃光が尾を引いて、踊り子の片方の翼を貫いた。射ぬかれた傷からは紅炎があがり、踊り子の体が傾ぐ。突き刺さる矢羽が炎と同じく赤く輝き、踊り子は射られた(はる)か後方を憎悪のこもった目で睨んだ。王宮のある方角。

「南王様?」

 その人はまるで火の玉のように明るく鮮やかに、そして、まっすぐこちらへくる。とたんに、ファンの体の周りの火は小さくなり、花火のように瞬いた。体の内の朱雀の力が不安定に揺れる。

(落ちる!)

 体の火は翼や朱雀たるそれらを伴って消えた。ファンは足場を失って、ばたばたともがきながら下に落下する。幸い、翼のあるうちに少し降りていたおかげで、落ちたところはそれほど高い場所ではない。家の屋根の上を転がって、瓦の上で踏ん張って止まる。顔を上げると、そこには弓を手に矢を携える、南王その人の姿があった。

「ファン君、ここは任せて、その子のところへ行ってあげなさい」

 武具を纏い、朱雀の力を具現させた南王は、勇ましく鮮麗に鴆の昇化に対峙している。毅然(きぜん)とした表情に、どこか悲しげな色を混ぜて、南王は踊り子に語りかける。

「やっぱり、あなただったのね、グィファ」

「その名前で呼ぶな!」

 踊り子は叫び、無造作に翼に刺さる弓を抜いた。ファンは上空の二人を見あげ、見比べる。よく似た顔の二人だ。やはり、踊り子は王が言っていた彼女の妹なのだろう。

「早く行きなさい」

 南王の言葉に、ファンは屋根から飛び降り、再び酒場の中へと駆けこんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ