夜の始まり
二人が王宮に帰り、事の次第を伝えると、南王はその労をねぎらった。夕餉まで部屋で休むように勧められ、二人は荷物を下ろし、息をついた。夕飯までのつなぎにと、出された果物をつまみながら、シンが尋ねる。
「羽根は落としてないか?」
「はい、大丈夫です。今日は身につけないでいましたから」
「それならいい。明日必要になるぞ、朝一番に行って焼いてしまおう」
ファンは頷き、荷物の中の羽根を確かめた。油紙にくるんだら燃えてしまう気がして、別の端切れに包んでおいたのだった。動いたりしたので、傷んでないか心配だったが、少しの破れもなく羽根はつやつやとしていた。
「シャオ、戻って来なかったな……」
無事に帰れていればいいのだけれど。そう思って窓の方を見やると、夕日の名残に残った赤みが西の空から消えるところだった。上の空は、街の明かりに照らされて他に比べて白く照らされている。それを眺めていると、寝台に腰かけていたシンが突然、何かに気付いたように立ち上がる。
「何か、焼けた臭いがしないか? ファン」
「夕餉の匂いとかじゃなくてですか?」
「ああ。木や何かが焼ける臭いだ、火事か?」
シンも窓の方へやってきて、身を乗り出して町を見る。ファンも窓に腰かけるようにして、同じ方を見やって、同時に驚愕した。
町の向こう、あの集落のあたりで大きく火の手が上がっている。次いで、廊下の方から誰かがこちらへ駆けて来て、扉の前で足音は止まった。扉を叩く音は無く、緊張した声が張られる。
「東都よりの御客人は、御在室だろうか!」
「ああ!」
シンがそう答えて返すと、勢いよく扉が開き、慌てた様子の王の従者が一人立っていた。息を切らし、こちらを見て一礼する。
「お休みのところ失礼する。南王様が、至急玉座の方へお越しくださるようにとのこと!」
「何があった?」
「まだ混乱していて何も。とにかくお早くお越し願う! 我々も何が起こったのか分からぬのだ」
従者は再び一礼すると、また元来た方へと走っていってしまった。二人は顔を見合わせ、頷く。
「行くぞ、ファン!」
シンが先に駆けだし、ファンは手にしていた朱雀羽根を急いで懐にしまいこむと、その後を追った。