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四神獣記  作者: かふぇいん
赤の国の章
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集落

 確認を兼ねて、と朝餉は南王に招かれた。南は採れるものが多いのだろう、食事すら色とりどりに見える。これこれが体にいい、薬効があると聞きながら食事をしてきたファンにとっては、見た目に華のある膳は新しかった。

 その後、すぐに二人は僅かな荷だけをもって、壁の裂け目の方へ向かった。

「シャオに――友達に会えれば一番早いと思うんですけど……」

「その子は羽根のことについて知ってるのか? もし知らないなら、身内から知らせてやったほうがいい、命のためとはいえ財を奪うようなものだからな、外の者から言われれば少なからず恨む」

「そうですね。……あの踊り子を恩人だと言ってましたから、知れば辛いと思います」

 どこかで会うだろうか、と見回しながら歩いたが、外の集落に向かう道の間ではシャオの姿を見かけなかった。またどこかに花飾りを売りに行っているのだろう。壁の裂け目をくぐると、シンが表情を険しくした。

「ここまで酷いとは。……ファン、昨日話していたその子の父親のところへ案内してくれ、なるべく広く話を通せる者と話がしたい」

「はい! 確か、こっちのほうに」

 布張りの家の続く中、昨日シャオに案内された道を辿る。その家が見えるところまで来ると、中から水桶(みずおけ)を抱えたシャオの父親が出てきた。額に浮かぶ汗は、この暑さのせいではないだろう。染めをやっているだろう腕は元の肌の色が解らぬほどに毒の色をしていた。

「おじさん! おれです、昨日の――シャオの友達です!」

 シャオの父親はこちらに振り返って、僅かにその表情を緩ませた。

「ああ、君か。そちらの方は?」

「この子の師で、シンという。南王陛下の命で、この集落の病人の治癒にあたるよう言い付かってきた。病の深浅(しんせん)に関わらず、羽根に触れた者を集めて貰えないだろうか」

 シャオの父はこちらに歩み寄って、深々と一礼した。

「ありがとうございます。私は、シャオファの父で、ダーシュと言います。……やはりあの羽根が毒ですか」

「ああ、間違いなく。南王もこの羽根については広く知られぬようにと計らってくださるそうだ。ここの人々には、速やかに治療を受けたうえで、毒羽根を全て処分していただきたい。ここの長の方に、そう話を通してもらえないか」

 その言葉に、シャオの父、ダーシュは表情を険しくして応えた。

「ここに長は居りません。元より力なき民の集まり、この羽根のことについても意見が割れておるのです。ですが、南王様が取り計らってくださると言うならば、私が皆を説得いたしましょう。一日、一日待ってくださいませんか。明日には羽根を処分できるよう、支度を整えておきます」

 対して、シンも厳しい顔をして、応える。

「しかし、病については一刻を争う。病人だけは今日中に見せて貰えないだろうか」

「ならば、そちらはすぐに話を回しましょう。うちを使ってください、狭いですがここのほぼ真ん中にあります、人は集めやすいでしょう」

「感謝する。それにはまず、ダーシュさん、貴方から治さなければ。ファン、病人を集めるのを手伝ってくれ。既に動けない者はこちらから向かう」

 ダーシュの治療が終わるのを待って、ファンはダーシュについて家を出た。腕から完全に紫斑が消えると、彼はすっかりと調子を取り戻したようだった。

「そういえば、君に名前を聞いていなかった」

「ファンと言います。病気、治ってよかったですね」

「君のおかげだ。しかも、昨日はシャオが世話になったようだね、ありがとう。礼を言うよ」

 ダーシュは嬉しそうに笑い、健康そうに変わった右手を差し出す。ファンもその手を取って、しっかりと握手した。彼とともに家々を見回っていると、重病人は多く広がっているが、大体が一つの家で一人に収まっているようだった。染めが難しかったせいだ、とダーシュは言った。その後、倒れる者が出て、広がらぬようにさらに他の者を遠ざけたのだ。

 歩いてしばらくして、ファンはシャオのことを思い出した。今日も社へ行っているのだろうか。

「おじさん、シャオは今日も社ですか?」

「ん? シャオなら、いつも通り飾りを売りに行っているはずだよ。……そうか、(やしろ)に通っていたのか、気にするなと言ってあるんだが」

「定まらないとすごく不安になるんです、おれもそうですから。だから、帰ったらシャオを励ましてやってください。きっと、助かると思うんです」

 そう言うと、ダーシュはわかった、と何度も頷いた。

「そういえば、あの子はあの羽根の踊り子を気に入っていたが……ちゃんと言い聞かせないといけないな」

 ダーシュが呟くのを、ファンは昨日のシャオの様子を思い出しながら聞いた。まだ踊り子がどこまで関係しているのかは知らないが、シャオはきっと少なからず傷つくだろう。

 集落全ての家を巡り、動けない者の治療が終わると、辺りは暮れかけていた。また陽山の向こうへと太陽が落ちていく。

「羽根の件、よろしく頼む」

「羽根を手放せない染め手も、今回の治療を思えば断れんでしょう。明日の朝までにどこかに穴を掘って集めておきます」

 ダーシュとはそこで別れたが、都の風水が為される前に、とファンとシンが王宮へ戻る頃になっても、シャオは集落に帰ってこなかった。

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